繰り返される災害。私たちの住む街には、過去の被災経験を伝え防災につなげるものが数多くある。浸水の深さを示した標示板や、歴史的建造物や仏像にも先人からの防災メッセージが込められていた。

体感するハザードマップ

福島県の阿武隈川流域にある福島市・伊達市・鏡石町の3つの自治体に設置されている標示板。大雨の際に想定される浸水の深さを示している。これは「まるごとまちごとハザードマップ」と呼ばれる取り組みで、私たちが暮らす“まちなか”に防災情報を標示することで、洪水に対する意識を高めてもらおうと国が始めたものだ。

まるごとまちごとハザードマップ
まるごとまちごとハザードマップ
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紙のハザードマップとは違い、想定される水の深さなどがリアルに分かる。避難行動を家族で話し合う際に一つのツールとして活用できる。

約6割がハザードマップを見ていない

2019年の東日本台風災害の直後に福島テレビが行ったアンケートによれば、日頃からハザードマップで災害リスクを確認している人は、わずか43%。約6割は、市町村が公表しているハザードマップを見ていないことになる。

2019年11月実施 福島テレビ×環境・防災研究所
2019年11月実施 福島テレビ×環境・防災研究所

東京大学客員教授・「防災マイスター」の松尾一郎さん:
居場所が、危険か否か分らないと避難に繋がらない。いる場所の洪水・浸水・土砂災害の危険性を、日ごろから知っておく取り組みが重要だと思います

“先人の知恵”を辿る防災学習ツアー

私たちが暮らす地域に災害の爪痕を標示し、防災意識の向上に役立ててもらう取り組みは、昔から行われてきた。そのような“先人の知恵”を辿るツアーが福島県会津地方で行われた。

防災学習ツアー
防災学習ツアー

福島県から新潟県に流れる一級河川の阿賀川。流域に恵みをもたらしてきた一方、氾濫を繰り返し恐れられてきた。2022年10月、その阿賀川流域を舞台に防災学習ツアーが開催された。
企画したのは、郷土史研究家で防災士の石田明夫さん。目的地の一つは、会津坂下町の上宇内薬師堂。

郷土史研究家・石田明夫さん:
坂下の薬師のお堂の柱の半分まで、水が浸かったという記録があって、これがそうです

浸水の跡を説明する石田明夫さん
浸水の跡を説明する石田明夫さん

残された資料によると、大雨で被災したのは1518年の戦国時代。その後、再建された際に浸水被害を受けた2本の柱を残し、水害の恐ろしさを伝えようとしたと考えられている。
さらに、本尊の木造薬師如来坐像。平安時代中期の作とされ、国の重要文化財に指定されているが、当初の姿は現在より少し大きかったことが分かっている。

大雨で被災した上宇内薬師堂
大雨で被災した上宇内薬師堂

郷土史研究家・石田明夫さん:
解体修理した時に分かったんですけど、下の部分が比率として短い。下の部分が、水害かなんかで腐ってしまったんじゃないか。それで今の部分が除去した姿になったんじゃないかと推定されています

本尊の木造薬師如来坐像
本尊の木造薬師如来坐像

水害の恐ろしさを後世へ

本堂や本尊の人の目に触れる場所に水害の痕跡を残したのは、先人の知恵があったとみられている。

郷土史研究家・石田明夫さん:
戦国時代の人も水害の恐ろしさを分かっておりましたので、それを後世に忘れないように伝えていくという昔の人の思いが感じられます

ツアーを企画 郷土史研究家・石田明夫さん
ツアーを企画 郷土史研究家・石田明夫さん

ツアーに参加した人は…

参加者:
この道路はよく通っているんだけど、(戦国時代に)まさかこういう状態になっているとは、想像していなかったもんですから、大変参考になりました
参加者:
今まで何も考えずに、そこら辺を眺めるだけだったんだけど、これからは防災を洪水とか考えなくてはいけないと思いました

参加者の防災意識にも変化
参加者の防災意識にも変化

ツアーを企画した石田さんは、歴史を学ぶことで防災につなげてほしいと考えている。

郷土史研究家・石田明夫さん:
古い時代の災害の記録を、もう一度再認識してほしいということですね。いつ災害が起こるかもわかりませんので、そういうのを頭の隅にでも覚えていただけると、役に立つんじゃないかなと思います

「災害の記録を再認識してほしい」
「災害の記録を再認識してほしい」

地域の歴史を知ることが防災へ

防災のプロ東京大学客員教授・「防災マイスター」の松尾一郎さんは「災害は地域で起こる」と繰り返し強調してきた。

東京大学客員教授・「防災マイスター」の松尾一郎さん:
昔の人々は、後世の子孫つまり私たちに「こういうことがあったよ」「こうすれば命が助かるよ」というのを、こういった石碑や消えない印で伝えている。いわば、先人からの私たちへの防災メッセージです。街中で浸水深や津波の到達地点を示して、どこまで逃げればいいのか日常生活の中に入れていくことが重要だと思います。
いま私が防災アドバイザーを務めている東京都足立区では、2年前から街中の学校や電柱の約300カ所に河川が氾濫した際の想定浸水深を示す看板を設置しています。これはまさに街中でのリアルハザードマップ。看板を見かけることで「ここまで来るんだ」と記憶に入る。どこに逃げればいいか、災害の時にいきなり考えるのは無理。日ごろから見て考える、こういう仕組みが重要だと思います

防災のプロ 防災マイスター松尾一郎氏
防災のプロ 防災マイスター松尾一郎氏

身近にある被災の記憶を知ることで、自分事としてとらえることができ防災につなげることがきるかもしれない。災害への備えは、モノだけではなく意識も重要なようだ。

福島テレビ
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