韓国ソウルの繁華街・梨泰院で起きた雑踏事故。

ハロウィーンを祝うために集まった大勢の人が折り重なるように倒れ、日本人2人を含む154人が死亡した。

一部の地元メディアでは「立っている状態で押しつぶされ、圧迫死した」、「立ったまま気を失った人がいた」などの証言も報じられているが、なぜこれほど多くの死者が出てしまったのだろうか。

滋賀医科大学 社会医学講座 一杉正仁教授
滋賀医科大学 社会医学講座 一杉正仁教授
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圧迫死とは何か、そして我々にとって身近な満員電車での危険性はないのかなどについて、事故の原因究明と予防に詳しい滋賀医科大学 社会医学講座 一杉正仁教授に聞いた。

押しつぶされて胸が広がらなくなり…

まず今回の事故で一部地元メディアが報じている“圧迫死”とは、何が原因で起こってしまうことなのだろうか。

ーー圧迫死とはどういった状態?
圧迫死は、病態としては「外傷性窒息死」といい、胸腹部圧迫による窒息とも言われます。
胸を強く圧迫することで、胸郭が動かなくなり、呼吸ができなくなるということです。

胸郭というのは、ろっ骨と脊椎で囲まれた胸の部分です。私たちは呼吸するときに息を吸ったら胸が広がり、吐いたら縮むという胸郭の運動を伴っています。
それが圧迫されると、胸が広がらなくなり、すなわち、呼吸ができなくなるということです。

今回の事故も、前の人が倒れて、次々とそこにまた人が倒れ込むことで、多くの方が乗っかり胸部を圧迫されたことが原因だと思います。

韓国・ソウルで150人以上が犠牲となった圧死事故
韓国・ソウルで150人以上が犠牲となった圧死事故

ーー一部では「立ったまま圧迫死していた」との報道もあるが?
非常に稀ですね。
圧迫というのは、上から強いものが乗っかってきたり、人が折り重なるように倒れるというケースがほとんどです。

例えば、阪神淡路大震災では、倒壊した家屋の下敷きになったというケースで、亡くなった方の7~8割が胸部圧迫による窒息で死亡したと言われています。

また、夏祭りの群衆の事故でも、人が倒れ、上から乗っかられることによって圧迫されるというのがほとんどのケースです。

満員電車では起こり得ない

ーー今回の事故映像を見ると人が前後に密集しているが、その場合は立ったままの圧迫死もありえる?
今までの日本のいろいろな事故の状況からすると、立ったままというのは非常に珍しいと思いますが、理論的には起きてもおかしくないです。

立ったままでも、限られたスペースに想像を絶するほどの人が集中した場合、密着してさらに後ろから押されることで、胸部を圧迫され呼吸ができなくなる。それがどんどん続いたわけです。

(イメージ画像)
(イメージ画像)

一方で今回のような事故は、我々にとって身近な満員電車ではあり得ることなのだろうか。一杉教授は「ありえないこと」と断言した。

ーー満員電車でも圧迫死はあり得る?
例えば、ある一定の割合の人数しかいない、電車なんかではもう限界がありますので、その圧迫死するほど多くの方が電車に乗るということ、これ起きえないんですね。
しかし今回の事故では、限られたスペースに非常に多くの人が入り過ぎたことが問題だと思います。