あなたは「SDGs(持続可能な開発目標)」という言葉を聞いたことがあるだろうか?

2022年2月に公表された最新の全国調査によると、「聞いたことがある」と答えた人は7割を超えた。(朝日新聞社 SDGs認知度調査 第8回報告) 言葉として浸透しつつある一方、その内容を理解し、行動に移している人はまだまだ少ない。

そこで、国連広報センターの根本かおる所長に、改めてSDGsが生まれた背景や新型コロナウイルスの影響などについて伺った。

ひとつの入り口から、17の目標を繋げて考える

フジテレビ CSR・SDGs推進室 木幡美子:
SDGsについて理解を深めるために、さまざまな角度から伺いたいと思います。まず、SDGsがなぜ生まれたのか、その背景も含めて教えていただけますか。

国連広報センター所長 根本かおるさん:
SDGsは、「いまの状態ではもう地球を次の世代につないでいくことができない」という危機感のもとにつくられました。もともとはSDGsの前に、新しいミレニアムに入ってつくられた「ミレニアム開発目標(MDGs)」というものがあったんです。MDGsは2015年を最終年とした、主に開発途上国の社会課題を対象とした目標で、先進国としての関わりは、政府開発援助(ODA)を中心とした開発途上国の開発の実施手段の提供という、国際協力の文脈に限られていました。

2015年に向けて具体的な数値目標を定めて推進し、一定の成果をあげることができたんですね。特に、MDGsの一番目に掲げられた「極度の貧困と飢餓の撲滅」という目標については、貧困人口の割合を1990年時点の36%から半減させることを目指して、2015年には10%にまで減少しました。半減以上を達成できたわけですが、これは急速な経済発展をとげた中国で貧困人口が減少した影響が大きく、サハラ以南のアフリカ(サハラ砂漠より南のアフリカ地域)では、気候変動・紛争・ガバナンスの問題などがあり、思ったほどの効果がありませんでした。

国連広報センター所長 根本かおるさん
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国連広報センター所長 根本かおるさん:
また、2012年に「リオ+20(国連持続可能な開発会議)」という国連の環境会議が開催されました。この会議では、1992年に同じリオデジャネイロで開催された「国連環境開発会議(地球サミット)」から20年という節目で、気候変動を中心として地球が大変なことになっている、何とかしなければいけないという議論が高まったんです。

気候変動は近年、人類の存続への脅威といえるくらいに深刻になっています。その気候変動の原因となる温室効果ガスの排出量の割合を大きく占めるのは先進国です。また、グローバル化の進展はおおむね人々を豊かにしていますが、豊かな人をさらに豊かに、貧しい人をさらに貧しくしているという現実もあります。こうした格差の拡大は、先進国でも相対的貧困として問題になっています。こうした経緯から、経済、社会、環境の3分野を統合して、開発途上国だけでなく先進国も自分ごととして取り組む、普遍的な世界目標として生まれたのがSDGsというわけです。

木幡美子:
MDGsで残された課題に、さらなる課題を新たに取り込んでつくられたのがSDGsなんですね。どんな方々が関わってつくられたのでしょうか。

根本かおるさん:
まずは国連と加盟国の政府代表です。ただし、SDGs策定の交渉プロセスには、研究者や市民社会、若者、高齢者、女性、障がい者、先住民などあらゆる方々が関わっています。さらにアンケートを通じて世界中から1000万人以上が参加して、その声や思いも反映されているんですね。

木幡美子:
17の目標と169のターゲットということで、ここまで包括的な目標は例がなかったと思います。

根本かおるさん:
目標が17もの分野にまたがっていて、すぐには理解しにくいかもしれません。私が強調したいのは、一つひとつの目標あるいはターゲットにとらわれないでほしいということです。SDGsは一つの入口から考えていくと他の分野にも広がっていくので、他の目標とつなげて考えるということを心がけてほしいなと思います。

コロナ禍で貧困が深刻化 日本は5つの目標で“赤点”

木幡美子:
2015年9月のSDGsの採択から6年が過ぎ、目標達成期限の2030年に向けて折り返し地点に差しかかったところかと思います。現時点で、これまでの達成度や今後の見通しはいかがでしょうか。

