高齢化や過疎化による、農業の担い手不足に悩む地方自治体。一方で、競技を続けたい選手の環境作りや、セカンドキャリアの形成を模索していたサッカー業界。
そんな両者の課題が結びついて生まれたクラブチームがある。“半農半サッカー”という生き方を選択した、「なでしこ」たちに迫った。

昼は農作業、夕方はサッカー NPO法人が母体のサッカーチーム

何やら手狭な作業場で、仕事をこなす女性たち。手にした段ボールには「魚沼産コシヒカリ」の文字が…。さらに、重さ30キロもある米袋も、なんのそので持ち上げる。そして上着を脱ぐと…その下には背番号が!

新潟県南部の十日町市(とおかまちし)と津南町(つなんまち)を含むこの地域は、雄大な棚田や、魚沼産のコシヒカリでも知られる、日本有数のコメどころ。

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ここに2015年に誕生したのが、女子サッカーチーム「FC越後妻有(えちごつまり)」だ。
母体は、この地域で開催される芸術祭の運営などを担う「NPO法人 越後妻有里山協働機構」。

選手たちは、日中は農作業などをしてNPOの職員として働き、夕方以降に練習をする“農業版”実業団チームなのだ。

FC越後妻有・森希紗 選手:
私はサッカー全然上手じゃないし、代表に選ばれるような選手じゃないんですけど、私がサッカーをやる価値というのが自分で見出していけるんじゃないかなと思ったので、このチームに決めました。

高齢化や過疎化による農業の担い手不足に悩む自治体側と、サッカーを続けたい選手の環境づくりや、働きながら選手がセカンドキャリアを探る場所を求めていた、サッカー界。

そんなお互いの課題が結びついて生まれたのが、FC越後妻有だった。当初選手は、未体験の農業をしながらサッカーをすることに悪戦苦闘だったという。

今では一人でトラクターも乗りこなせるようになるなど、チームにとっても地域にとっても、貴重な戦力となっている。

「毎日が刺激的」地元男性と結婚・子育ても 2部リーグ優勝の躍進

FC越後妻有・新島汐海 選手:
こんな自然の中で育ってきていなかったので、毎日が刺激的で、すごくあっという間に毎日一日一日が過ぎちゃいます。

地元農家・石塚康太さん:
最初は難しいんだろうなというふうに思っていたんですけれど、彼女達も興味を持って仕事に取り組んでくれているので、僕らも助かっています。

地元サポーター・佐藤正志さん:
いや、もう最高です。やっぱりこういう若い人たちが来てくれて、サッカーの練習をやってくれるのは、地域にとってはすごく明るくなりますね。

発足当初からのメンバー、キャプテンの石渡美里(いしわた・みさと)選手は、恩師である大学の先生の紹介でこのチームを知り、入団した。

FC越後妻有・石渡美里 選手:
すごく自然豊かで本当に人が良くて。そういった方々の支えがなければ、本当にこの7年も続けられなかったと思っています。

そんな石渡選手は、この地で出会った男性と3年前に結婚。2022年に男の子を出産した。

こうしたチームや地域の取り組みに賛同し、今では選手も12人に増え、2022年は北信越の2部リーグで優勝。2023年はさらに高みを目指している。

FC越後妻有・元井 淳 監督:
我々が何か一つ考えるきっかけになればうれしいですけれども、我々がやっていることが他の地域で成功するとか、そんな甘い世界でもないと思います。
楽しみながら笑顔でいることが大前提で、自分たちに何ができるかというのは、これからも模索しながら進んでいきたいなと思います。

スポーツが目指す、本当の意味での地域貢献。FC越後妻有の取り組みがどんな広がりを見せるのか。希望の星はさらに輝き続ける。

農作業で体力作り・地域の課題解決 地域に愛される存在の先行モデルか

この話題についてLive News αでは、コミュニティデザイナーでstudio-L(スタジオ・エル)代表の、山崎亮(やまざき・りょう)さんに話を聞いた。

内田嶺衣奈キャスター:
地域の持続的な成長に詳しい山崎さんは、今回の取り組みをどうご覧になりますか?

コミュニティデザイナー・山崎亮さん:
会社の実業団チームというのがスポーツではよくありますが、NPOも法人組織ですし、農業も言ってみれば実業ですから、農業をやりながらサッカーもやるNPO法人のチームという構図は、なるほど言われてみればありえるのだなと感じました。

会社のなかで事務作業などをしていて夕方からサッカーの練習というのもいいですが、そもそも基礎体力を作るような農作業…、重いものを運ぶようなことをしながら、サッカーの練習も業務の一部としてできる。より体力をつけることができるのかなと思いました。

農業とサッカーは、いずれも屋外で行われる時間が多いので、地域の人たちと出会う回数が多くなると思います。きっと顔見知りになりやすい。応援してもらう関係性を構築しやすい気がします。

内田嶺衣奈キャスター:
顔見知りになると、試合を見てみたいと思いますし、サッカーでの活躍を応援したくなりますよね。

コミュニティデザイナー・山崎亮さん:
そうですね。外で作業できる時間が長いというのは、結構大きい気がします。

地域の人と顔を合わせる機会が多くなり、地域の人にとってもかなり選手が身近な存在になってくる。

かつては、“めったに出会えないスポーツ選手を見に行こう!”というふうにして、応援者を増やすという方法もありましたが、最近ではSNSを通じて、選手の日常を共有することなども大切だと言われています。

今回のように地域住民と関係性をきっちり作って、日常的に顔を合わせて、愛される関係性になっていく。これによってチームを応援してもらえるということは、ありうると思います。

内田嶺衣奈キャスター:
そして農業の担い手不足など、選手が地域の課題にしっかりと取り組んでいるという点も、非常に大きいですよね。

コミュニティデザイナー・山崎亮さん:
まさに、この働いている地域が担い手不足だという話もありました。あるいは場所によっては、耕作放棄地や獣害など、課題が多く存在すると思います。

住民たちと一緒に課題解決に取り組むことで絆が深まり、いざサッカーの試合となれば、地域をあげて応援してくれるかもしれません。

今後、地域の課題解決に取り組みながら、逆に地域に応援されるという、クラブチームの先行モデルのようなものになるかという期待があります。

内田嶺衣奈キャスター:
地域の方たちと関係を結び、理解ある職場で働けるというのは、競技に向き合う上で選手たちにもプラスになると思います。

番組で放送したSDGsに関する企画は、「60秒SDGs NEWS」として、TikTokでも手軽に見られるようになりました。是非こちらもチェックしてください。

(「Live News α」2022年11月17日放送分より)

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