「あす”回答日”給料アップにウクライナ情勢の影」について経済部の土門健太郎記者に解説頂く。

経済部・土門健太郎記者:
ウクライナ情勢の景気への影響が深刻化する中ですが、3月16日、多くの企業が賃上げの要求に一斉に回答する日、春闘の集中回答日を迎えるんです。今年はコロナ禍での3回目の春闘で賃上げがどうなるのか、とりわけ注目されているんですけれども、集中回答日を前に、すでに大盤振る舞い異例の回答が連発しているんです

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大手企業は賃上げの姿勢

経済部・土門健太郎記者:
まず春闘全体に影響力を持つトヨタ自動車ですけれども、先週すでに労働組合と満額で妥結しました。職種や職位ごとの賃上げと6.9カ月分のボーナスという要求通りでして、ボーナスは去年から0.9カ月分も増えました。トヨタが集中回答日の1週間前に妥結するのは異例なんです

経済部・土門健太郎記者:
自動車メーカーでは日産自動車とホンダも満額回答する方針をすでに明らかにしていまして、日産が集中回答日の前に回答水準を示すのも異例です

経済部・土門健太郎記者:
こちらは自動車の業界紙「日刊自動車新聞」なんですけれども、一面トップで「トヨタ、日産、ホンダが相次ぎ満額回答の方針」と大きく扱っています。やはり異例というのがわかる扱いぶりとなっていますが、記事では「大手が先導した賃上げムードが業界全体に波及するかが焦点だ」とも指摘していました

経済部・土門健太郎記者:
さらにゼネコン大手4社「大成建設」「鹿島建設」「大林組」「清水建設」も足並みをそろえて3%の賃上げをすでに表明しています

経済部・土門健太郎記者:
こうした賃上げの実現の背景には企業の事情があります。少子化で人手不足が深刻化し、終身雇用が見直され、転職も盛んになる中で、やはり有能な人材を確保したいわけなんです。そこで賃上げや待遇向上をアピールして、採用の追い風としたいわけです

給料アップにウクライナ情勢の影

経済部・土門健太郎記者:
しかし、ここにきて春闘に暗い影を落としているのが、やはりウクライナ情勢なんです。ロシアによるウクライナへの侵攻は、エネルギーや穀物などに影響を与えていまして、今後値上がり分を価格に転嫁できない企業の業績が悪くなる恐れがあります。そのため企業側は賃上げを渋りかねないわけなんです。実際に経済界からは、これから回答する企業については「予断を許さない状況」という声が聞こえてきています

経済部・土門健太郎記者:
特にしわ寄せがいく中小企業では賃上げをためらう動きが出てくるのではないかという見方もあります。これに対し労働組合の幹部は「経営側はウクライナ情勢について先行き不透明の要素の1つとして言及している。だからといって、機運の高まる今年、賃上げしなくていいとなるのは話は別だ」と危機感を募らせていました。さらに直前の労働組合の声としまして「経営側は、ウクライナ情勢の深刻化により、先行き不透明さが増しているとし、賃上げには慎重な姿勢を崩していない」と厳しい情勢をうかがわせる意見もあったんです

経済部・土門健太郎記者:
しかも家計の面から見ますと、ここで賃上げが実現しないと最悪の状況に陥る可能性があります。ここのところ物価の上昇が続いていますよね。ウクライナ情勢の影響で、原油高だけでなく小麦や海の幸も値上がりしています。この状況で賃上げできないと収入が増えないのに物価高だけが進んでしまうという厳しい状況になるわけなんです

経済部・土門健太郎記者:
こういった背景もありまして、連合は、先週、最後の決起集会を開きまして、ロシアの軍事侵攻を厳しく非難したうえで賃上げ実現への決意を強調していました

連合・芳野友子会長:
国際情勢が私たちの暮らしや企業活動に影を落としています。来週のヤマ場に向けて月例賃金にこだわり、粘り強く交渉を積み上げていただきたいというふうに思います

過去にはストライキや暴動も…

経済部・土門健太郎記者:
このように闘う姿勢を示したわけなんですけれども、そもそもこの春に闘うと書くこの春闘なんですけれども、「春季生活闘争」の略でして始まりは1955年です。以前は文字通り闘いでして、賃上げのためにストライキすることも当たり前でした

経済部・土門健太郎記者:
こちらは1970年代の鉄道のストライキの様子です。JRの前身である国鉄や私鉄のストライキで大幅にダイヤが乱れ、交通機関は大混乱しました。街には人があふれ、大変な行列ができているのがわかります

経済部・土門健太郎記者:
そして苛立った乗客による暴動まで起きました。いろいろものが壊されていまして、こちらは券売機も壊されていた状況です

経済部・土門健太郎記者:
そして通勤通学のために線路上を歩く人、またトラックの荷台に乗って、移動する人の姿も多く見られました

経済部・土門健太郎記者:
こうしたストライキの中、賃上げ率は1974年には実に32.9%だったんですね。

働き方も焦点に 様変わりする春闘

経済部・土門健太郎記者:
最近は労働組合の力も落ちてきましてストライキも、ほぼなくなってきております。春闘も賃上げだけでなく、働き方も焦点になるなど様変わりしています

経済部・土門健太郎記者:
しかし、あすの集中回答日の焦点は、やはり「賃上げ」です。ウクライナ情勢という暗雲を乗り越えて、物価の上昇に耐えられるだけの賃上げができるのか注目となっております

パトリック・ハーラン氏:
いつも興味深いですね。昔から個人の労働環境・労働条件を交渉したいときは、自分で行って上司と話し合おうという、そういう文化で育った僕は、毎年同じ時期に同じメンバーがみんなのために交渉するという春闘という文化自体が、ちょっと不思議に感じますね。最近は今話にあった通り、闘うよりも協力し合うことが多くて、春闘というよりも「春協」みたいになっている。でも不思議に思いながらも、ぜひ頑張っていただきたいと思います

パトリック・ハーラン氏:
今、企業の内部保留は、世界でもトップクラスの500兆円近くまで上ってます。しかも賃金も低いんですよ。付加価値つまり利益の中の賃金人件費が占める割合、労働分配率も、歴史的に最低水準に下がっているぐらいです。つまり賃金引き上げの環境が揃っていると思います。春闘ですから今年年もファイトをしてほしいですね

(「イット!」3月15日放送分より)