11月5日、衆議院で行われた代表質問。
自民党との連立解消後、初めて代表質問に臨んだ公明党が切り込んだのは、高市首相が掲げる「責任ある積極財政」の中身についてでした。

「責任ある積極財政」と事あるごとに強調してきた高市首相。具体的にはどんなことを行うのでしょうか?
「サン!シャイン」が取材したのは、かつて安倍内閣で内閣官房参与を務めていた京都大学大学院の藤井聡教授。実は藤井教授は「責任ある積極財政」の名付け親だというのです。

京都大学大学院 藤井聡教授:
キーワードがわかりやすいとご提言申し上げたのは私だったかな。
日本の政治によって日本の経済がダメになり、日本の国がダメになってきた。岸田政権も石破政権も菅政権も十分できなかった。残念ながら安倍政権も十分できなかった。安倍さん自身も反省されているんですけど、消費税の増税を2回やってしまったっていうのがあって、積極財政ができなかった。
アベノミクスを教訓に、高市首相は「責任ある積極財政」をどう進めていくつもりなのか?
高市氏の経済政策ブレーンで、安倍政権下で内閣官房参与を務め、アベノミクスを提唱した一人でもある本田悦朗氏に聞きました。
「責任ある積極財政」とは?
高市首相がことあるごとに強調する「責任ある積極財政」という考え方とは、“積極”=戦略的に政府が支出(財政出動)する、財政出動を行うということ、さらに「責任ある」の“責任”とは、「所得・投資を押し上げる」責任でもあり、さらに加えて「財政の持続可能性」の責任のこと。

つまり、国が借金してでも経済成長や景気を優先してお金を使う。すると、所得が上がり税収も増えて財政が健全化するという考え方です。

元内閣官房参与 本田悦朗氏:
いわば政治の世界では革命的な考え方の変化だと思うんですね。
特に財務省の伝統的な考え方は、“入るを量りて出るを制す”つまり歳入を予想してその範囲内で歳出すると。要するに赤字国債を発行しないというのが大原則。
歳入の範囲内で使いなさいということになると、最初から使いすぎるとまずいということで控えめにしますよね。
いわゆるプライマリーバランスの黒字化目標、これを設定すると緊縮してしまう。そういう意味では、相当踏み込んだ考え方の変化を高市さんが取っていただいたなという気がします。
アベノミクスを継承「サナエノミクス」とは?
サナエノミクスは、安倍元首相のアベノミクスが進めていた「大胆な金融緩和」「機動的な財政出動」を継承しつつ、3つ目の「民間活力を引き出す成長戦略」を「大胆な危機管理投資・成長投資」と変更。

この投資に関して、11月4日に初会合が開かれた日本成長戦略本部は、人工知能(AI)・半導体や核融合エネルギー、アニメ・ゲーム、造船、防衛産業など17の分野を「危機管理投資」「成長投資」の戦略分野と位置づけ、官民が連携して重点的に投資を進める話し合いを行いました。

サナエノミクスが成功した場合、賃金が上がり、消費が増え、企業利益も上がり、それが賃金に還元されるという好循環が生まれます。

元内閣官房参与 本田悦朗氏:
サナエノミクスは相当強力な政策を打つという意味ではアベノミクスに引けを取らないというふうに思います。
アベノミクスは金融は大成功した。財政は中途半端なところもありましたけれども、需要(消費・投資)を生み出さないと成長できないんです。成長するためには設備を更新する、機械化する。そういう投資をするためには売れないといけないんです。売れるためには需要がないといけないんです。つまり第一、第二の矢が前提になっているんです。
ところが、成長に行くまでに安倍さんが亡くなってしまった。あるいはコロナのパンデミックで先に進めなくなった。非常に不幸なことが起こった。それを引き継いだのがまさに高市早苗さんなんです。
だからサナエノミクスは、まさに時代の転換とともに、戦略も転換する非常に大事な時期だと。成長戦略のためのサナエノミクス。
佐々木恭子キャスター:
経済の背景が、安倍さんの時にはデフレであり円高である。今、高市さんの時にはインフレであり円安であるという中で、同じように財政を積極的に出動させるということで本当にその効果というのはあるものなんですか?
元内閣官房参与 本田悦朗氏:
財政を積極的に出動させるんですけども、いくらでも出せばいいというわけじゃない。
やっぱりルールがあるんですね。債務比率がゆっくり下がるようにすることを維持しつつも、まだ国債発行できるんです。そういう条件の下で積極的にやりましょうということで、ルールなしに青天井でやりましょうというわけではない。

