今の時代にそぐわない学校の「ブラック校則」が話題になることがしばしばあるが、それは病院にも当てはまるのかもしれない。
生命に関わる重要な仕事を担う職業柄、衛生面を考慮してのものだろうが、中には「時代錯誤なのではないか?」などと、看護師自身も意図を理解できないまま残っている「ふしぎなナース文化」があるという。

医療用品の企画・開発販売を行うクラシコ株式会社が、この「ふしぎなナース文化」の必要有無の議論を通して看護師がより生き生きと働ける環境づくりを呼び掛けるために調査を実施し、結果を公表した。
調査は看護師400人(全国の病院・クリニックに勤務している20代〜50代の男女)、病院利用者400人(全国の病院・クリニックに1年以内に通ったことのある20代~70代の男女)、看護管理者25人(看護管理者(看護師長以上))を対象に実施。

まずは看護師に対する調査で、病院ごとに存在する独特なルールや慣習「ふしぎなナース文化」の存在が顕在化した。
服装など11項目の「ふしぎなナース文化」
「あなたが働く病院で、疑問や不満に思っているルール・慣習」を看護師に聞いたところ、病院ごとの差は大きいとしつつも、11項目の特徴的な「ふしぎなナース文化」が抽出できたというのだ。
【ふしぎなナース文化】
1:髪色は明るくしてはいけない?
2:靴下・下着は白でなければいけない?
3:看護服は上下とも白でないといけない?
4:髪を結ぶシュシュやヘアゴムは、黒や茶など地味な色でないといけない?
5:女性はまつげエクステをしてはならず、男性はひげを生やしてはいけない?
6:寒い冬でも、半袖のナース服から出る防寒インナーや患者の前でのカーディガンはいけない?
7:通勤時の服装も地味でなければいけない?
8:ナースステーションでは水分補給ができず、飲みものの種類にも制限がある?
9:休憩時間であっても、病院外に出ることはゆるされない?
10:看護師は移動にエレベーターを使用してはいけない?
11:SNSで投稿したり、友達の投稿にいいねしたりしてはいけない?

また、病院に存在する独特なルール・慣習の存在意義や理由を知っているかも聞いたところ、「あまりよく知らない(33.5%)」「全く知らない(10.5%)」となり、合計44.0%と半分近くの看護師が、理由が分からないまま病院独自のルール・慣習に従っていた。
同社によると、理由もわからないこの病院独自ルール・慣習が不満となり、仕事へのモチベーションの低下に繋がった結果、離職に発展するケースもあると考えられるのだという。

そして「11項目のルール・慣習が必要かどうか?」を病院の利用者側に質問すると、11のルールの平均で8割以上(84.4%)が不要と考えていることが明らかになった。さらに、11のうち7つを身だしなみ・服装に関するルールが占めているが、これらのルールに従っていなくても特に気にならない人は、7割を超えていた。
ちなみに、このルール・慣習は、必ずしも衛生面など確固たる理由があるわけではなく、周りの目を意識して残されているものも多く存在したという。周りの目を気にしたルール・慣習に対し、病院利用者側の多くは不要と考えているという実態が浮き彫りになった。

そして、このルールについて病院と看護師が話し合ったり、意図を説明して理解を図ったりするような機会は、「あまりない」「全くない」と看護管理者の52%が答えている。
約半数にとどまったことから、病院と現場看護師との対話、そして利用する一般利用者との対話が不足している可能性が考えられるとしている。
少数だが「おやつ交換禁止」や「通勤服に制限」も
では、今回の調査であがった「ふしぎなナース文化」は、どう見直していくべきなのだろうか? また、すでに変わってきている病院はあるのだろうか?
クラシコ株式会社の担当者に話を聞いた。
――改めて、調査を実施した経緯を教えて
病院に対してナース服導入の提案をする際、看護師全員の意見を確認する病院と、現場が忙しいからこそ病院幹部や看護部長が勝手に決めてしまう病院と、風通しが病院によって様々でした。また、院長が代わった途端に「ナース服は上下白でなくてはいけない」というルールが撤廃された病院もあり、固執しているルールも本当に必要ではないものもあるのでは?と感じる瞬間がありました。
医療従事者にとって働きやすい環境を作ることはクラシコのミッションにも通ずるものだからこそ、働きにくさに繋がる要因を可視化して様々な人に投げかけたいと考えました。

――看護師に聞いた「疑問や不満に思っているルール・慣習」で、最も多かった回答は?
「髪色は明るくしてはいけない?」は40.0%があると回答し、最多でした。
――回答で驚いたルール・慣習はあった?
ごく少数の意見ですが、ジーンズやミュールはダメなどの「通勤服のドレスコードがある」「夜勤者間でのおやつ交換禁止」といった回答には驚きました。

――「ふしぎなナース文化」は、病院へ配属された時に教わるの?
学生時代の現場実習時や病院への配属時に大半のルールは教わるようですが、一方でルールの程度は明文化されず、暗黙の了解で通っているものもあります。いずれにせよ、十分にルールの理由に対する説明の機会がないまま守らざるを得ない場合が多いようです。
見た目に関する厳しすぎる規定は見直しが可能では?
――なぜ「ふしぎなナース文化」が離職につながると考える?
実際に、こうしたルール・慣習のせいで仕事に行きたくない・辞めたいなど労働意欲がそがれたことがあるかどうか聞いたところ、「よくある(10.8%)」、「たまにある(28.8%)」と回答した人を合わせると39.6%と、4割を占めました。
ただでさえ過酷な労働状況だからこそ、ささいな不満は離職に繋がりやすくなっているのではないでしょうか。また、調査結果から、ルールの厳しさの程度は病院によってかなり差があり、「もっと自由に働きたい」という理由で別の病院に移る動機になることも考えられます。

――多くの病院利用者が、ルール・慣習を「不要」と回答した結果を見て、どう思った?
患者さんは見た目をそれほど気にしていないというのは意外でした。ふしぎなナース文化の見た目に関するルールの多くが、患者さんからの心証を気にして存在するからこそ、改善の余地はあるなと再確認しました。
――今後、どう見直すことが必要だと考える?
病院幹部が今一度ルールを見直し、明確な存在理由がないと感じたものに関しては、現場看護師や病院利用者と話し合って共通認識を持ちながら、緩めていくことができるのではと考えています。
特に、見た目に関する厳しすぎる規定は、今の時代に合わせてある程度自由を認めるような見直しが可能ではないかと思います。一方で、必要なルールは看護師に対して理由を説明して浸透を図ることで、ギャップや不満を解消することができると考えています。

――実際に、改善した病院はある?
調査の中で、実際に変わってきているという病院の声が寄せられました。
・身だしなみに関してはかなりゆるいものになりました。 髪色、カーディガンの色、髪の毛をまとめるもの、色、靴下の色など
・ユニフォームは白でなければならないという院長の暗黙のルールをスクラブに変えカラーにしました
・ナースシューズは、白をベースとするがラインやポイントは良い。色を白とすると汚れや血液付着がわかるので清潔保つ意味があるが、自由度を広げた。ストッキングの色は白でなく肌色も可とした。

なおクラシコ株式会社は、「ふしぎなナース文化」について社会全体で考え直すきっかけを作りたいと、10月から看護師の働きやすい環境づくりを考えるプロジェクト「#看護服からはじめよう」を始動している。
コロナ禍で過酷な状況で働いている看護師の働きやすい環境づくりは大切だろう。大半の病院利用者が”気にしていない”という結果となった「ふしぎなナース文化」は、何となく残すのではなく、時代の流れにあわせて柔軟に考えてみる必要はありそうだ。