ホテルに置いてある、使い捨て歯ブラシなどのアメニティーグッズ。利用客にはうれしいサービスだが、こうした備品がなくなるのでは?と懸念されている。背景にあるのは、4月1日に施行される「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」だ。
小泉進次郎氏が環境相だった、2021年6月に公布されたもので、消費者に無償で提供されるプラスチックの12製品を「特定プラスチック使用製品」に指定し、削減を目指すというものだ。

特定プラスチック使用製品を年度内に5トン以上提供し、削減の取り組みもしていないと判断された事業者には、勧告や事業者名の公表、最大50万円の罰金が科される可能性もある。
あるとうれしいものばかり…削減が求められる12製品
指定された12製品は、フォーク、スプーン、テーブルナイフ、マドラー、飲料用ストロー、ヘアブラシ、くし、カミソリ、シャワーキャップ、歯ブラシ、衣類用ハンガー、衣類用カバー。
宿泊業には、このうちの5つ(ヘアブラシ、くし、カミソリ、シャワーキャップ、歯ブラシ)の削減が求められるが、利用客としては置いてあるとうれしいものばかりだ。

どう減らすのか?というと、対応として考えられるのは、(1)アメニティーの脱プラスチック、(2)アメニティーの有料化、(3)アメニティーの提供を取りやめる。この3つだろう。
環境省によると、特定プラスチック使用製品に該当するのは、製品全体に占めるプラスチックの割合が重量比で一番大きい場合。そのため、環境に配慮した製品に変えることで対処できる。また、提供を有料化することでも対処できるという。

手っ取り早いのは“提供の有料化”“提供をやめる”ことだが、利用客へのもてなしを考えると悩ましいところだ。業界はどう受け止めているのか。2つのホテルグループに対応と実情を聞いた。
アメニティーのバイオマス化で提供を継続
三菱地所グループが運営する「ロイヤルパークホテルズ」では、全17ホテルのアメニティーを環境に配慮したものに切り替えることで提供を続ける。新しいアメニティーは素材にもみ殻や再生プラスチックを使用し、包装のパッケージも紙などで作られる。
これにより、アメニティー関連での年間のプラスチック使用量は約25.19トンから、約12.51トンと半分以下に削減できる見通しだが、さらなる削減や提供方法の見直しも検討するという。

提供を続けることにした経緯や苦労を、担当者に聞いた。
――アメニティーをバイオマス化した経緯を教えて。
弊社では、環境配慮のために以前から (1)アメニティーはそのままに包装を変える(2)アメニティーも包装も変えずにリサイクルで対応する(3)アメニティーも包装も変える。この3つの方法で検討していました。
最終的には(3)で進めることになり、新しいアメニティーは協力会社に紹介してもらい5種類ほどから選んだ形となります。今回のプラ新法は商品探しの中で登場した話ですが、方針を決める後押しにはなりました。
――新しいアメニティーはこれまでとどう違う?
プラ削減だと包装の変更が大きく、新しい包装は素材の約80%が紙となります。また、歯ブラシとヘアブラシはプラスチックを使わないことが難しいので、再生プラスチックを使用しております。このほかだと、ボディタオルは綿100%のものに変えたりもしています。
――アメニティーの変更による経済的な負担はある?
今はプラスチック自体も値上がり傾向なので、コスト面での影響は当初の予測よりも大きく出ないと感じています。コスト面、プラをどれくらい削減できるか、ホテルとしてのお客様へのサービス内容と品質が見合っているか。これらをバランスよく取れるところで決めて提案し、会社側から承認を得て採用に至りました。

――プラ新法の対応で苦労したところはある?
弊社の場合はもともと脱プラを目指していたため、商品の検討をしていました。もし、検討をしていない状態でプラ新法が出ていたら、商品を探すところから始めなくてはならなかったので、時間もかかり大変だったと思います。プラ新法では継続的に削減の努力をしなければならないので、今後どのように削減努力をするのが効果的かを検討することが、これから苦労するところかもしれません。
繰り返し使える代替品を販売するホテルも
京都・滋賀で5ホテルを運営する「京阪ホテルズ&リゾーツ」では、3ホテルでプラスチック使用量を削減したアメニティーに切り替えるほか、残りの2ホテルでは歯ブラシ・カミソリ・くしの3つの提供を取りやめ、利用客に持参してもらう形に移行する。
担当者によると、アメニティー関連でのプラスチック使用量の数値は公表できないが、グループで年間5トン以上は使用しているとのこと。今回の取り組みでどれだけ削減できるかも不明だが、少なくとも歯ブラシでは使用量が半減する見込みだという。

提供をやめるホテルでは、繰り返し使えるアメニティーの販売を行うほか、各種宿泊予約サイトでの事前告知、店頭での説明など、できる限りの努力を行うという。提供をやめるホテルの一つ、琵琶湖ホテルに詳細を聞いた。
――アメニティーの提供を取りやめる経緯を教えて。
京阪グループ各社では、SDGsの達成に貢献するべく「BIOSTYLE PROJECT」に取り組んでいます。そのグループ会社として、日本が誇る美しい琵琶湖湖畔でホテル業を運営する企業として、お客様に大津での滞在を心から楽しんでいただくと同時に琵琶湖の清らかな水を守り、そこに生息する多彩な生態系を守り続けることが使命であると考えています。
また、これまで20年以上取り組んできた里山の保全活動を続けるなか、プラ新法の施行を受け、琵琶湖とその周辺の自然環境保全に努め「環境と観光の共生」を目指すため、かつ環境に対するお客様の意識の高まりからご理解を得られる状況になってきていることもあり、客室への配置を廃止いたします。

――アメニティーの提供はどのように変わる?
客室での設置を取りやめるのは「歯ブラシ&歯磨き粉セット、カミソリ、ブラシ」の3アイテムです。持参をお忘れのお客様には環境に配慮したアメニティーを販売します。それぞれ、持ち手が竹製の「竹製歯ブラシ&歯磨き粉セット」。持ち手が木製で、ゴミの削減にも考慮し2枚刃を採用した「木製髭剃り」。持ち手が木製の「木製ブラシ」です。※販売価格は数百円台を想定。

――アメニティー以外での取り組みはしている?
レストラン部門ではプラスチック製ストローから紙ストローに変更済みです。その他のプラスチック製アメニティーや備品についてもプラスチック製に代わる素材で製造された製品の調査を進めており、経済性、お客様の指向、社会課題の解決への貢献等諸々の要素を勘案しながら個別に判断していきます。
――プラ新法での苦労、伝えたいことはある?
苦労は、プラスチック製アメニティーに代わる環境に配慮したアメニティーがまだ市場にあまり出回っておらず、代替え品のアメニティー探し&選定に時間を要した点です。伝えたいことは、プラ新法の趣旨が一般のご利用者の皆さまにまだ浸透していないと感じております。当社も行ってまいりますが、周知をマスコミ、行政にて継続していただくことを事業者として希望いたします。
環境に配慮したアメニティーの導入、繰り返し使える代替品の設置など、苦労をしつつも対応を模索しているようだ。利用客も必要に応じて使う、持参できるものは持参するなどの意識が求められていくのかもしれない。