金や銀に次ぐ高価な金属、錫(すず)。
静岡・掛川市に工房を構え、この錫を使って食器や美術作品などの制作に取り組む男性がいる。
学生時代に偶然の出会いから錫の魅力にひかれ、その魅力を伝えたいと活動する男性を取材した。
古来から人々を魅了し続けている素材“錫”
1200年以上前に日本に伝わったとされる錫は、個体から液体に変わる融点が231.9℃と低いことに加え、柔らかく加工しやすいのが特徴。古くから仏具や神具、食器などに使われている。
掛川市の工房で錫の食器「錫器」(すずき)を制作しているのは、錫作家・志村泰利さん(33)。
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志村さん:
(錫は)銀に近いけど銀よりも白く、“白銀”という言い方をする。落ち着いた、いやらしくない光り方、それが好きですね。金属臭もなく熱伝導も良いので、最近では日本酒とかお酒を飲む人に重宝されています
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錫を削る作業は国内でも希少な職人技
鋳造した錫をろくろとカンナを使って削る作業。この伝統技法を使いこなせる職人は全国でも数十人しかいない、難しい技術だ。
![カンナで削る作業も長年の経験と技があってこそ](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/b/b/700mw/img_bb5ef4e2f921e345ca998b56ff9339be92308.jpg)
志村さん:
簡単そうに見えるけど、回転数と押し付ける力がバランス良くないとうまく削れない
いまでこそ安定した技術を身に付けた志村さんだが、錫との出会いは偶然からだった。
志村さんと錫との運命的な出会い
京都造形芸術大学(現京都芸術大学)で木工を学んでいた志村さん。
卒業を控えた2011年1月、なじみのバイク店の主人に京都の老舗金属工芸店の店主を紹介され、制作現場を見学したのがきっかけだった。
志村さん:
実は僕もその時まで錫を知らなかったので、なんでこんな柔らかい金属なんだろうとか、すごい興味をもって。楽しそうというのが第一印象でした
風合いや味わい、その奥深さに触れ、錫の魅力にひかれて工芸店に入社した志村さん。4畳半・風呂なしのアパートに住みながら、週に3、4回 京都から大阪にいる師匠の元へ通い、修行を重ねた。
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「しんどかった」修行経て…手応え感じられるように
志村さん:
一日中鋳造しても1個とか2個しかできないときが続いて、本当にしんどかったですね。(師匠に)「ここどうやるんですか?」と聞くと、一つ見本を作ってくれる。でも「それを見ろ」と言わんばかりで何もしゃべらない。だから動画で撮って家に持ち帰り、それを見ながら復習していました
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「石の上にも3年」と心に決めて、がむしゃらに働くうちに、次第に手応えを感じるようになった志村さん。
30歳を人生のターニングポイントと決めて退職し、2018年に地元である掛川市へ戻り、自身のブランドを立ち上げた。
師匠から引き継いだ“命”の道具で制作に没頭
工房は実家の一角にあった農機具小屋を改修して利用。愛用している工具はどれも年季の入ったものばかりだが、特別なものだそう。
![実家の小屋を改修した自身の工房](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/1/9/700mw/img_1941c4ed200757780f15cd64757583f879997.jpg)
志村さん:
全部師匠から引き継いだものです。師匠が50年近く使っていたものなので、道具から伝わってくるものがある。これがないと仕事ができないので、僕にとっては命ですね
![師匠から引き継いだ年季の入った道具が並ぶ](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/2/7/700mw/img_27c24c79f7e9ba4dd6d62b7f37307088106296.jpg)
独立後は制作に没頭するとともに、作った錫の食器を持って飲食店をまわった。
そうして今では、飲食店や美容院など10店舗で志村さんの錫の食器が使われている。
志村さんの錫器を愛用するファンも
掛川市にある「彩り料理 このは」。和食料理人の稲葉さんも、志村さんが制作した錫器の魅力にひかれた1人。
店では常連客に日本酒を提供する際、錫の酒器を使っている。
彩り料理 このは店主・稲葉光紘さん:
陶器のとっくりと錫で飲み比べをしているけど、味が全然違うんです。まろやかになるし、飲みやすくなる。なんといっても、提供した時のお客さんの反応がすごく良いですね
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ワークショップで錫の魅力を広める活動を
さらに、錫の文化がない静岡で魅力を広めようとワークショップを開催している志村さん。この日は小学生の親子が参加し、錫の皿作りに挑戦した。
溶けた錫を鋳造したのち、柄の入った金槌で叩いて模様を打っていく。さらにやすりで仕上げて約2時間かけて完成。
![やすりで仕上げる工程](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/e/5/700mw/img_e5952eb7618d3a7f33d8fbb28b6e60db59521.jpg)
志村さん:
はい!
子供:
ありがとうございます
志村さん:
完成です
子供:
すごい、できた!(錫は)ちょっと硬いイメージだったけど、ものすごく柔らかいものだとわかりました。また作ってみたいです
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「錫の新たな可能性に挑戦したい」個展では自分表現した作品展示
2022年2月には、地元で初めてとなる個展も開催。錫の食器の制作だけでなく、もっと自分を表現した作品を見てもらいたいと考えていた矢先の念願の開催となった。
会場には錫とドライフラワーを組み合わせた作品のほか、花瓶や盆栽の鉢なども展示され、2週間で130人が来場し好評を博した。
![2022年に開催した個展会場](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/8/8/700mw/img_881db4e2bd29303b676e2436d86fe4a663057.jpg)
志村さん:
最近本当に楽しくてしょうがないんです。考えて実際にモノになった時が嬉しいので、それに尽きる。自分の中では技術もまだだと思うし、錫の認知度もまだこの辺では低いので、今後は錫をもっと知ってもらうような活動に力を入れたいと思っています
![盆栽の鉢としても活躍](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/e/2/700mw/img_e2eb57159f4c0f9cf708560d7574b5ea75286.jpg)
「木や革などと組み合わせた作品も制作して個展を開きたい。錫で表現できることは何でも挑戦していきたい」と意気込む志村さん。
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錫の可能性を信じ、錫の魅力を伝え続けている。
(テレビ静岡)