全国的に人気な「まるごとみかん大福」。この大福を全国でヒットさせたのが、愛媛・今治市の和菓子店だ。その若き3代目が新たなオリジナル菓子を発売するという。1年以上にわたる商品開発の奮闘を追った。
初代、2代目考案のお菓子は店の名物に
穏やかな瀬戸内の海を眺めるひとりの男性。和菓子店・清光堂の3代目・益田寛規さん(28)だ。
清光堂 3代目・益田寛規さん:
人によってはこう見えるしで、色の見方に個人差があって
見る人によって色を変えるという海。この日、彼の目にはどんなふうに映ったのだろうか。
この記事の画像(25枚)今治市に店を構える「清光堂」は創業70年、家族経営の和菓子店だ。
初代が考案した「椀舟最中」。
さらに、2代目が17年前に発売した愛媛のみかんを丸ごと入れた大福は、それぞれ店の名物となっている。
購入した人:
椀舟とみかん大福を買いました
購入した人:
おいしいです。昔ね。これ(椀舟最中)は50年前に買ったことがあるんですよ。結納のときにね、これを持って行ったんですよ
3代目を継ぐと決めた寛規さんは、先代・先々代に負けないオリジナルの看板商品を生み出したいと考えた。
清光堂 3代目・益田寛規さん:
両親の築き上げてきたものに甘え続けてたら駄目だと思いますので、そこから出て、自分の力でこのお店を続けていけるように
商品開発でこだわるのは味だけではない
2022年3月、東京の和菓子作家・坂本紫穗さんとタッグを組んだ。坂本さんは、大手和菓子メーカーからも商品開発のアイデアを求められる売れっ子だ。
2021年9月に始まった新作の和菓子作り。坂本さんのイメージを寛規さんが具体化し、3つのオリジナル菓子を作り上げる。
これまで、材料や色合いを変えながら半年にわたって試行錯誤を重ねてきた。
この日は、6回目のリモート会議が行われた。
和菓子作家・坂本紫穗さん:
結構「離水」が激しいですね。これ、透青。袋に水がたまっちゃってる
「離水」とは水分が染み出てしまう現象のことだ。商品開発でこだわるのは、味だけではない。
和菓子作家・坂本紫穗さん:
色はきれいだと思いました
清光堂 3代目・益田寛規さん:
ありがとうございます
和菓子作家・坂本紫穗さん:
あとは弾力。食べ応えの部分を何で出すかかな。下との(食感の)差が今大きいんですよね。この白の部分と青の部分。ここがもうちょっと一体化する方が、レベルが上がるので
益田さんは坂本さんのアドバイスを漏らさず書き留めた。
昔から店を継ごうと考えていたわけではない
オンライン会議から1週間、休業日の厨房に寛規さんの姿があった。
清光堂 3代目・益田寛規さん:
前回言われたときは、離水してしまっていたのと、食感ですとかグラデーションですとか、そういったところを指摘されましたので、そこの部分の改善を今しているところです
坂本さんのアドバイスをもとにお菓子を作り直して、毎週、試作品を送った。
現在28歳の寛規さん、実は昔から店を継ごうと考えていたわけではない。
ーー家業を継ぐのに抵抗は?
清光堂 3代目・益田寛規さん:
いや、ありましたよ。大変な仕事だっていうのも手伝っていた時からわかっていたし。あと当時、反抗期っていうのもあったと思うんですけど、なかなか、この仕事を手伝うとか継ぐっていうのは当時は考えていなかったですね
高校卒業後は関西の大学に進学。しかし在学中に、父親のビルさんが腰を痛めて厨房に立てなくなったと連絡が来た。
清光堂 3代目・益田寛規さん:
「自分しかいないな」って思いましたね
店を継ぐ決心をした寛規さんは大学を中退、愛媛の専門学校に入り、和菓子作りを猛勉強した。
清光堂 3代目・益田寛規さん:
うまくできてるかな
試作した和菓子は、先代にも確かめてもらう。
父・ビルさん:
色、いいね
母・智恵さん:
前回のね、食感という点でも克服できていると思います
気になる坂本さんの評価は…。
和菓子作家・坂本紫穗さん:
離水もしてない。前回よりも離水大丈夫です。もう少しインパクトが欲しいかなって気もしますね。現状も全然おいしいにはおいしいんですけど、もう少し酸っぱさがあってもいいかもしれない
完成まで、もう少しだ。
地元で見てきた風景や愛されてきたものをお菓子に
5月、ついにオリジナル和菓子ができあがった。
テレビ愛媛・鈴木瑠梨アナウンサー:
やっとお菓子が完成したとうかがったのですが
清光堂 3代目・益田寛規さん:
いやぁ、完成しました
菓銘「透青」。砥部町の七折小梅で風味をつけた葛ようかんと、白あんのようかんの2層構造の和菓子だ。
青から白へのグラデーションで、地元・今治の志島ヶ原の海を表現している。
テレビ愛媛・鈴木瑠梨アナウンサー:
梅の酸味が口の中に広がります。ぷるんと滑らかな舌触りですね。下の白あんの部分は上品な甘みでおいしいです
こちらは、同じく発売する「月影」。宇和島産のきぬ青のりを生地に練りこんだどらやきで、清光堂特製の粒あんと菰渕の藻塩がきいたバタークリームがたっぷり入っている。
そして、もうひとつは「雪の下」。梅園で有名な地元・綱敷天満宮に雪が積もった光景をイメージしている。
清光堂 3代目・益田寛規さん:
地元で見てきた風景ですとか、地元に愛されたものの味をうまく表現できてるんじゃないかなって思いますね
これらは「ひる凪」と銘打ったシリーズで販売する。
その後、パッケージのデザインの難航や世界情勢の影響などで発売がずれ込んだが、11月23日、待ちに待った発売の日を迎える。
清光堂 3代目・益田寛規さん:
地元に愛されるような、そして、地元の人たちに誇りに思ってもらえるようなお菓子をこれからも作っていけたらなと思います
若き3代目の挑戦は始まったばかりだ。
(テレビ愛媛)