10日、軍事侵攻後初めてとなるロシアとウクライナによる外相会談が、トルコ南部の都市アンタルヤで行われた。

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コの字型のテーブルの中央には仲介役のトルコ、トルコを挟んで右側にはウクライナのクレバ外相、それに向き合う形でロシアのラブロフ外相が左側に座り、対面の形で行われた会談。

・人道回廊の確保
・停戦
・首脳会談の開催


などについて話し合われたが、ロシア側がウクライナの全面降伏を求め、進展はなかったという。

「実質的な交渉は全てベラルーシで…」

この会談後、両国の外相は別々に会見を開き、ロシア側の驚くべき対応が明らかにされた。


ウクライナ・クレバ外相:
ロシア側は現時点で停戦を成立させる気がない。相手の主張をずっと聞かされるのは決して楽ではなかった。

さらに、クレバ外相は「ラブロフ外相は意見を聞きに来ただけ」とも話し、疲れ切ったような表情を見せていた。


加藤綾子キャスター:
当初からなかなか進展は見込めないと言われていましたけれども、クレバ外相のこの表情からも難しかったんだなっていうのを感じましたし「意見を聞きに来ただけ」っていうのが驚きですよね。

榎並大二郎キャスター:
その姿勢が見てとれたということでして…そのラブロフ外相なんですが、2004年以降、18年間外相を務めるロシアの重鎮です。交渉も多少の進展があるのではないかと、ラブロフ外相の会見には400人ほどのジャーナリストが集まりました。しかしながらそこで発せられたのは、人ごとのような言葉でした。


ロシア・ラブロフ外相:
実質的な交渉は全てベラルーシで行われている。我々が解決する道はこの一つしかない。

榎並大二郎キャスター:
ラブロフ外相は停戦交渉について「別の場所で協議をすることに意味はない」、つまりそれぞれの代表団が行っている停戦協議が交渉の場であり、自分が出席した会談というのは意味がないものだとして、そもそも交渉する気はなかったんだな、という発言なんですよね。

加藤綾子キャスター:
停戦に向けて話し合おうという場でこういうことを言うってことは、この会談は何だったの
って思ってしまいますよね。

明治大学・齋藤孝教授:
これは本当に一方的に圧力をかけているだけ、そういう意味ではロシア側は非常に高圧的な態度ですね。交渉というのは元来お互いの利益と利益をできるだけ多くしようというそういう意思で行わないとうまくいかないんですね。その上で選択肢を用意する。それで選び合って落としどころを見つける、これが交渉なんですよね。

しかし今はもうウクライナが全面降伏しなければ攻撃を続けるという、これは交渉になっていないということですよね。

ラブロフ外相「核戦争が始まるとは信じたくない」

強硬的な人物として知られるラブロフ外相。

2019年にモスクワで当時の河野太郎外務大臣と北方領土の問題などについて協議した際、その後の会見では「島々に関する主権の問題は協議していない。島々はロシア領です。日本が北方領土と呼ぶことは容認できない」と発言している。

榎並大二郎キャスター:
協議すら行おうとしなかった、常套手段なのかなというところがうかがえるわけなんですよね。


また、ラブロフ外相は今回の外相会談後、「我々はウクライナを攻撃していない」とさらに驚くべき発言をしており、ロシア軍が爆撃した小児病院についても「あの病院はウクライナの過激派に占拠されていた。患者はいなかった」と主張した。

さらに、自ら交渉の場に立ったにもかかわらず、会談の直後「核戦争が始まるとは信じたくない」と発言している。

榎並大二郎キャスター:
これは裏を返せば「この先には核があるんだぞ」というような、脅しともとれるような言葉を口にしました。


この状況下で今後、停戦の見込みはあるのだろうか。

ロシア情勢に詳しい、慶応大学の鶴岡路人准教授によると「ウクライナがロシアの条件をのまない限り進展は難しいだろう」という見立てだという。

停戦交渉が継続中でもあるにもかかわらず、現在も前進を続けているロシア軍。
10日、首都キエフの北西から25kmの地点にいた部隊は、11日現在15kmの地点まで迫っており、キエフへの本格的な侵攻が秒読みになっているようにも感じられる。

今後、生物・化学兵器使用の緊張感も高まる

また、ラブロフ外相は「アメリカがウクライナで生物兵器や化学兵器に関する研究をしている」とも主張している。
一方で名指しされたそのアメリカは、サキ大統領報道官がtwitterで反応した。


ロシア・ラブロフ外相:
アメリカ国防総省が、ウクライナに設置した生物学研究所で、生物兵器とされる病原体の実験を行っていた。

アメリカ・サキ大統領報道官:
アメリカがウクライナで生物・化学兵器の開発をしているというウソの情報をロシア側が流している。明らかに周到に準備した理不尽な攻撃を正当化するための策略だ。

加藤綾子キャスター:
ロシアはここ数日、同じような内容の発信を大使館のtwitterなどでも続けてますよね。

榎並大二郎キャスター:
これはどういうことかと言いますと、本当はロシア側が自分たちでこの「生物・化学兵器」を使うつもりで、そのためにまず「アメリカがウクライナで生物・化学兵器を作っているんだ」とでっちあげて、世界にそれを広めて実際に自分たちが使ったときに「あれはウクライナが使ったものなんだ」と主張しようとしているのではないか、その策略なのではないかという指摘なんです。

ロシアが準備しているとみられる生物・化学兵器ですが、過去には第1次世界大戦で本格的に使用され、死傷者は約130万人に達したといわれる大量破壊兵器です。

生物兵器とは、ウイルスや細菌などを使って人の体に害を与える兵器のこと。
化学兵器とは、サリンなどの化学物質を用いて人の体に害を与える兵器のことだが、その悲惨さから国際条約で使用が禁止されている。

今後ロシアが実際に生物・化学兵器を使うのかどうかについて、鶴岡准教授は「危機感が高まっている。今後使ってもおかしくはない」と指摘する。


加藤綾子キャスター:
核の使用もちらつかせて、さらに今度は生物・化学兵器もとエスカレートするロシアなんですけれども、どう思いますか。

明治大学・齋藤孝教授:
本当に言語道断ですよね。これは国際法を無視した脅しなんですよね。
ロシアのやり口っていうのは、相手のことを脅威だというふうに決めつけて、その脅威があるから自分たちは先に攻撃するんだという正当化を行っているわけですね。

でも今はインターネットもあり、すべての情報が共有されるこの時代にあって、ロシアの言っている嘘っていうのはもうバレている。でもそれをまったく気にせずに攻撃を続ける、こういう相手とどう対していくかというと、やはりある程度強気でやっていかないと、無理が通れば道理が引っ込むっていう形になっちゃいます。これが妙なロシアの成功体験になってはいけないわけなんですよね。そのあたりは強く対抗していく必要があるなと思いますね。

加藤綾子キャスター:
国際法とか国際条約で使用が禁止されているってなっていても、だから何?と言われているようなロシア側の主張だなと思って、どういった効力が発揮できるのかっていうのが、すごくもどかしく感じるんですよね。

明治大学・齋藤孝教授:
それを無視されると、民主主義国家として打つ手が限られてきてしまいますからね。

榎並大二郎キャスター:
これまでの侵攻の中でも子どもたちをも巻き込む無差別な攻撃に続いて、生物・化学兵器を使う恐れも出てきている。そして核もちらつかせているというところで、本当にやりたい放題の状況が続いています。

(「イット!」3月11日放送分より)