渋柿の絞り汁「柿渋」は古くから塗料として、防水・防虫効果があり、戦国時代に瀬戸内海を拠点とした村上水軍も船底に塗っていたことで知られている。

最近では抗ウイルス効果があることもわかり注目されているが、備後地方に伝わる柿渋は年々生産者が減少し、今存続の危機に立たされている。そんな中、柿渋生産の保存に取り組む人たちを取材した。

熟す前の青い渋柿を砕き絞る 三大産地の1つ

大量に集められた、熟す前の渋柿。

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400キロもの渋柿がコンベアに乗せられ、機械を通ると粉々に。

粉々になった柿を圧縮機で絞る
粉々になった柿を圧縮機で絞る

砕かれた渋柿に水を加えて巨大な圧縮機で絞ると、緑色の液体が出てきた。これが柿渋の原液だ。

絞り出された柿渋の原液
絞り出された柿渋の原液

ここは、広島県尾道市浦崎町にある柿渋工場。

工場長の檀上安弘さんが中心となって渋柿を作る。

生産は、青い柿のある8月末から9月の間だけ。

砕かれた柿
砕かれた柿

こうして絞った汁を1年から2年発酵させて、販売する柿渋ができる。

絞った汁を1~2年発酵させる
絞った汁を1~2年発酵させる

かつては防水・防虫・防腐効果に優れた塗料や染料として、さらには民間薬としてなど、幅広く使われてきた。

檀上安弘さん:
漁網に柿渋を塗ると、水切りがいいので網を水に沈めても重たくない。村上水軍も船底に柿渋を塗っていた。コケや海藻がつかなかったという。昭和初期から生産が盛んになったが、もっと前から柿渋は使われていた

備後地方で作られる柿渋は「備後渋」と呼ばれ、渋が強く濃厚で質が良いと言われてきた。

檀上安弘さん:
柿渋の三大産地は、岐阜の美濃、京都の山城、そして備後。備後では昭和初期から盛んだったんです。因島、松永を中心に約200店舗の柿渋生産者があった

檀上安弘さん
檀上安弘さん

店の内装は全て柿渋 作品作りの講座も

そんな柿渋に魅せられた人がいる。福山市松永町にある「ギャラリー蔵」の店主、牧平真由美さんだ。

店内には柿渋を使った作品があふれていた。

牧平真由美さん:
これは一閑張りというもので、カゴに和紙を張って柿渋を塗っていくというもの。カゴが壊れてもったいないな、というところからの発想で、竹を和紙で補修して、その上に柿渋を縫って強度を増す

店内の柱や梁なども全て柿渋を塗っているという徹底ぶり。こちらでは、こうした柿渋の作品を作ったり販売するだけでなく、一閑張り作りの講座も開催している。

ギャラリー蔵の店内
ギャラリー蔵の店内

牧平真由美さん:
塗っていくんですけど、ほとんど色がつかないです。太陽の光でだんだんと茶色くなっていくから、すぐこの色に仕上がらない。

牧平真由美さん:
でもそれを待ってもらえるような、ゆったりとした時間を過ごせるといいなと。こういう色に仕上げようと思っていたけど、もっといい色になったとか、作品を作る度にそんな感じがします

長く日常生活に密着して使われてきた柿渋だが、需要が減って行く中で、柿渋の生産者も減少の一途をたどる。2011年には、備後地方に唯一残っていた柿渋生産者が製造を終了していたことが判明。地元が誇る伝統が存続の危機に。

牧平真由美さん:
生産者がいつ辞めるかわからないと言っていたので、辞めないように柿渋をじゃんじゃん注文していたんです。使っていたら、売れたら、辞めないんじゃないかと思って。単純な発想で。そうしたら、「そんなに好きなら機械をあげるから」ということになった

業者から機器を譲り受け、有志で柿渋製造を再興

そこで立ち上がったのが、牧平さんや檀上さんが名を連ねるNPO法人「ぬまくま民家を大切にする会」。

古民家の修復などを手かげ、柿渋を塗料として使っていたこともあって、昭和初期から使っていた機械を譲ってもらい、工場を新設。2013年から製造を開始した。

1回の作業で400リットル。年間、約4トンの柿渋を作る。しかし、今なお存続の危機を脱したとは言えないという。

檀上安弘さん:
私も75歳なんで、次のここを引き継げる人が不足しているのと、機械が古いのでいつまでもつか。また、みんなお年寄りで、参加者が年々減ってきていて、原料の渋柿の購入も難しくなっている。そんな事情で今後、いつまで続けられるかわからない

檀上安弘さん
檀上安弘さん

備後の伝統を守り続けている柿渋工場。自然な素材が見直される今だからこそ、その役割は大きいのかもしれない。

牧平真由美さん:
残していきたいと思いますね。昔の人はよく考えてこんなのを作ったなと思って

檀上安弘さん:
古いものを大切に、伝統を守るということでやっている。辞めてしまうと、いよいよ備後にも柿渋がなくなってしまう。その思いでやっているだけなんですよ

檀上安弘さん
檀上安弘さん

柿渋のタンニン成分には抗ウイルス効果があることでも知られており、広島大学大学院の研究では、アルコールなどの消毒液が効かないノロウイルスを不活化することが証明された。

また2021年には、奈良県立医科大学が新型コロナウイルス感染症の重症化予防および感染伝搬を抑制できることを動物モデルで実証するなど、その効果が期待されている。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
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