瀬戸内海の島々で構成される広島・江田島市。恵まれた自然環境で約2万1000人が暮らしている。その豊かな自然の中で、のびのびと子どもを育てる場所が誕生。新しい保育のあり方に挑戦する保育士に注目した。
草をかき分けた散歩コースは”自然の迷路”
子どもの元気な声が響く広い庭。江田島の保育士が空き家を改装し「どろんこ園」と名付けた。島の豊かな自然の中で、子どもたちが「今したい!」ことを応援し成長を見守る場所だ。

どろんこ園・黒川奈緒子 園長:
今までにない形をやろうとしていて、私の中でもどうするのがベストかなと考えながらなんですけど…

どろんこ園の一日はお散歩から始まる。草をかき分けながら、島の細道を一列で進む親子たち。近所に住む人の庭でどんぐりを見つけたり、迷路のような草木の合間を進んだり…。

子どもと参加した母親は「どろんこ園のヘビーユーザーです。こども園とはだいぶ違いますね。こんな自然体験はなかなかできないので参加しています」と話す。
男の子が自分の背丈よりもはるかに高い石垣を登っていく…。その先にあるのは、柿の実!高い脚立もへっちゃらで、柿の実をもぎ取った。

どろんこ園が大切にするのは、子どもたちの興味を尊重し、五感を使って遊べる環境を提供することだ。
どろんこ園・黒川奈緒子 園長:
体験重視で、カリキュラムに追われず、子どもたちが自主的にやりたい遊びを一番に考えています
切った竹で炊き込みご飯…大人も全力で楽しむ
「ここで、今から竹を切ります!」そう言って、黒川さんは空高く伸びた竹林へ入っていった。大人が切り倒した竹を、子どもたちものこぎりで運びやすい大きさにギコギコ。

お散歩が終わると、持ち帰った竹を使って直火の炊き込みご飯に。自然から受ける刺激を通して、子どもたちの生きる力が育まれていく。

どろんこ園は建物内にも刺激的な遊びがいっぱい。

ボルダリングコーナーや、屋根裏からふかふかのマットに飛び降りたり…子どもだけでなく大人たちも全力で楽しむ姿を見せることで、子どもたちに刺激を与えるのだという。

”保護”優先の保育環境に違和感
黒川さんは広島市出身の保育士で、江田島市内の保育園に約18年、勤めていた。

しかし、少子化の影響で保育園が統合されるなど、時代とともに変化する保育環境に”違和感”を感じ始めたという。
どろんこ園・黒川奈緒子 園長:
大きな集団では子どもの待ち時間がどうしても増えてしまいます。また、保育園に対していろいろなニーズがあるから、子どもがケガをしないようにどうしても”保護”を優先します。すると、子どもはできることが少なくなって…。もうちょっと家庭的な保育があってもいいなと

そんな思いを抱く中、2020年にこの空き家と出会い、独立を決めた。
黒川さんは「デコボコがあって、斜面も水もあって、そんなところで子どもは育つんだよね。ちょっとしたケガをするかもしれないけど、子どもたち自身の危機管理能力は上がっていくと思います。庭の小石や危ないものを整備したら、裸足で思いっきり走り回ってもらいたい」と話す。
かつて自分たちが育った”家庭的な保育”を今に
実は、黒川さん自身も生後6カ月の子どもを育てる一児の母。自らも子育てをしながら奮闘する黒川さんの姿を見た”利用者ママ”たちが、ボランティアで園の運営を支えている。

保育士免許を持つ参加者:
自分たちも楽しいと思う場所にいられることが、お金には代えられないところかな

安全管理が声高に叫ばれる今の社会に、一つの選択肢として提案する家庭的な保育とは…。かつて自分たちが育った時代をイメージしているという。
参加者:
子どもたちはのびのびさせてもらっています。家だと危ないことはすぐに「やめて!」と叱っちゃうけど、ここだとまあいいかという感じで

参加者:
この何年かで新しいこども園ができて、すごくきれいにはなっているが園庭に遊具が少なくて遊ぶにも遊べない。遊具よりも自然と一緒に遊んでほしいですよね

また、黒川さんは「母親同士が子育てについて相談しあえる場所にしたい」とも考えている。
東京から江田島に移住した参加者:
夫に言えないしんどいことや、離乳食をどう進めていけばいいのかも、ここに来て人と話せるので助かっています。どろんこ園の子どもたちを見て、この先2年後3年後、こうやって育てていけたらいいなと思います。東京にいるよりも子育てしやすいです

今後、子どもたちがアグレッシブに挑戦できる園庭づくりを始め、2023年4月には子どもの預かり保育もスタートする予定だ。

新たな保育環境とは、ひと昔前まで当たり前だった”家庭の子育て”なのかもしれない。黒川さんの挑戦は、まさに”どろんこ”になりながら一歩ずつ進もうとしている。
(テレビ新広島)