峯村健司氏:
生前の安倍さんや本田さんもよく言っていた、中国の軍事的脅威に対抗するにはお金がいる。だから成長なんだというところで言うと、この17の戦略分野というのは、まさに中国を視野に入れた経済安全保障の分野に見えるんですが、そういう理解でいいんですか?
元内閣官房参与 本田悦朗氏:
おっしゃる通りだと思います。高市さんの特徴は安全保障政策と成長政策を統合的に運用していこうと。リンクさせるということですね。
17の戦略分野も、どれが安全保障でどれが成長なのかと区別が判然としない。それがいいんですよ。別に分ける必要はないので概念的に。
ただ、投資をしっかりやっていかないと成長が持続しないという意味で、足元の物価高対策も大事ですけども、サナエノミクスの本質は長期的な経済成長。それがなかったら日本は必ずや残念ながら衰退するだろうと。

――高市首相が経済政策を進めていく上でのポイントは?
元内閣官房参与 本田悦朗氏:
これから財政を活用していくにあたって、債務比率がゆっくり下がっていくという条件を維持したまま、どれだけ新規の国債を発行して、新規の財政支出あるいは減税措置を取れるんだろうかということで、我々のチームが計算した財政余力は10兆円程度。
この10兆円は、まず健全な財政。財政は何を目指すかというところの定義のやり直しから始まるんです。だから、歳入歳出の数字合わせをしようとするとそういう数字は出てこないんです。
我々が考えているのが、債務が経済全体に占める割合を右肩下がりで落としていこうと。この条件を満たした上で、あと何兆円国債発行しても同じ条件が満たされますかと。その中でいくつか仮定を置いた上で、この10兆円。これも相当固めの数字で、本当は10兆円超えても大丈夫だと思います。10兆円以内であれば間違いなく大丈夫です。

谷原章介キャスター:
でも10兆円といいますと、やっぱり消費税を下げたり、もしくは社会保険料を下げたり、あとはガソリン経由暫定税率等を下げるために使うというと、やりくりの話じゃないですか?
日本ってそもそも鉄鋼だったり船だったり家電、車とかモノを作って輸出して、外貨を稼いで成長してきた国で、やっぱり新たな基幹産業、新たな成長産業が見えてこないと、国としての収入が増えなければ国民の所得も増えないんじゃないかなと?
元内閣官房参与 本田悦朗氏:
今の成熟産業は国がてこ入れしなくても、もう自由に民間でできるんですよ。自立できるんですよ。例えば自動車産業、世界に冠たる自動車産業ですから、そこに予算をつぎ込む必要はないわけで。
まさに「日本の政府として官民協調で最新技術を開発していこうと、そのリーダーシップを取っていこう」というには、まさにこの17項目。AI半導体量子核融合、これはリスク非常に大きいんですよ。民間に任せておくとやっぱり供給が過小になるんです。だから政府で助けていく。
スペシャルキャスター 杉村太蔵氏:
今、日本にあったらいいなと思うのは「令和版の経済企画庁」。
こういったものがもう一回あった方がいいんじゃないかと。財務省みたく、単年で歳出と歳入を合わせる役所も非常に重要です。だけど、この17の投資分野なんて中長期じゃないですか、マクロの視点で経済財政投資の分野をしっかり立案するその役所が、省庁再編でなくなってしまったと。僕は、経済企画庁を高市さんがもう一回復活させたらいいんじゃないかなって思います。
元内閣官房参与 本田悦朗氏:
素晴らしいアイデアです。私も同じことを考えてました。
(「サン!シャイン」11月6日放送より)
