新種のタツノオトシゴ「ヒメタツ」。その命の営みを高い確率で見ることができると、いま水俣の海が注目されている。海に潜り、ヒメタツの観察を続けてきた男性の思いに迫った。

「あの水俣」根強く残る偏見に悔しさも

さかなクン:
熊本県、そして芦北、水俣の魅力を「ギョギョッ」と伝えていきたい

「みなまた・あしきたギョギョギョ大使」に任命
「みなまた・あしきたギョギョギョ大使」に任命
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7月、熊本県と水俣・芦北・津奈木の3市町が、タレントで魚類学者のさかなクンを「みなまた・あしきたギョギョギョ大使」に任命した。

水俣と芦北の海や地域の魅力を紹介していく「ギョギョギョ大使」。2017年、新種のタツノオトシゴ「ヒメタツ」の発見にさかなクンが関わったことが縁で就任することになったという。

ヒメタツは体長約10cm。水俣の海にも多くが生息し、1月から8月が繁殖シーズンとされている。

このヒメタツの繁殖行動を2015年から観察し続けている男性がいる。水俣市でダイビングショップ「シーホース」を営む森下誠さん(52)だ。

午前0時を回ろうかという時間、森下さんは湯の児の海でほぼ毎晩、海に潜りヒメタツの観察を続けてきた。出身地の水俣でダイビングを始めたのは2008年で、それ以前は愛知県で働いていた。

森下誠さん:
20代前半は、自分の出身地もあまり堂々と言えなかったですね。聞かれても「熊本県」までで止めていました

かつて、メチル水銀を含む工場排水で汚染された水俣の海。根強く残る偏見に悔しさを覚えることもあったという。

森下誠さん:
「あの水俣…」というように、いいイメージでは(相手が)話してきませんので。あまりふるさとの話をしたくなかったというのはありましたね

しかし、独立を機に戻ってきた水俣で森下さんを待っていたのは美しい海だった。一瞬にして心を奪われたという。

森下誠さん:
透明度が高くて見渡せるんです。魚たちがいっぱい泳いでいて、さらに海藻の根元をよく探してみると、タツノオトシゴが何匹もいる。こんなに素晴らしい海は他でもなかなか見たことないと

貴重な繁殖シーンを間近で ダイバーたち感動

森下誠さん:
今日は産みそうなのが2候補いて、それを狙います

今では多くの命があふれる水俣の海。この日も県外から2人のダイバーが潜りに来ていた。お目当ては、もちろんヒメタツだ。

ヒメタツの繁殖シーズンに見られるのが、「ハート」と呼ばれるメスがオスに卵を渡す行為。そして、卵から生まれた子どもをオスが出産する「ハッチアウト」。

その後、卵から生まれた子どもをオスが出産する「ハッチアウト」へ
その後、卵から生まれた子どもをオスが出産する「ハッチアウト」へ

森下さんのダイビングは、高い確率でこの2つを撮影できると注目を集めている。この日も休憩を取りながらお昼ごろまで潜り続け、チャンスをうかがった。

神奈川からの参加者:
たぶんこの確率でそのシーンが見られる海はここしかないと思いますし、森下さんしか見せることができる人はいないと思います。最高のシーンでした

この日撮影された「ハート」の様子。オスの体が小さく、卵があふれている

「ハート」の様子 体が小さいほうがオス
「ハート」の様子 体が小さいほうがオス

静岡からの参加者:
きれいなハートになっていました。オスのおなかから卵がめちゃめちゃこぼれていて、あの後どうなるんでしょうね

満足げなダイバーたちに、森下さんもうれしそう。

森下誠さん:
卵が満たされたら、オスのおなかが赤くなったじゃないですか

ダイバー:
たぶん写真見たら…

森下誠さん:
写真見たらすぐ分かります。逆にメスのおなかが、ベコベコベコとへこんでいくんです。パンパンだったのがね

「自慢の海を知ってほしい」海中ライブ中継も

高確率でヒメタツの命の営みを目にすることができる、森下さんのダイビング。その秘密はダイビングから戻った事務所にあった。

森下誠さん:
潜った観察の記録をパソコンに入力しています。潜っているときは眠くないが、この時が一番眠いです。でも大事なデータなので、がんばって入力します

長年データを取り続けてきたおかげで、今では「ハッチアウト」の時期も予想がつくようになったという。

森下誠さん:
出産しそうなオスは色分けしていて、例えば黒い印のところは3日以内に出産予定と。夜は基本的にねぐらに帰ってきて寝ていて、夜に潜って監察するとちゃんと帰ってきているので様子がわかるんです

一晩中潜ったあとのデータ入力。ダイビング客も多い今の時期、平均睡眠時間は3時間ほど。それでも、毎晩潜って観察を続ける理由は…。

森下誠さん:
とても貴重な繁殖行動を高確率でお客さまに見せるということをやりたいんです。命の営みが水俣の海で見られて、すごく感動したなと思ってお客さんが帰っていって。そして、また来年も来ましたとか、そうなっていってくれたら

美しい水俣の海を知ってほしいと森下さんが力を入れているのは、ダイビングだけではない。県や市と協力して、海中ライブ中継なども精力的に行っている。

この日の主役もやはりヒメタツ。会場にいた大人も子どもも、引き込まれるように画面を見つめていた。

あさぎり町から参加した女の子:
ヒメタツとかなかなか見られないものを見られて、よかったなと思いました

女の子の母親:
水俣の海がこんなにきれいだというのがわかって、うれしかったです

一度は汚染された水俣の海。その再生のシンボルであるヒメタツに森下さんが託す思いとは…。

森下誠さん:
このヒメタツが水俣にたくさんいるというのは多分、日本一だと思います。ふるさとにたくさんいるということで自信をもらったというか、誇りを持てるようになったとても大きな存在です。水俣市民や水俣の子どもたちにとって自慢できる海、誇れる海、そういうふうになっていけばいいなと

(テレビ熊本)

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