地方銀行を中心に、昼に窓口を閉める「昼休業」が広がっている。
千葉銀行は、2018年に「昼休業」を始め、2020年4月から国内の全ての店舗179店で実施している。横浜銀行は、2019年に始め、2020年5月には120店まで拡大したが、現在は12店で実施。常陽銀行(茨城県水戸市)は、2017年に始め、2022年9月12日現在で国内の185店のうち91店で実施している。
お昼休みを利用して銀行を利用する人もいることだろう。なぜ今、銀行窓口の「昼休業」が広がっているのだろうか。
2016年の規制緩和で「昼休業」をしやすく
そもそも、銀行窓口の「昼休業」に関するルールは法律で定められているのか? まずは、金融庁に“「昼休業」に関するルール”を聞いた。
――銀行窓口の「昼休業」に関するルールは法律で定められている?
銀行法の施行規則で、銀行の営業時間は「午前9時から午後3時まで」と決められています。その営業時間のうち、一部の時間について、お休みすることは可能でした。ただ、お休みするための要件が3つあったんです。
1つめは、一部の時間をお休みすることの必要性があること。
2つめは、顧客の利便を著しく損なわないこと。
3つめは、当座預金を営んでいないこと。
この3つの要件を満たせば、一部、お休みすることは可能でした。そして、2016年9月の規制緩和で、3つめの「当座預金を営んでいないこと」がなくなりました。これによって、比較的、「昼休業」がしやすくなったわけです。
千葉銀行「コロナの感染拡大の中、金融サービスの維持が目的」
昼休業の増加は2016年の規制緩和が関係していたようだ。では実際、各銀行はどのような理由で始めたのだろうか? 2018年に「昼休業(11:30~12:30。一部は11時~12時)」を始めた千葉銀行の担当者に話を聞いた。
――「昼休業」を始めたのはいつ?
2018年4月です。国内の全ての店舗(179店)で「昼休業」を実施したのは2020年4月からで、現在も継続中です。
――「昼休業」を始めた理由は?
2016年の銀行法施行規則の改正によって、窓口営業時間の弾力化が認められたことを受け、2018年4月より、一部店舗で実施しました。また、新型コロナウイルスの感染が拡大する中、「金融サービスの維持」を目的として、2020年4月に国内の全店舗に窓口の休業時間を設けました。
現在も、新型コロナウイルス感染防止の観点で、消毒作業などを徹底するため、窓口の休業時間を設けています。
――「昼休業」について、利用者からの感想は?
新型コロナウイルス感染防止を目的に実施していることから、おおむね理解を得ているものの、「昼休業」の廃止を希望する声もございます。
――「昼休業」の廃止を希望する声をどのように受け止めている?
「昼休業」は、人繰りの面も含め、金融サービスの維持のために実施しているものです。お客さまの声を真摯に受け止め、新型コロナウイルスの感染状況をみる中、今後のあり方を検討してまいります。
――「一般社団法人 全国銀行協会」の調査によると、店舗窓口の利用率は減少傾向が続いている。2015年は89.3%だったのが、2018年は75.8%、2021年は75.6%と減少した。窓口業務について、今後の方針は?
千葉銀行は地方銀行であり、経済の合理性だけでなく、地域の金融機関として、社会インフラを担う存在であることを十分に認識し、店舗のネットワークの維持に努めています。
地域への影響や対応策などを深掘りしながら、タブレットやリモート端末などを活用した、店頭手続きのデジタル化、アプリや法人ポータルによる非対面サービスの拡充によって、お客さまの利便性や営業力を著しく損なわない範囲で効率化する方針です。
横浜銀行「少人数体制での安定した店舗運営の維持」
続いては横浜銀行。「昼休業(11:30~12:30または12:30~13:30)」を実施している店舗は、2020年5月には120店まで拡大したが、現在は12店と大幅に縮小している。大幅に減らした理由は何なのか?
担当者に話を聞いた。
――「昼休業」を始めたのはいつ?
2019年6月3日です。現在は、国内の有人店舗数206店のうち、12店で実施しています。
――「昼休業」を始めた理由は?
