「ファッションは、地球への負荷を減らしながら楽しむ時代になっている」
こう話すのは、廃棄されたペットボトルを再利用した再生素材で洋服を作るアパレルブランド「NAGIE」 の創業者、茨城聡氏。
アパレル業界は大量生産・大量廃棄から、生産から廃棄に至るまで環境負荷を考慮したサステナブル(持続可能)なファッションへの転換点を迎えている。
さらに、環境配慮だけではなく、服を着ることで“価値観”を身に纏う時代になりつつあると言う。
アパレル業界におけるサステナブルの現状と未来について話を聞いた。
この記事の画像(11枚)大量生産・大量廃棄…アパレル業界の課題
環境省によると、2020年、日本では衣類の新規供給量が計81.9万トンに対し、廃棄量は計51万トン。
中には1度も袖を通さずに捨てられる服もある。捨てられた服は土に返らない。
アパレル業界は大量生産・大量廃棄を前提にしたファストファッションの台頭で成長した。
茨城氏は「アパレル業界はこれまで“地球環境にとって良いかどうか”という視点が薄い中で発展してきました。 しかし、私は“地球を壊してファッションを楽しむ時代”は終わりを迎えつつあると思っています」と話す。
手頃な値段で、良質な服を手に入れ、様々な服で、オシャレをする。
私たちは無意識に、“地球を壊し続けながら”ファッションを楽しんでいるのかもしれない。
大手アパレル企業も続々と「サステナブル」へ
国連貿易開発会議(UNCTAD)によると、環境を汚染する産業の1位が石油、2位が繊維・アパレルとされている。
こうした背景もあり、アパレル業界は環境配慮の方向へ大きく舵を切ろうとしている。
「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングでは2030年度までに全使用素材の約50%をリサイクル素材などに切り替えると発表。
「H&M」でも、2030年までに全製品でリサイクル可能原料またはサステナブルに調達された原料のみを使用することを目標に掲げた。
そんな中、大手各社が掲げる再生素材の数値目標を「NAGIE」は既に達成しているという。
高い機能性がありながら、再生素材95%を実現
ーー再生素材の使用率はどのくらいでしょうか?
再生素材の使用率は平均して約95%です。ボタンなどを含めても、78.5%です。主に廃棄されたペットボトルを再利用し、洋服を作っています。ようやくここまできましたが、まだまだ道半ばだと思っています。
市場には再生素材を100%使用している洋服も少なからずある。しかし、機能性とファッション性を両立することは至難の技だと言う。
「これまで市場にもペットボトルを使い洋服素材を製造している所はいくつかありました。ただ、着心地、伸縮性など私たちが心から納得いくものになかなか出会えなかったんです」
私も以前リサイクル素材100%の服を購入したことがあるが、ゴワツキなど着心地に課題があると感じており、手放してしまった。
サステナブルな洋服であるというだけでは、ファッションを楽しみたい消費者には響かない。
「”環境に良い”だけの洋服では、消費者は買ってくれません。毎日着るものですから、機能性と価値、魅力がなければ、長く着てもらえず捨てられてしまいます」
『再生素材で、機能性が高く、着心地が良い洋服を作りたい』という思いから、自社でオリジナルの素材を開発し、再生素材でありながら、機能性・着心地も納得のいく洋服を作り上げた。
“地球”を大前提に洋服を作る
ーーアパレル業界におけるサステナブルの現状をどう感じている?
リサイクル素材を使う企業は増えています。ただ、現状は既存の企業の形・枠組みに、サステナブルを“付け加えていく“視点が大きいように感じます。私たちは事業を営むにあたり、サステナブルを“付け加える”ではなく、“中心”にして洋服を作っています。
洋服作りの大前提に「地球」を考え、大切にすることを置く。 今ある資源を循環させて、新たな資源を必要としない。 さらには、大量生産せず、必要な数だけ作るため受注生産にしている。
洋服の楽しみ方に変化
ーー消費者の感覚も変わってきている?
服を着ることで“自分は地球環境を守っていく”というメッセージを表現する。そんな意識でファッションを楽しむ人が増えてきていると感じています。
ファッションを通じて、地球を考える。そして、服を通じて表現する。
「NAGIE」と言う名前には洋服を通じて、地球と自らの心身が“凪へ”向かうと言う意味が込められていると言う。
「ファッション的な(流行的な)サステナブルではなく、本質的なサステナブルでありたい。サステナブルという言葉すら使わない時代になって欲しい、そんな思いがあります」
100年後の地球を考えた洋服作り
ーーアパレル業界のサステナブルの課題は?
現状は化石燃料を使ったほうが、安く服が作れ、市場に流通できます。リサイクル素材はまだまだ製造コストがとても高いです。さらに、必要な枚数だけを生産する体制の構築にも難しさがあります。
ただ、茨城氏はアパレル業界の未来に対してこう語る。
「お伝えしてきたように、私は“地球を壊してファッションを楽しむ時代”は終わりを迎えつつあると思っています。 私たちは100年後の地球の姿を考えて服を作っていますので、近い将来これがスタンダードになると信じています」
服を着ることで何を表現するのか?
私たちが生きていくために欠かせない服。
日頃、洋服に袖を通す際に、地球環境のことを考えているかと言われると疑問である。
ファッションを楽しみながら「地球環境」とどのように向き合っていくのか。
洋服を着ることで私たちは何を得て、何を失っているのか?
冷静な語り口から情熱が溢れ出ていた茨城氏への取材を通じて「自分にとってファッションとは何なのか?」を再定義する必要があると感じた。
(インタビュー・執筆:フジテレビアナウンサー木村拓也)