まもなく夏本番、花火の季節がやってくる。昔から花火産業が盛んな愛知県岡崎市の「太田煙火(おおたえんか)」では、70年以上前から花火「ドラゴン」の製造を行ってきた。コロナ禍となり売上は例年の3割に落ち込んだが、それでも「国産花火の火は消さない」と新作花火を開発している。
代々受け継がれてきた秘伝「火薬の配合帳」
この記事の画像(25枚)愛知県岡崎市は、徳川家康が鉄砲の製造を厳しく制限した江戸時代も、特別に火薬の製造が認められるなど、昔から花火産業が盛んな地域。
市内にある「佐野花火店」には、手持ち花火や打ち上げ花火など、バラエティ豊かな商品が並んでいる。
中でも一番人気は、70年以上前に発売され今もなお愛される「ドラゴン」(110円)だ。
佐野花火店の社長:
私たちは「太田のドラゴン」って言うんですけど。太田さんが作るドラゴン花火、噴き出し花火はすごく人気
太田のドラゴンは、岡崎市にある1928年創業の花火メーカー「太田煙火製造所」が作っている。太田煙火では、火薬の配合やパッケージなどの全工程を自社で行ってきた。
現在は5代目の太田恒司さんが営み、ドラゴンを中心に噴出花火と呼ばれる玩具花火を10種類以上製造している。
太田恒司さん:
ウチの秘伝、火薬の配合帳。どんな原料を合わせるとこんな火薬ができるという、一般の人が見てもわからないようになっています
初代から連綿と受け継がれてきた火薬の配合帳は、他の人に見られても大丈夫なように、分量などを記号で記した大切な資料だ。
太田恒司さん:
いまだに新しい商品を出す時に参考にしたり…。火薬の基本ベースはだいたい決まっているので、それをどういうふうに配合の比率を変えるか
屋外の花火はコロナ禍でも人気があるイメージだが、2020年~2021年はコロナの影響で売上が例年の3割ほどに落ち込んだという。
太田恒司さん:
よくお盆に帰省されて花火をやることが多いと思うんですが、それが非常に減っちゃった
玩具花火は今や9割以上が外国製。このまま国産花火の火を消すわけにはいかないと、太田さんはコロナが落ち着いた2022年の夏に期待している。
太田恒司さん:
皆さんがお出かけして「花火でもやろうか」って気分になってくれるとありがたい
紙パイプに火薬を詰め…危険なため山の中で製造
ドラゴン花火は、今でもイチから手作りで製造している。以前は岡崎市内で製造していたが、住宅地や公園などの開発が進んだため、岡崎市の隣、幸田町の山の中に製造拠点を移した。
太田恒司さん:
花火製造の建物が点在しています。これも、法律で作業する建物と他の建物とは、これだけの距離をとらなきゃいけないって決まっている。この建物で紙パイプの中に火薬を詰めてフタをする作業を行う
材料は紙パイプと2種類の火薬と至ってシンプルだが、実はドラゴンを完成まで作り上げることができるのは、今や日本でただ1人、太田さんだけともいわれている。
太田恒司さん:
この中に、マグナリウムという金属粉が入っていまして、それを咲かせます
まずはパイプを37本束ねた状態で、底から火薬を詰めていく。その火薬に含まれているのが、白い粒の「マグナリウム」で、ドラゴンで最初にバチバチと光る火花のもと。続いて、ドラゴンの後半の明るく噴き上がる火花のもとになる金属粉「アルミニウム」を入れる。しっかりと火薬を詰めたところで…。
太田恒司さん:
パッキンをしてフタを。火薬に圧力をかけるので危険な作業。しっかりプレスしておかないと、燃焼時間が変わったり、現象が変わったりするので。大事な作業の一つ
作業小屋には照明が無く、薄暗いのには理由があった。
太田恒司さん:
電気がきていないのが一番安全。この動力もエアプレスで、遠くのコンプレッサーからエアーをここまで送ってきています
火薬を扱うだけに安全最優先での作業を心掛けていた。最後に、上の噴出口に着火剤を塗った導火線を差し込んだら完成だ。
堅い紙パイプに火薬を詰めたドラゴンの基本的な作りは、発売以来70年以上変わっていない。子供たちが気軽に買えるようにと、110円からと価格も据え置いている。
「3色できれい」パリ五輪を意識した新作花火
2022年、太田さんはドラゴンの進化版を開発した。
太田恒司さん:
3回色が変化する。銅から、銀から、金へ変わる
新作花火「栄光の架橋」(330円)は、2024年のパリオリンピックを意識して作られた。
噴き上がった火花は、最初は銅からスタート。やがて銀色が噴き出し、最後は金色になった。
男の子:
3色の花火がすごくきれい
太田恒司さん:
商品に対してファンがついてくれるのが一番。「わ~」とか「お~」とか。その言葉が聞ければいい。三河花火の伝統は残していきたい
5代目は、「太田のドラゴン」70年以上の歴史を次の世代につないでいる。
(東海テレビ)