ゼレンスキーはヒーローになった

たまたま最近「iPhone13Pro」という最新のスマホを買い、通信も無制限に使えるようにしてみたので、いいのか悪いのかわからないのだが、ウクライナ危機をスマホで24時間ノンストップで見ている。

ロシアのウクライナへの武力侵攻から2週間たったが、首都キエフはまだ陥落していない。軍事力で圧倒的に優位に立つロシアが激しく攻めるが、士気の高いウクライナ軍が国際的な支援を得て踏みとどまっている。

ウクライナ避難民
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現状を箇条書きしてみると…

(1). ロシア優勢もキエフ陥落せず
(2). プーチンによる核使用の示唆や核施設への攻撃
(3). 欧米は第3次世界大戦を恐れ参戦せず
(4). 経済制裁は予想以上に効いている
(5). ゼレンスキーは世界中から支持されている
(6). ウクライナはネットの使い方がウマい
(7). 停戦協議は難航で民間人も避難できず

30年前に冷戦が終わった後も世界中で地域紛争は起こり続けてきた。ただ箇条書きを見ると今回の大きな特徴は(5)と(6)だということがわかる。ゼレンスキーは戦争が生んだヒーローになり、SNSはそれを大きく後押しした。

自撮りでキエフに留まると中継するゼレンスキー大統領

​ロシア少年兵にパンを与えるおばさん

Twitterで衝撃的な映像を見た。少年のようなロシア兵が泣きながら紅茶を飲んでいる。ウクライナ領内で投降したらしく、横にいるウクライナ人のおばさんがパンを与え、どうやらロシアにいるママと少年兵をスマホで電話させているようだ。少年兵の安堵の涙、ウクライナのおばさんの優しさ、などまるで映画のワンシーンのようだ。

周りのザワザワした雰囲気から見てこれはリアルだと思うのだが、フェイクでないという証拠もない。このウクライナ人のおばさんは情報省の工作員かもしれないし、そもそも少年は俳優かもしれない。見ている僕には確認する術がない。ただリアルだとしても捕虜を公衆にさらすことは国際法で禁じられているのではないか。

ロシア側では90歳位のおばあさんが逮捕される映像を見た。戦争反対のデモを1人でするおばあさんを見た周りのロシア人が拍手している。そこに警察が来て恐る恐るおばあさんを逮捕するという映像だ。

どちらの映像にも強い力がある。これらを見た多くの人がゼレンスキーを応援し、プーチンを懲らしめたくなるだろう。

ロシアのプーチン大統領

30年前に天安門事件、東欧革命、ソ連崩壊、湾岸戦争を取材した。当時これらのニュースは「テレビで見る革命」「テレビで見る戦争」と呼ばれた。テレビの中継技術が進んだので、人々は自宅にいてテレビをつければ革命や戦争を見ることができたのだ。テレビが新聞などのプリントメディアに勝った瞬間だった。

天安門事件の「戦車男」(1989年6月4日)

日本人は台湾難民を家に泊められるか

その30年後、僕はロシアのウクライナ侵攻をスマホで見ている。もちろんテレビでも見るのだが、夜中に目が覚めた時にリビングルームに行ってテレビをつけなくても枕元のスマホをピッとすれば、あるいは外出中のふとした瞬間にスマホを取り出せば、ウクライナ危機の最新映像が小さな画面に飛び込んでくる。

ウクライナ避難民

ただテレビはスマホに負けたわけではない。先日、ドイツのベルリン駅で大勢の人がウクライナ難民の到着を待って、見知らぬ人たちを自宅に連れ帰り、しばらく泊めてあげているという英BBCのリポートを見た。

見知らぬ難民を自宅に泊める?中国が台湾に進駐し、台湾の人々が日本に難民として来た時、僕は自宅に彼らを泊めてあげるだろうか。答えはたぶんノーだ。知らない人は怖い。欧州は地続きで、ナチスのユダヤ迫害など過去に国を追われる人たちはいた。こっちは島国だ、泊めるのは無理、などといつまでも考えてしまった。心を揺さぶられるニュースだった。

中国の習近平国家主席

僕はこのニュースをスマホのビデオクリップで見たのだが、テレビはスマホに負けているわけではない。ただテレビにはある種の「フィルター」が入っているので安全だが、生々しさではスマホ(ネット)に負けているかもしれない。

戦争というショッキングな事実にスマホを通じて直接触れることができる、というのはエキサイティングではあるのだが、直接触れるのでやけどすることもある。フェイクが混じるのだ。だがこれこそが現代なのかもしれない。フィルター抜きで生で戦争に向き合うのは強烈な体験だが、だからこそ相当な覚悟を持って向き合わなければならない。

【執筆:フジテレビ 解説委員 平井文夫】

平井文夫
平井文夫


フジテレビ報道局上席解説委員。2020年4月から立命館大学客員教授。1959年長崎市生まれ。82年フジテレビ入社。ワシントン特派員、編集長、政治部長、専任局長、「新報道2001」キャスター等を経て現職。

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