ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってから7カ月がたとうとする9月12日、ウクライナのゼレンスキー大統領は「東部と南部の領土合わせて6000平方キロメートル以上を奪還した」と発表。さらに13日にはその領域を広げ、「約8000平方キロメートルの地域をロシアから奪還した」とした。

ウクライナの反転攻勢 その背景には…

アメリカの戦争研究所の分析によると、9月6日以降、東部のハルキウ州でウクライナ軍が大きく反転攻勢。2022年春からロシア軍が最重要拠点として占領していたイジューム市に、ウクライナの国旗が掲げられる動画が公開された。

新たな局面を迎えている、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻。
ウクライナ反転攻勢の理由、撤退敗走したロシアの今後などについて、軍事ジャーナリストの黒井文太郎さんに話を聞いた。

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まず、戦況の変化に注目する。侵攻から3カ月後の5月の戦況と現在の戦況を比べると、この数日で、東部を中心に約8000平方キロメートルをウクライナが奪還していることが分かる。8000平方キロメートルは、兵庫県ほどの大きさだ。

(Q.ウクライナは広い範囲を奪還したように見えますが、この状況は予想されていましたか?)
黒井文太郎さん:

まったく予想していませんでした。8月の終わりにウクライナ側が南部のヘルソンに攻勢をかけたため、ロシア軍が主力を南部へ移動しました。ロシア軍の戦力は少なくなっているので、結果、東部のハルキウ州が手薄になりました。
ウクライナ軍はもともと東部と南部、2方面での作戦を準備していたのですが、ハルキウ州が手薄になったという情報をつかんだことで、「今ならいける」となりました。相手側の地域を突き抜けて、ロシア軍の補給路を断ち、東部のこの地域を一気に取り返しました

(Q.ロシア軍の主力が南部に移動して、東部が手薄になったという情報は、ウクライナ軍が自ら得たんでしょうか?)
黒井文太郎さん:
ニューヨークタイムズがアメリカ政府当局者の意見として内幕を載せていたのですが、偵察衛星や通信傍受でロシア軍の動きを逐一把握しているアメリカから、作戦面でのアドバイスがあったようです

(Q.反転攻勢の背景には、オーストラリアからの装甲車「ブッシュマスター」、ポーランドなどからの戦車、アメリカからのドローンなど、各国の支援があったそうです。このような支援は、ウクライナにとって大きいのでしょうか?)
黒井文太郎さん:
大きいですね。相手の守りを突破する戦車、兵隊や弾薬を運ぶ装甲車の存在は特に大きいです。
ロシア側の今の弱点は兵士の数です。ロシアが少なくて、ウクライナが多い。戦線は複数あるので、ロシア側は、あちらに兵力を投入すればこちらが少なくなる、といったジレンマに陥っています

(Q.アメリカの偵察衛星での情報提供や、作戦支援についてはいかがですか?)
黒井文太郎さん:
ここ1~2カ月の間に、ウクライナ側から作戦支援の呼びかけもあり、協力するようになりました。細かいシミュレーションなども行っています。
今回のハルキウ奪還でも、ウクライナは最初、ヘルソン奪還を目指していましたが、アメリカがシミュレーションした結果、それでは勝てないと。そういった部分でも、アメリカの支援は大きいですね

侵攻前の状態に戻る可能性はあるのか?

(Q.今回は厳しかったというウクライナのヘルソン奪還ですが、今後はどうですか?ここを足掛かりに、2月24日の開戦より前の状態に戻すことも…?)
黒井文太郎さん:
ロシアもまだ強いので、2月24日以前の状態に戻すのはなかなか難しいと思います。今回も兵士は逃げましたが、また武装して戻ってくるでしょうし。ただ、さまざまな兵器を置いて逃げていますので、ロシア側の立て直しは相当厳しい。しばらくはウクライナが優勢だと思います。
ヘルソンの北西はロシア軍が包囲されつつあります。また、ハルキウを奪還しましたから、ロシア側がこのまま退却を続ければ、ハルキウ南東のルハンスク州もじわじわと奪還できるチャンスがあると思います

追い込まれつつあるロシア "核兵器"使用する恐れは…

(Q.欧米の支援を受けて、ウクライナが盛り返しているのは間違いないと。そうなると心配になるのが、ロシアによる核兵器使用ですが、いかがでしょうか?)
黒井文太郎さん:

核は、ロシアにとっても禁じ手です。ただ、ロシアは小さな核爆弾をたくさん作りました。使うかどうかは政治判断です。ロシア軍の司令部が決めるのではなく、プーチン大統領が1人で決めますが、この人が何を判断するかは予測がつきません。何かの勢いや心理的なもので使う可能性がある。
ただプーチン大統領の特徴として、「自分はやりたくはないが、アメリカやNATOがひどいことをするから使わざるを得ない」という言い方を必ず事前にします。プーチン大統領の子分はさまざまなことを言っていますが、本人はまだそこまで言っていません。彼の言動を注視する必要があります

(Q.今後の“終わり方”というのはどうなりそうですか?)
黒井文太郎さん:

プーチン大統領は「自分は正当なことをしている」と言っていますので、負けを認めません。ロシアが劣勢の状態で終わるというのは考えにくい。アメリカやヨーロッパが支援を継続して、士気の高いウクライナの兵士がロシア兵をどんどん討てるように傾注するしかないと思います

(関西テレビ「報道ランナー」2022年9月14日放送)

関西テレビ
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