4月1日から施行された改正少年法。
重大な事件を起こした18歳と19歳の少年が実名報道される可能がある。少年を保護していた法律が大きく変わり、それぞれの立場で意見が分かれている。

遺族が覚えた"違和感"

金野 恵子さん:
あの子はリーダー的存在だった。慕われていたんですね。今年も1月に何人か友達が来てくれて、それが私にとっては救い。娘を忘れないで来てくれるっていうのがね

金野 恒男さん:
夕方に仕事終わってから『じゃあ帰るね』って。これが最後の別れだった

十勝の音更町に住む金野恒男さんと妻の恵子さん。

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2015年8月、美容師をしていた娘の恵里香さんの命が、突然奪われた。
逮捕されたのは、同じアパートに住む当時19歳の少年だった。

殺人罪などに問われたこの少年は、懲役23年の実刑判決が言い渡されたが…

恵里香さんの弟の妻 千紘さん:
少年がどんなことを言うか聞きたくて裁判に参加してたんですけど、聞けず、いつの間にか終わっちゃった

恵里香さんの父 恒男さん:
18歳で高校出て、社会人やっている人をかばわないといけないのかなと

当時、遺族が覚えた少年法への違和感…。今回の少年法の改正に期待を寄せる。

恵里香さんの弟 友輔さん:
守られる犯罪と守られない犯罪がある。万引きと殺人は同じじゃない

金野 恵子さん:
自分が何かやれば、隣の人や自分の親、兄弟に迷惑がかかるってこと。私はもっと早く改正すればよかったと思う

「特定少年」責任ある立場に

4月1日から施行された改正少年法。事件を起こした18歳と19歳の少年は「特定少年」という新たな位置づけとなる。
調査を行う家庭裁判所が「刑事処分がふさわしい」と判断し、再び検察官に送致する「逆送」の範囲が拡大。
殺人や傷害致死などに加え、強盗や放火などの犯罪も公開の法廷で裁判が開かれ、刑罰が言い渡される可能性がある。

刑事事件を起こした20歳未満の少年は、将来的な更生を期するため、「氏名や住居、容ぼうにより、本人と"推知"することができる記事や写真を新聞などに掲載してはならない」と、少年法61条に規定され、保護されてきた。

その少年法が変わった。

水上 孝一郎 記者:
"推知報道"の禁止が一部解除され、「特定少年」が逆送後に起訴された場合、実名報道が可能になります

民法改正による成人年齢の引き下げなどで、18歳と19歳の「特定少年」は、"責任のある立場"という考えから、実名報道される可能性がある。

26年前、高校生だった長男を他校の生徒の暴行によって亡くした、「少年犯罪被害当事者の会」代表・武るり子さん。

実名報道による抑止力に期待している。

少年犯罪被害当事者の会 代表 武 るり子さん:
ハッとする子たちはいると思う。今までも犯罪を起こす少年の周りに、見ている子がいるんですね。その子たちの歯止め、抑止力になると信じているし、なってほしい

消えない過去…"更生の機会"は

一方、札幌弁護士会所属で少年事件に詳しい弁護士は、今回の改正に強い懸念を抱いている。

渡邉 太郎 弁護士:
更生の芽が摘み取られるのではと危惧している。強盗であっても、大人と同じような裁判になったときの執行猶予率を考えると、かなり執行猶予になるんじゃないか。少年の家庭の事情や発達的なものが見過ごされて社会に戻されて、また犯罪をする可能性がある

さらに、裁判所が少年を「保護処分がふさわしい」と判断した場合には、再び家庭裁判所に事件が送られるケースもあり、更生の観点から実名報道に慎重な判断を求めている。

渡邉 太郎 弁護士:
今はインターネットなどで名前を打つとほぼ消えない。少年が就職活動するにしても妨げになる

では、事件を起こした少年らを雇用してきた現場はどう受けとめているのか。

不治の難病を患いながら、元受刑者や非行少年など600人以上を雇用してきた札幌の建設会社社長、小澤輝真さん。
少年法が厳罰化されても更生に必要なのは本人の意欲と周囲の支えで、それは変わらないと訴えている。

北洋建設 小澤 輝真 社長:
仕事があるのはすごくいいと思う。非行少年は親とかも見放すことがある。そういう子が多い。だから、うちにきて一生懸命やるぞって子が多い。ちゃんと反省して、こういう犯罪はしないと思わないとだめですよね

被害者の思いと少年の更生を考えた慎重な選択がより求められている。

今回の改正少年法は、18~19歳は「特定少年」という位置づけになり、重大な事件で起訴されると「実名報道」される可能性があるというのがポイントだ。
北海道大学大学院 法学研究科の上田信太郎教授は、「18~19歳は成長発達の途中段階。更生のプラスにはならない」と指摘。

一方、東京高等裁判所の元判事で改正少年法の法制審議会の委員を務めた立教大学法学部の廣瀬健二 元教授は、「少年は重大な事件を起こしても守られるという、被害者(遺族)と社会の批判に応える必要がある」としている。

今後、大きな事件で特定少年が起訴された場合、犯罪の重大性、地域社会への影響などを考慮し、実名報道をするか、それとも匿名とすべきか、個別の事案ごとに慎重に判断する必要がある。

(北海道文化放送)

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