人口減少と高齢化が進む広島・三次(みよし)市で、地域の悩みをデジタルの力で解消しようとする取り組みが進んでいる。その現場を取材した。
田んぼわきの市道の草を刈る1人の女性。その作業を、三次市の職員が期待のまなざしで見守る。実はこれ、三次市とIT企業が行った実証実験。

実証事業に参加した森脇麻由さん:
腕が疲れて。慣れていないので、大変な仕事だなと思いました

デジタルの力で人が関わる業務を簡素化
デジタルの力で地域の人々の悩みを解決し、さらに自治体の業務を効率化する…そんな一挙両得をめざす取り組み。三次市では今、市長の肝いりでこの取り組みに力を入れている。
三次市DX推進本部事務局・宮本香係長:
こちらは健康推進課で、コロナのワクチンの管理をしている部署です。

宮本係長:
3回目の接種に向けて摂取記録をあらう作業を、人ではなく、“RPA”という一部ロボットに自動化させたシステムで処理している。人間だと目で見て比べる作業になるが、これを機械にやってもらうということです

デジタル化で新たな価値を生み出すデジタルトランスフォーメーション(DX)。このシステムを導入することで、確認にかかる時間を約80%削減できたという。

そのほかにも、三次市役所の公式ライン上に24時間、ゴミの分別について答えるAIチャットを設置。捨て方まで丁寧に教えてくれる。

さらに市民課では死亡届を提出したときに、健康保険やマイナンバーの廃止など、その人に関わる必要な行政手続きが自動で記されるようになった。申請が必要な書類にも、名前や住所が自動で記入される。

宮本係長:
本人確認を一度済ましてしまえば、自動で印刷されたものが出てくる。住民の方は何度も書く手間が省ける
三次市では現在、大小約20のDXプロジェクトが進められている。DXに力を入れるそのわけは…
宮本係長:
市長がDXを進める方針。人口減少、高齢化社会をどう乗り越えていくのか。今までのやり方ではもう駄目。市民の方がどういう暮らしが幸せなのか。便利で楽な暮らしを、デジタルの力を使って変革して、より良い市民サービスを生み出していこうと…

人口減少・高齢化で草刈りする人がいない…
三次市内に網の目のように張り巡らされた市道。三次市が管理する市道は、約3600路線、1850キロにもおよぶ。

三次市役所建設部土木課・小林大策係長:
ここは市道ですので、基本的には三次市の管理になるんですけども。距離数が非常に長く、全て市で除草するのは難しい。地域の人に協力してもらって、細い道路は地元で除草管理している所が多い

地域住民が市道の草刈りをして申請すると、1平方メートルあたり20円の手当てが出る制度が三次市にはあり、住民が市道を除草する後押しになっていた。
しかし…
小林大策係長:
地域によっては草を刈れる人が1人とか2人とか、70代80代ばかりで作業が苦しい地域が年々増えていると思う

民間企業の力を借りて地域課題の解決
三次市畠敷町。山際に沿って作られた市道の隣にあるのは、戸田肇さんの田んぼ。長年、田んぼの畔や市道の雑草は戸田さんが刈っていた。

戸田肇さん:
もう年だから、斜面の草を刈るのは難しいから市へお願いをした

この日、戸田さんに代わって市道の草刈りをするのが、森脇麻由さん。三次市に引っ越してまだ2年ほどという森脇さんが、なぜ市道の草を刈ることになったのか…

きっかけは…月間1000万人以上が利用する情報サイト「ジモティー」。三次市はサイトを通じて、草刈りに協力してくれる人を集める実証事業を行うことにした。

三次市DX推進本部事務局・宮本係長:
草刈りをやって欲しい人と、やってあげようという人が繋がれば、草刈りをサポートしてくれる人がいるのではないか。デジタルを使って人をつなげていくと、そういった仕組みを今考えているところです
「ジモティー」を通じて、実証事業の趣旨に賛同してくれた人は約20人。この日、都合がついた森脇さんは今は三次市に住んでいるが、草刈り機を使うのは全くの初めて。
1時間ほどかけて、ゆっくり丁寧に市道約80mの雑草を刈り取った。

市職員:
めっちゃ、上手になっとってですよ、最初にくらべたら…
森脇麻由さん:
結構難しいですね
戸田肇さん:
初めてにしては上手よ
森脇麻由さん:
ありがとうございます

ほかの地域にも活用できるシステム
今回、三次市に協力した「ジモティー」も手ごたえを感じたようだ。
ジモティー・日向野朋実取締役:
今回、三次市の草刈りという限られた募集でも、かなりたくさんの人が手をあげてびっくりした。同じように困っているところは日本中たくさんあると思うので、労働力不足で困っている地域の作業に対して、「ジモティー」がマッチングをスムーズにして解決量を上げていきたい

実は今回、実証事業を行うのは人のマッチングだけではない。
三次市は、草刈りの申請や報告、さらにその決済まで行う電子システム・ロコネットを新たに導入。これまでは紙の報告書や写真を市役所まで持ち込むか、郵送する必要があったが、ロコネットでは、パソコンやスマートフォンから草刈りをした場所や距離、写真などを電子申請で完結できる。

(Q.電子申請システムはうまくいきそうか?)
三次市総務部財産管理課・西岡信治主査:
そうですね、ロコネット。無事に申請も動いてます。市役所に申請書を持って来なくてもいいし、紙に書かなくてもいいので、申請者はとても楽になると思う
ジモティー・日向野朋実取締役:
地元の方とも話をして、他の都市の他の作業でも同じことが起きているんじゃないかと、いろいろ話をして感じたので、「ジモティー」が解決できる数・大きさはまだたくさんあると思っている。まずは三次市でスタートさせて、どんどん解決量を増やしていきたい

デジタルの力を使って、より良い市民サービスを模索する三次市。草刈りをしてもらいたい人とやりたい人を結びつけ、地域の悩みを解決するこの仕組みをどう運用していくのか。2023年度の実現を目指す。
(テレビ新広島)