瀬戸内海の島々で構成される広島・江田島市。恵まれた自然環境で約2万1000人が暮らしている。過疎化によって空き家が問題となる中、江田島市の”空き家”と向き合う男性に密着。空き家を活用した新たな拠点に注目した。

江田島市が初採用した「空き家活用ディレクター」

少子高齢化や人口減少に伴い、広島県内で2番目に空き家率が高いとされる江田島市。

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市内には約1800戸の空き家があるという。一方で、移住者や首都圏から移転する企業が増えている”アツい”島でもある。そんな江田島に、空き家問題の解決を模索する1人の男性の姿があった。蛇草孝介(はぐさ こうすけ)さん。2021年4月に江田島市が初めて採用した「空き家活用ディレクター」だ。蛇草さんは広島市出身。大学卒業後に上京し、東京都内の設計事務所で働いていた。

江田島市 空き家活用ディレクター・蛇草孝介さん:
店舗やオフィスの空間デザインの仕事をしていました。江田島なら新しい何かができるなという可能性を感じたので…

自分のフィールドを広げられないかと模索する中、夫婦で江田島市へ移住。そして、古民家や畑を数百万円の私財を投じて購入した。あるプロジェクトを始めるためだ。

蛇草さんが購入した江田島市切串地区の空き家
蛇草さんが購入した江田島市切串地区の空き家

江田島市 空き家活用ディレクター・蛇草孝介さん:
江田島の空き家はほとんどが住居として使われています。活用の幅を広げるために、空き家はこういう使い方もできるんだよと、そのきっかけになればいいと思います

切串地区には港があり、広島市内から船で約30分という好立地。しかし、飲食店などが少ないのが現状だ。島民、移住者、観光客が行きかう場所をつくりたい…その一心で、蛇草さんは切串港近くの古民家を改修して複合施設をオープンする計画を立ち上げた。クラウドファンディングでの支援募集やDIYイベントを開いて、開業への準備が進めらた。

蛇草さんが考える複合施設の詳細
蛇草さんが考える複合施設の詳細

古民家の資材をほとんど再利用して改装

そして2022年8月下旬、いよいよグランドオープンの朝を迎えた。名称は「Kirikushi Coastal Village」。カフェやシェアキッチン、テナントスペースを備えた複合施設だ。

空き家を再生した複合施設「Kirikushi Coastal Village」
空き家を再生した複合施設「Kirikushi Coastal Village」

コンセプトは”多くの人を巻き込む”こと。人とのつながりの中で生み出されるものを大切にしたいという。空き家はどのように生まれ変わったのだろうか…。

古民家の雰囲気を生かしたオシャレな空間に
古民家の雰囲気を生かしたオシャレな空間に

江田島市 空き家活用ディレクター・蛇草孝介さん:
カウンターの板は畳の下に使われていた板を再利用しました。改装のための材料は、ほとんど古民家にあったものを形を変えて再利用しています

もともと押し入れだった場所は、壁の風合いをそのまま生かして仕事ができるスペースに。

押入れだった場所をコワーキングスペースに活用
押入れだった場所をコワーキングスペースに活用

室内と外をつなぐ広いデッキの先には、古民家の庭の一部が残されている。

もとの庭(写真右下)にあった松の木と石灯籠だけを残し、ウッドデッキに
もとの庭(写真右下)にあった松の木と石灯籠だけを残し、ウッドデッキに

江田島市 空き家活用ディレクター・蛇草孝介さん:
ここは空き家活用のショールームを兼ねています。ただ住むだけではなく、遊ぶ部屋でもお店でも使い方は多種多様。その事例の1つになればいいなと思っています

オープン時間が近づき、準備は最終段階へ。装飾に力を入れるのは蛇草さんの妻・友里絵さん。新潟出身で、江田島のことは移住するまで知らなかった。

妻・友里恵さん:
江田島は、思ったより何でもあるというか。コンビニやスーパー、電気屋、ドラッグストアもあるので不自由しない島ですね

テナントに自転車屋? 観光客や島民が集う場へ

オープン初日の出店者が、続々と集まってきた。出店者のほとんどは移住者である。さらに、自転車に乗った多くのサイクリストも…?

次々と、複合施設の敷地内に入るサイクリストたち
次々と、複合施設の敷地内に入るサイクリストたち

実はテナントとして自転車屋がオープン。江田島市はサイクリングコースやレンタサイクルが充実した、サイクリストたちに人気のスポットでもある。

テナントの自転車屋に多くのサイクリストが集まった
テナントの自転車屋に多くのサイクリストが集まった

サイクリストだけでなく、生活で自転車を使う江田島市民も支えたいと付けた店名が「島の自転車屋」。

島の自転車屋・奥村公俊さん:
テナントに入るきっかけは島内に自転車屋がないこと。みんな高齢で廃業されて、自転車修理に困るという話を聞いて…

広島市南区で自転車屋を営みながら週に数回、江田島に来る奥村さん。「ここに宿泊施設ができれば、県外からの観光客も誘致できる。県外から自転車を送ってもらって、到着するまでに僕が組み立てて整備してどうぞと。帰りはここで箱詰めして送り返せたら、観光客の手間を省ける」と話す。

一方、シェアキッチンやコワーキングスペースとして利用される古民家の”母屋”は、オープン初日からたくさんの人の笑顔であふれた。

江田島市民:
おもしろいと思います。空き家のリノベーションの参考になるかなと

オープンから一月半が過ぎた10月10日、再び「Kirikushi Coastal Village」を訪れた。厨房には準備を進める女性たちの姿が…。

シェアキッチンを利用してカフェを出店する2人の女性
シェアキッチンを利用してカフェを出店する2人の女性

飲食業にチャレンジしたい人や週に数日だけ営業したい人向けの「シェアキッチン」を利用して、ママ友同士で出店してみようと呉市からやってきたという。

この日のシェアキッチン「Cherish Cafe」のメニュー
この日のシェアキッチン「Cherish Cafe」のメニュー

「お待たせしました~」と忙しく料理を運ぶシェアキッチン利用の女性たち。客席は瞬く間に埋め尽くされていった。

切串地区の住民:
切串にこういう場所がないので、特に日曜日は店も閉まっているので楽しみができました

空き家の活用モデルとしてだけでなく、江田島に新たな”集いの場”が誕生した。蛇草さんは「完成度でいうとまだまだです。今後、宿泊スペースもつくる予定で、敷地内の畑の活用などにも取り組んでいきたい」と話す。
江田島の空き家問題解決の糸口となるか、これからも注目したい。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
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