映像制作では素人の若者13人が、プロの指導で映画を作った。クリエイター養成プロジェクトの一環で、13人は公募で選ばれていた。
映画の舞台は、静岡県三島市。地元の若者も制作メンバーで参加したほか、市民も撮影場所の提供や、作品に使われる地元の祭ばやしの指導で協力した。
クリエイター育成プロジェクト 最年少は中学生!公募の素人13人が参加
2022年6月に静岡県三島市で開かれた映画イベント「MIRRORLIAR FILMS PROJECT(ミラーライアー・フィルムズ・プロジェクト)」

クリエイターの発掘・育成を目的とした短編映画の制作プロジェクトで、俳優の山田孝之さんたちが発起人として参加している。地域と連携した映画制作のワークショップや上映会を、全国で行っている。

三島市で開かれたイベントでは、三島を舞台にした作品が上映された。制作に携わったのは、13歳から23歳までの若者13人だ。地元の企業も資金面で応援した。

映画作りがスタートしたのは2022年4月。13人は公募から抽選で選ばれ、県内だけでなく、東京や大阪からのメンバーもいる。全員が映画制作に携わるのは初めてだ。
最年少の河西舞さんは、三島市の中学3年生だ。

河西舞さん:
三島に小さい頃からずっと住んでいて、でもあまり三島の魅力がわからない。聞かれた時に答えられないから、この映画制作プロジェクトを通して、何か三島のいいところをもっと知れたらなと思っています
監督も地元出身 各部門のプロが指導
映画制作の指揮を執るのは、三島市出身の藤森圭太郎監督だ。2022年春に、東京から三島に移住した。

藤森圭太郎 監督:
なんとなく自分の中で三島というものが原風景にはあるので、それを、カメラを通して、三島の人たちと発見していきたいなと思っています

撮影現場の仕事は、撮影部・照明部・録音部のほかに、人の誘導や弁当の手配などをおこなう「制作部」や、各担当の調整を行い段取り良く撮影を進める「演出部」などさまざまだ。
各部にプロのスタッフ1人がつき、メンバーたちはそれぞれの仕事について説明を受けた。

カメラマン:
“カット割り”といって、ここのシーンを何カット、何枚の画で作るかを決めていく。そのための“カット割り”に対して、カメラマンも一緒に相談して決めていく
一方、演出部で説明されていたのは、映画製作のイメージとしてはおなじみの「カチンコ」。縞模様の拍子木に、ショット情報が書かれた小さな黒板のようなボードがついていて、撮影開始時に「カチン!」と音を鳴らす、アレだ。
実はこの「カチンコ」にも大切な役割がある。

演出部のスタッフ:
画と音を編集で合わせる時に、カチンコを使っているフレーム、1コマ1枚の写真を見つけて、音は「カチン」と音がしているところを合わせれば全部合う。それをこのカチンコでしています
役割を覚えたら、実際に撮影の練習だ。練習用の台本をもとに、撮影の流れと技術を学ぶ。
音声担当のメンバー:
これ大丈夫ですか?
演出担当のメンバー:
本番、シーン1 カット2、はいよーい はい(カチン)

担当を交代しながら、本番さながらの練習が続いた。
撮影場所探しは地元出身者が案内 アイデアを皆で形に

翌日は、撮影場所を探す「ロケハン」。地元出身の河西さんたちが案内した。
実際にカメラを構えて、作品のイメージを膨らませる。
藤森圭太郎 監督:
ここで撮るとしたら主人公はどういう人がよさそう?子供なのか女性なのか、男性なのか、おじさんなのか、おばあちゃんなのか
メンバー:
こういうシーンで懐かしさを感じると思うから、一度都会に出て、もまれて帰ってきたという主人公でもいいかもしれない

メンバーたちの意見をもとに、藤森監督が脚本を書き上げた。タイトルは三島の伝統的な祭ばやし「しゃぎり」だ。
空き店舗を“主人公の実家” に 祭ばやしを地元青年会が手ほどき 市民が協力
主人公は、実家が履物店の2人の姉妹。店をたたむことになり、店を手伝っていた妹と、結婚して東京に住む姉との物語が始まる。
実家の履物店の撮影には、空き店舗を使わせてもらうことになった。

空き店舗の家主・石渡吉松さん:
若い人がやることはいいですよ。三島市の活性化ということでやるわけでしょう。いいと思いますよ。大いにやってもらいたい

商品は、実際の履物店から借りた。大量の商品と棚なども運び込んで、履物店のセットが出来上がった。
メンバー:
こんなちゃんとしたお店になるとは思わなかったから、すごい達成感ありますね
別のメンバー:
大人が真剣に遊び心を持って仕事をやるという現場を見ることができて、すごく良いと思っています。自分がやりたいことのヒントになればいいな

タイトルになった「しゃぎり」は地元の青年会が全面協力。主役を務める女優さんたちにも、特徴的な楽器「摺り鉦(すりがね)」を手ほどきした。
いつの間にか、メンバーやスタッフも加わって大合奏に。これが「しゃぎり」の魅力だ。

芝町青年会・佐野哲也 会長:
「しゃぎり」の魅力は映画の一場面だけではなかなか伝わらないと思うけど、楽しさなど何かしらの魅力が映画で描かれると思うので、皆さんに感じ取ってほしい
役割を交代しながら撮影 迎えた上映会で市民の反応は
いよいよ撮影が始まった。メンバーは演出、カメラマン、音声など、役割を交代しながら、初めての映画制作に取り組んだ。

藤森圭太郎 監督:
自分が想像していた以上に、違う映像が撮れました。「しゃぎり」は本物を撮っている感じがすごくしたから、撮ってよかったと思いました
そして、いよいよ迎えた、6月の上映会。

メンバーたちも、完成した作品を見るのは初めてだ。客席には多くの市民が詰めかけた。撮影に協力してくれた人たちの姿もあった。

観客:
この映画は水と富士山が大きなテーマになっていると思います。すごく心に染み入ります

最年少メンバーの河西舞さん:
三島は良いところだな、ここが地元で大好きな場所なんだと感じました。小さな頃からずっと住んでいてなかなかわからないですけど。
将来、三島の良さを誰かと一緒に発信できるような仕事につけたらなと思っています

映画作りを通して、三島の街とプロの仕事に触れた2カ月間。参加した若者たちには、これまでとは違った景色が見えているはずだ。そして地元の人たちも、映画への親しみが増したのではないだろうか。
(テレビ静岡)