交通事故や脳卒中などで脳が損傷し、記憶障害などが出る脳の後遺症「高次脳機能障害」。この障害がある人は国内に32万人以上、長崎県内だけで約3000人いるとされている。

「見えない障害」と言われる高次脳機能障害と向き合う家族が、不安や経験を共有する場が、このほど長崎市にできた。

症状が出てもあまり目立たず、気付きにくい

飯田彰吾さん:
いよいよ本番ですね、よろしくお願いします

長崎市に住む飯田さん一家。2022年5月、高次脳機能障害がある子どもと家族の会を立ち上げた。

飯田彰吾さん:
病院で私の子どもが「高次脳機能障害を発症しているのでは」と告げられてから5年近くになる

飯田さんの長女・ちひろさん(13)は小学1年生の時、登校中に軽トラックにはねられ、一時意識不明の重体になった。一命は取り留めたものの、体には麻痺と脳の損傷による後遺症「高次脳機能障害」が残った。

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集中力が続かず、記憶が定着しづらいのが特徴。何度も同じことを言ったり聞いたり、また、やりたいことを我慢できない、疲れやすいことなどが挙げられる。

しかし、こうした症状が出てもあまり目立つことはなく、本人も周りも障害があると気付くまでに時間がかかる。

ハイリハキッズ(東京都の家族会)・中村千穂代表:
ネットで検索すれば色々な情報が取れると思います。だけど「これから先、うちの子はどうなるんだろう」と、自身が持つ不安までは調べられない

長崎県の調べでは「高次脳機能障害」がある人は、県内に約3000人いる。「見えない障害」に悩む家族は少なくない。不安や経験を共有して孤立しないようにと作られたのが家族会だ。

飯田彰吾さん:
涙を出しながら思いを話し合う。そんな関係、大人になってからないですよね。そこまでして心をさらけ出して、話して支え合えて。症例が少ない分、先輩方の経験を聞けるのは大きい

真剣な面持ちで話しを聞く飯田彰吾さん
真剣な面持ちで話しを聞く飯田彰吾さん

「覚えられない自分が悪い」と責める人も

メンバーの中には、15年以上障害と向き合ってきた家族もいる。
諫早市の西川さん親子。長男の雅人さん(25)は小学3年生の時、脳腫瘍を患い手術後に症状が現れた。

母・西川友子さん:
「週末○○行くよね」となった時に、1時間くらい経ったら「あした何すると」って何回も聞く

長男・雅人さん:
「さっき言うたやろ」って。「何で覚えきらんと」と言われるのが嫌

当時、障害を知らなかった西川さんの苛立ちは雅人さんに向けられた。

母・西川友子さん:
「甘やかしているんじゃないか」「親のしつけが悪い」とか、方法論ばかり周りから言われて。「さっき言うたやん」とか、ただ頭ごなしに怒って

脳神経外科にかかっても理由は分からず、雅人さんは自分自身にあたるようになった。

母・西川友子さん:
分かっていない自分がダメなんだと自分を責めて、頭をたたいていた。覚えられない自分がダメなんだって

雅人さんが高次脳機能障害と分かったのは手術から約5年後だった。相談支援などの環境整備も進められているが、十分とは言えない。

長男・雅人さん:
僕が発症した頃は小児の家族会がなくて、誰にも相談できない。自分と一緒の状態の人がいないから相談もできないし、どうしたらいいの?と

支援広げ、明るい未来を想像できる場に

障害と向き合う中で親子関係は少しずつ改善されたが、進学先や就職先など悩みは尽きない。

母・西川友子さん:
私は健常者、あなたは障害者、かわいそうね、とかではなくて。本当にそれはもう辛かったので、その言葉は。よく今まで諦めずに手放さずに頑張ったねと、(家族会では)言って。そういう言葉を掛けさせてもらっている

笑顔で話す西川さん親子 家族会にて
笑顔で話す西川さん親子 家族会にて

雅人さんは現在25歳。日中は諫早市内の福祉施設で焼き菓子を作ったあと、クラフトペーパーでバッグや雑貨を作っている。

母・西川友子さん:
入院中に折り紙をするようになって、折り紙だけでは飽き足らず

口コミで評判が広がり、県内外から注文が来るようになった。

雅人さんが手がけた作品 クラフトペーパーでバッグや雑貨を製作
雅人さんが手がけた作品 クラフトペーパーでバッグや雑貨を製作

長男・雅人さん:
5mとかあるひもを編んでいくので、達成感がものすごくある

先輩親子の姿は家族会のメンバーにとって1つの道標にもなっている。

飯田陽子さん:
西川さんみたいに、できないことではなくて、できることに目を向けられるようになったらなと。色々な人の事例をみて見通しが立つ。子どもの未来が暗いんじゃなくて、こんな風にしたらいいのかもと明るい未来を想像できる場所になったら

家族会の名前は「よりよりホームズ」。就職まで切れ目なく支援の輪を広げたいとの思いも込められている。

代表・飯田彰吾さん:
伝統菓子の「よりより」のようにしっかりと堅く結ばれて、ちょっとした心遣いや仕組みがあれば、高次脳機能障害を持っていてもスムーズに生活を送ることができる。見えない障害だけど広めていって、サポートも社会の中で広がれば

長崎県によると、高次脳機能障害を発症する人は県内の65歳未満で年間120人前後、うち18歳未満は10~20人と推定されている。

会では今後の活動を通して、1つでも多くの症例が集まれば子どもたちにとっても、社会にとっても財産になるとしていて、交流会などで家族が経験を話す場を設けることも検討している。

(テレビ長崎)

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