大きな釜の中に次々に入れられているのは、様々な植物の根や皮、そして種。

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さらに別の釜では何やら果物らしきものがグツグツと…。

実はここに、日本から世界へと飛躍する、あるお酒の秘密が…

大手飲料メーカー、サントリーの大阪工場。

この地で作られているのが、ここ数年で人気が急上昇している国産ジン「ROKU」と「翠」。

ジンはかつて、輸入品が主流だったが、去年、国内市場で国産品が輸入品を逆転。

さらに「ROKU」は高価格帯のジンとして世界での販売数2位と躍進。

ソーダで割って飲む「翠ジンソーダ」が国内で人気となっている。

「翆」も4月からアジア向けに輸出を始めるなど、国産のジンが今、ワールドワイドな広がりを見せている。

その強みについて、およそ40年にわたってジン作りに携わってきた“ジンづくりのレジェンド”に聞いた。

サントリースピリッツ 技術顧問 鳥井和之さん:
やはり日本で作るものなので、日本のものづくりの考え方を入れたジャパニーズクラフトジンを開発しようと。ジンの魅力は作り手からいうと、非常に自由度が高いんですね。ですから本当に自分の作りたい味わい、あるいはどういう場面で楽しんでいただきたいか、というのを踏まえて原材料を選べる。

ジンの名前の由来にもなっているジュニパーベリーという木の実のほか、様々な材料をアルコールに漬け込み、蒸留・配合して作り上げるジン。材料の種類や蒸留したお酒のブレンドの比率は、国や地域、さらに職人それぞれによって異なるため、個性豊かなジンが様々な場所で作られている。

世界に誇れるジャパニーズジンを作りたい。そこで鳥井さんがこだわったのがユズや緑茶、ショウガといった日本伝統の“和の素材”です。

こちらはユズを蒸留する大きな蒸留釜。あたりにはユズの甘くて豊かな香りがいっぱいに広がっている。

和の素材が持つ独特の甘みや深み。その良さを最大限に活かした作り手のこだわりが日本、そして世界の人にも喜ばれるジャパニーズジンを生み出しました。

サントリースピリッツ 技術顧問 鳥井和之さん:
元々のジンは非常にシャープな味わいで、ドライなものが多いんですけれども、やはり日本のイメージというのは、もう少し柔らかくて、かといって弱いということではない。例えば、レモンじゃなくてユズというのは日本人の方ならみんなわかると思うんですけど、同じシトラスでもすごく柔らかかったり、味わいがあったり少し甘い感じ。レモンは酸っぱい感じです。そういう日本的な味わいのものを積み重ねて日本を感じていただきたいということで、いろいろ原料を選んだという経緯があります。

和の素材を使うことで、和食との親和性も高いこれらのジン。今後はさらに世界を舞台に飛躍を続けます。

サントリースピリッツ 技術顧問 鳥井和之さん:
今、ジャパニーズクラフトのジンは本当に全国各地から出ていて、いろんな味わいのものが出てきています。こういったジャパニーズのジンが色々出てくることによって、ジャパニーズジンというカテゴリーがあるんだなと、世界中の皆さんに感じていただけるようになったらいいなというのと、特に「翠」に関しては飲み方の提案になりますので、世界ではもう流行っていると言っていただけるような、知名度になったらいいな思っています。

内田嶺衣奈キャスター:
このニュースについて、デロイト トーマツ グループの松江英夫さんに伺います。

ジンがこういう風に作られていて、こんなに様々な材料が使われていることを初めて知りました。奥深いですね。

デロイト トーマツ グループCSO松江英夫氏:
本当に奥深いですね。こういった魅力が世界にどんどん広がってほしいと思うんですが、伝えるべき日本の強みは「素材を生かしつつも全体を調和できる力」、ここにあると思うんです。元来、日本の輸出産業は素材メーカーの強みに加えて、「すり合わせ」と言われるように全体を調和させていく物作りの力、ここにあったんですね。食の分野においても、世界で人気の和食、これは食材の新鮮さや盛り合わせの美しさ、「素材と調和」の部分。ここが支持されていて、強みになっていると思います。

内田嶺衣奈キャスター:
素材を調和させる物作りは今回のようなお酒、ジンにも当てはまるのでしょうか。

松江英夫氏:
そうですね。特にジンは原料に使う素材の多様さ、自由度が高いところが大きな特徴です。ただ、素材が多様になればなるほど、全体をバランスよく調和させるのが難しくなってゴールがない世界になりますから、むしろここを得意とする国産メーカーにとってはチャンスが広がる。こんな見方もできると思います。

内田嶺衣奈キャスター:
素材の良さはもちろんですが、それをいかに調和させていくか、そのバランスであったり、繊細さが大切なんですね。

松江英夫氏:
日本は地域によっていろんな食材がありますし、季節の変化もある。地域性と季節性がもたらす多様性こそが、日本の潜在的な強みです。それに加えて全体を調和させる物作り、さらには飲み方まで含めた提案ができる調和力、こういったものが広がっていくと、世界でかなり競争力が高まっていくと思うんですね。素材と調和の掛け合わせによって、ジャパニーズジンが日本が持っている奥深さを世界に示す、そんな伝道師になってくれることを期待したいです。

(「Live News α」4月29日放送より)