少人数体制での安定した店舗運営を維持するためです。
――「昼休業」は2019年中に2店で始め、2020年5月には120店まで拡大したが、現在は12店。実施する店を減らした理由は?
政府の緊急事態宣言の対象が全国へ拡大され、終息の見通しが立たない中で安定した、金融インフラの提供を維持するため、主に神奈川県内の小規模店舗を対象に、2020年5月に「昼休業」を実施しました。
その後、2020年・夏の緊急事態宣言の解除をきっかけに、大半の「昼休業」を終了しました。それ以降は、近隣の店舗同士の相互扶助で、「昼休業」を再び実施することなく、金融インフラの安定した提供を維持しています。
――「昼休業」について、利用者からの感想は?
導入当時、周知不足について、お叱りを受けるケースがありました。
――「昼休業」の店舗数、今後は増やさない?
「昼休業」を増やしていくことは想定していません。
――窓口業務について、今後の方針は?
Webで完結する取引の利便性を高め、お客さまにご来店の労力をおかけするケースを減らしていく方針です。
常陽銀行「銀行窓口のあり方も見直していく必要がある」
最後は常陽銀行。185店のうち91店と、およそ半数で「昼休業(11:30~12:30。一部、12:00~13:00)」を実施している。窓口の利用率の減少傾向が続く中、窓口業務を今後、どのようにしていこうと考えているのか?
担当者に話を聞いた。
――「昼休業」を始めたのはいつ?
2017年9月29日開設の「常陸大宮野口出張所」が、「昼休業」を最初に導入した店舗です。
――今は何店舗で実施している?
9月12日現在、91店舗で実施しています。 その内、35店舗は新型コロナウイルス感染症対応として、臨時的に実施している店舗です。
――「昼休業」を実施する店舗は、どのように決めている?
店舗形態や立地環境、店舗における構成人員などを踏まえて、決めております。また、新型コロナウイルスの流行状況などを踏まえ、金融サービスの維持を目的とした、行員の交替勤務の実施に伴う、臨時的な対応として、実施している店舗もございます。
――「昼休業」について、利用者からの感想は?
「昼休業」の時間帯の営業を望まれるお客さまも、一部、いらっしゃいます。そういったお客さまには、事前に周知したうえで丁寧に説明し、あわせて、代替手段(アプリやATM利用推進など)を提案しております。
また、昼休業を導入する一方で、一部の店舗においては営業時間を延長し、お客さまをお招きする態勢を整え、資産運用などの相談業務に対応しております。
――「昼休業」の店舗数、今後は?
「昼休業」のみを捉えて、“増やす・減らす”の方向性を検討することは、現時点ではございません。 お客さまのニーズや地域の状況に合わせて、今後も様々な店舗形態を検討するなかで、昼休業を導入するケースもあると思われます。
――銀行の窓口、今は主にどのような方がどのような目的で利用している?
通帳・印鑑による取引をご希望のお客さま(高齢者や法人など)や、窓口でなければ対応ができない取引(両替や相続手続等)をご希望のお客さまなどが来店されています。
――窓口業務について、今後の方針は?
デジタル化やキャッシュレス化の進展により、窓口の来店客数は減少傾向にあります。常陽銀行においても、アプリやインターネットバンキングを推進し、日常的な金融サービスは銀行に来店しなくても、対応できるようなサービスを展開しておりますので、今後もその傾向は続くものと思われます。
デジタル活用が進むことで、銀行にご来店されるお客さまのご用件は、資産運用や事業承継などのご相談ごとが中心になっていくと考えられ、いわゆる、“ハイカウンター”でお受けする業務(日常的なお取引)は縮小し、一方で、“ローカウンター”でお受けする相談業務、コンサルティング業務などのニーズが高まると想定しています。
人口減少・少子高齢化といった社会面や、デジタル化・キャッシュレス化といった金融面を取り巻く、その時々の環境などに合わせる形で、相談する環境の充実を図るなど、銀行の窓口のあり方も見直していく必要があると考えております。
2016年の規制緩和、そして、コロナ禍で広がった、銀行の「昼休業」。インターネットバンキングの普及なども背景に、今後、銀行の窓口のあり方が変わっていくのかもしれない。