4月、国の有識者会議は日本海溝と千島海溝で巨大地震が起きた場合の津波について新たな想定を示した。

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岩手県宮古市で30メートル近い津波が見込まれているが、岩手県だけ具体的な浸水範囲の想定が公表されていない。

住民に必要なはずの情報が非公表とされている背景には何があるのか。

地震・津波の想定をまとめた

東北大学 災害科学国際研究所・今村文彦所長:
東日本大震災の(震源の)もう少し北側で、どのような規模の災害が起こるのか。津波堆積物という科学的な根拠に基づいて、信頼性の高い評価を行った

東北大学災害科学国際研究所の今村文彦所長。
内閣府の有識者会議のメンバー。

今村所長らは、東日本大震災の震源から北側の領域で今後起きうる、最大クラスの地震の想定を4年かけてまとめ、4月21日公表した。

それによると、岩手沖から続く日本海溝沿いでは、最大でマグニチュード9.1、襟裳岬から東の千島海溝沿いでは、最大でマグニチュード9.3の地震が想定されている。

このうち日本海溝沿いの地震では、大槌町、釜石市などで震度6強を観測するとされている。

有識者会議では最大クラスの津波の想定もまとめた。
県内での高さは、宮古市で最大29.7メートル、岩泉町で最大26.6メートルなどとなっていて、宮古より北では、東日本大震災より高くなる場所もあるとされている。

400年に1回の地震周期に入っている

東北大学 災害科学国際研究所・今村文彦所長:
(堆積物調査で)400年に1回起きている地震があり、(前回が)17世紀なので、約400年弱。次の地震津波がいつ起こってもおかしくない周期に入っている

沿岸の市長らの要請により公表せず

今回の想定では、津波が到達する各道県の市町村ごとに浸水想定範囲の図が示されているが、岩手県だけはこの図が公表されていない。沿岸の市長らが公表を控えるよう要請したからだ。

宮古市・山本正徳市長:
疑義がある中で、市民にオープンにするのが難しいと思った

宮古市の山本市長が抱いた疑義の1つは、市役所の庁舎についてだった。
宮古市役所の庁舎は、東日本大震災後1.5メートルかさ上げした場所に建てられているが、今回の想定では、3.6メートルの高さまで浸水するとされている。

しかし、市が内閣府に確認したところ、3.6メートル浸水するという今回の想定には1.5メートルのかさ上げ分が考慮されていないことがわかった。

ほかにも地域ごとのくわしいデータがなかったことなどから、公表は拙速と判断したという。

宮古市・山本正徳市長:
東日本大震災の時には、宮古市内で33地域が被災した。33カ所がどうなるかという検討もされていないんです

今回の想定では、防潮堤が全て破壊されるとの前提で行われている点も、自治体から疑問を呼んだ。

地域防災学が専門の岩手大学・齋藤徳美名誉教授はこう指摘する。

岩手大学(地域防災学)・齋藤徳美名誉教授:
造った施設が破壊されるという前提の予測ですね。今までやってきた防災対策との整合性はどうなるかということで、(市長らが)疑義を出したのだと思う。それは当然のことではないかと

住民などからは公表すべしとの声も

そうした声があがる一方、浸水想定が公表された宮城県に接する陸前高田市の中村防災課長は早く公表すべきと考えている。

陸前高田市 防災課・中村吉雄課長:
陸前高田市民からすると、隣の町はこうだが、うちはどうなんだろうと、みなさん考えられるのは当然だと思うし、それを早く知らせる必要もあると思う

早い公表を求める声は住民からも出ている。

釜石市唐丹町花露辺地区で震災当時町内会長を務めていた下村恵寿さん。
この地区では震災後防潮堤を造らない決断をした一方、定期的に避難訓練を行い、今後の災害に備えている。

震災当時の花露辺町内会長・下村恵寿(しげとし)さん:
釜石には、あるいは唐丹には何メートルの津波が想定されますよというのと、全然情報がでたらめなのとでは、避難する心構えも違ってくると思う。正確な情報を正確に伝えてほしい

切迫性が高いながら、宙に浮いたままとなっている浸水想定。

有識者会議の今村所長は「より詳細なシミュレーションは、今後県ごとに行われるので、まずは今回の想定を早く周知し、規模感を理解してもらいたい」と語る。

東北大学 災害科学国際研究所・今村文彦所長:
(今回の想定の)格子間隔は10メートル、少し粗いんですね。今後、地形や新たな建物の情報を入れると、(津波の高さは)変わってくるので、あまり数字にこだわらずに、規模感をご理解いただければと。避難に関して、今一度、必要性を理解していただきたい

一方、岩手大学の齋藤教授は「内閣府の説明が不十分だったのでは」と指摘する。

岩手大学(地域防災学)・齋藤徳美名誉教授:
 一方的に数値だけというところで、やはり地元は困惑する要素が大きい。”すり合わせ”をして、よく理解してもらえるよう説明をきちんとすることを求めたい

高い切迫性 早く防災に活用を

今後について、宮古市の山本市長は

宮古市・山本正徳市長:
データをもっとくわしく聞いて、岩手県が行うシミュレーションなど、さまざまなものをとらえ、しっかり分析して、市民の皆さんに伝えていきたい

内閣府は今後、市町村に具体的な説明を行うべく、県と調整を進めているとしている。

想定外だった東日本大震災の反省を踏まえ、4年かけてまとめられた今回の想定。

少しでも早く防災に生かすべきであることは言うまでもない。

(岩手めんこいテレビ)

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