バリアフリー費用を運賃に上乗せ
連日、食品などの値上げが発表されているが、鉄道運賃も例外ではなかった。鉄道各社が、相次いで、来春の値上げを発表している。その背景の一つが、バリアフリー化だ。
政府は、ホームドア、エレベーター、エスカレーターなど、駅のバリアフリー化を加速させるため、去年12月、新しい制度を創設。それにより、バリアフリー化の費用を、運賃に上乗せすることが可能となった。
各社は、利用者が多い都市部で、「広く、薄く」、費用を徴収する枠組みを作ることに。まず、JR東日本と東京メトロが、この制度を利用することを申請し、認められた。来年3月頃をメドに、値上げの見通しとなっている。
この記事の画像(5枚)JR東・東京メトロ 来春10円値上げへ
JR東日本の場合、値上げは、首都圏の一部路線、主に東京圏が対象でIC運賃、切符運賃ともに、1回の乗車で10円の値上げ、通勤定期も1ヶ月で280円、6ヶ月で1420円の加算となる。通学定期は加算の対象外だ。
2031年度末までに、首都圏の244駅でホームドアの設置を目指すJR東日本。今後のバリアフリー化のための設備費用は、およそ4200億円で、このうちのおよそ4100億円をホームドアの設置費用が占める。維持費を含めた総費用は5900億円にのぼるそうだ。
一方で、今回の値上げによる徴収額は、1年間で230億円が見込まれている。JR東日本は、総費用のうちの半分程度のおよそ2990億円について、”値上げ分”を当てることにしている。
また東京メトロもこの料金制度を活用し、2025年度までにすべての路線でホームドアを整備。運賃は、来年3月ごろをメドに、IC、切符運賃ともに10円の値上げ、通勤定期では、1ヶ月370円、6ヶ月で2000円ほどの値上げとなり、JR東日本同様に通学定期は対象外となる。東京メトロは、値上げによる年間徴収額を109億円と見込んでいる。
東急をめぐる”異なる”事情
続いて、東急電鉄も、来年3月に運賃を値上げすると発表。東急は、この制度に先駆けて、ホームドア、センサー付き固定式ホーム柵、車内防犯カメラなどの整備を進めてきた。
ところが、コロナの感染拡大によるテレワークの定着などから、特に定期券の利用者が大きく減少。経営状況が厳しいことなどを理由に値上げを決めたという。2005年の運賃改定以来、消費増税時を除くと18年ぶりの値上げになる。
「遅すぎた」バリアフリー促進 今後は・・・
新型コロナの感染拡大以降、鉄道の乗客は減少、コロナ禍前に戻らないとの見方もある。一方で、列車内での事件が相次ぎ、車内の防犯カメラの設置などの安全対策も急務だ。さらに、地震や自然災害への対応なども・・・。いずれも、鉄道会社にとって、コロナ禍で厳しい経営状況の中、早急な対策が求められるものばかりだ。
今回、2社の値上げは、バリアフリー化の加速に向けた新制度によるものだ。一方で、幅広い利用者の利便性を考えると、この制度を、もっと早く創設できなかったのかとの疑問も残る。東京パラリンピックが終わった後では、遅いのではないか。
また、運賃の制度見直しについては、ラッシュ時の料金を高くし、オフピーク時を安くする、ダイナミックプライシングの導入も検討されている。引き続き、議論には透明性、公平性が求められる。
(フジテレビ社会部・国交省担当 滝澤教子)