幼児の一部の運動能力がコロナ前に比べ、低下していることが明らかになった。

調査したのは、島根大学地域包括ケア教育研究センターの安部孝文助教と身体教育医学研究所うんなんの北湯口純主任研究員らの研究チーム。これまで小学生以上のコロナ禍の運動能力の低下は知られていたが、幼児の現状は十分にわかっていなかったという。

“ソフトボール投げ”が幼児の全年代で低下

研究チームは島根県雲南市の幼児について、2019年10月~11月(608人)のコロナ前と2020年10月~11月(517人)の運動能力(ソフトボール投げ、25m走、立ち幅跳び)のデータを比較。

その結果、ソフトボール投げはデータを小さい方から順に並べた時の中央の値が、年少児は3.0mから2.5m、年中児は5.0mから4.0m、年長児は6.3mから5.0mと低下。つまり、すべての年代で低下していたのだ。

コロナ禍とコロナ前の幼児の運動能力の比較(画像提供:島根大学地域包括ケア教育研究センター 安部孝文助教)
コロナ禍とコロナ前の幼児の運動能力の比較(画像提供:島根大学地域包括ケア教育研究センター 安部孝文助教)
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このソフトボール投げは、巧緻性という体の動きを調整する力を示していて、コロナ禍でこの巧緻性を高める運動経験が不足している可能性があるという。

また年長児は、25m走で4.3m/秒から4.2m/秒に低下したこともわかった。 一方で、他の年代の“25m走”や全年代の“立ち幅跳び”には統計学的に有意な差は認められなかったという。

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活動制限で運動や遊びの時間が確保できず

コロナ禍で幼児の一部の運動能力において、低下していることがわかった今回の研究結果。では、ウィズコロナの新しいライフスタイルが定着しつつある今、幼児の運動能力の低下は挽回できるのか?

研究チームの一人である島根大学地域包括ケア教育研究センターの安部孝文助教に詳しく話を聞いてみた。


――なぜ今回、幼児の運動能力に注目した?

今回、研究の対象地域である島根県雲南市は、雲南市独自の幼児期運動プログラムを策定して、幼児期から運動遊びを通じた適切な運動能力の獲得に向けて取り組みを行っています。その取り組みの一環として、幼児を対象に運動能力の測定が毎年行われています。私たちは、その測定結果を分析することで、コロナ禍の運動能力低下を明らかにしました。


――幼児の運動能力の低下の原因はどんなことが考えられる?

コロナ禍においては、今まで行っていた活動が制限されたことで、様々な運動や遊びの時間が確保できなかった可能性があります。特に、ボールのような道具を使った遊びは、感染リスクと考え控えていたかもしれません。また、自宅で過ごす時間が増えて、スクリーンタイムの増加などにより、不活動な生活を過ごしていたことも一因と考えられます。

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――ソフトボールの巧緻性は本来、どんな運動で養われる?

巧緻性は、体の動きを調整する力になります。幼児期では、3つの基本的な動きとして「体のバランスをとる動き」「体を移動する動き」「用具等を操作する動き」をとりいれながら、発達に応じて様々な運動を行うことで身に付きます。

1日あたり合計60分以上の運動遊びが必要

――幼児のころの運動能力の低下は、その後の成長にも影響を及ぼす?

その後にも影響する可能性があります。将来の運動習慣や体力はもちろんのこと、健康状態にも関わってくると考えられます。


――ウィズコロナで、これから挽回することはできる?

挽回可能だと思います。幼児期の運動能力測定は、まだ一般的ではありませんが、小学校以上では、毎年、新体力テストが多くの学校で行われています。特に、小学校5年生と中学2年生では全国規模の調査が行われています。このような測定の機会に、運動能力の現状を知ることが、運動のきっかけ(対策を講じる機会)になると思います。


――親や幼稚園・保育園はどんなことをするべき?

これまで通り、感染対策を行いながら、様々な運動や遊びの経験ができる環境づくりを行うことが大切です。運動遊びの時間の目安は、1日あたり合計60分以上です。また、自宅で過ごす場合も、メディアに接する時間や座って過ごす時間を短くしましょう。

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コロナ禍の活動制限が幼児の運動能力にも影響を与えていた。
運動能力のアップには、1日60分以上の運動遊びをすることが大事なようだ。将来の体力や健康状態にも関わってくる可能性もあるので、親や幼稚園・保育園は感染対策、熱中症対策をしながら、幼児の運動遊びを心掛けてほしい。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。