根本かおるさん:
このままでは2030年に達成できる見込みはありません。そのうえ、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、いくつかの分野でさらに達成が遠のいてしまっています。例えば、SDGsはあらゆる形態の貧困の撲滅を目指していますから、2030年には世界の貧困率が0%になっていないといけません。しかし、2019年の時点で6%が残るという予測でした。それがコロナ禍を経て、7%に高まっています。職を失うなどコロナ禍の影響は脆弱層を中心に大きく、新たに1億人を超える人々が深刻な貧困に陥ってしまいました。こうした状況を受けて、社会の仕組みがおかしいということに皆さんが気づいていて、より脆弱層に配慮した制度設計をしなければいけません。

また、新型コロナウイルスが生まれた背景にも気候変動や環境破壊があるので、人々の健康と地球の健康を一体の「ワンヘルス」として考えていかなければいけません。ですから、積み上げ式で淡々と進めていくのではなく、コロナからの「リカバー・ベター(より良い回復)」の過程で、社会の仕組みを根本から見直して不平等や環境負荷を少なくし、システムレベルで少しでも転換することによって2030年に近づこう、ということを私たちは呼びかけています。

木幡美子:
社会を根底から変えていかないと、このままでは達成が難しいということですね。世界の中でも、日本の達成度はいかがですか。

根本かおるさん:
ドイツのベルテルスマン財団と持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)が、各国のSDGs達成状況を分析したレポート(SDG Index and Dashboards Report)を発表しています。国連の報告書ではありませんが、その中で、日本は赤点のレッド評価が付いているものが5つあります。

根本かおるさん:
まず、目標13の気候変動、14の海の豊かさ、15の陸の豊かさと、環境に関する3つの目標で全てレッド評価になっています。京都議定書を採択するのにリーダーシップを発揮した日本としてはとても恥ずかしいことですね。温室効果ガスを削減するためには、石油や石炭などの化石燃料の使用を減らし、再生可能エネルギーの割合を増やすといったエネルギー構成に変える必要があります。ただし、これはもう個人の選択というより、社会の仕組みを転換するレベルで対応していかないと間に合わないところです。

そして、目標17のパートナーシップ。GNI(国民総所得)比で0.7%のODA(政府開発援助)を供与することが求められていますが、日本は0.3%台しかありません。一方で、目標4の教育、9の産業と技術、16の平和とガバナンスについては、花マルのグリーン評価になっています。日本の優れた取り組みの代表格として、教育分野で早くからSDGsを学習指導要領に盛り込む動きがありました。小学校では2020年度、中学校では2021年度、そして高校では2022年度からSDGsについて学ぶようになっています。制度的にSDGs学習を必修とした動きは、日本はたいへん早かったと思います。

ところで、目標5のジェンダー平等については、世界経済フォーラムの「グローバル・ジェンダー・ギャップ・レポート2021」によると、156の対象国の中で日本は120位です。「ジェンダー・ギャップ指数」は、政治や経済、教育、保健という側面からジェンダー平等を見るもので、日本は特に、政治分野でジェンダー格差が大きいですね。いまや130カ国がクオータ制(選挙の候補者や議員の一定割合を女性に割り当てる制度)を採用しているなか、日本ではクオータ制の是非といった入口の議論で留まっていて、採用に向けた動きが進んでいない状況です。

「アクションの旗振り役に」メディアに求められる役割

木幡美子:
日本のSDGsは世界的に見て、だいぶ遅れている分野と進んでいる分野があるということですね。われわれメディアの分野ではいかがですか。

根本かおるさん:
日本のメディアはSDGsに対する関心が非常に高いですね。「SDGメディア・コンパクト」といって、国連と世界中のメディアとが協力してSDGsを推進する枠組みがあるんですが、参加メンバーの半数以上が日本のメディアです。そして、メディアごとに取り上げるアングルが異なります。例えば、台風の直撃や大雨の災害が多い九州のメディアでは、気候変動やまちづくりの観点からSDGsを熱心に考えていたり。他にも、ジェンダー平等、格差の是正、教育にこだわりたいという風に関心はさまざまです。でも、先ほどもお話ししたように、SDGsは入口が異なっていても深掘りしていけば、他のさまざまな分野に広がっていくんですね。

(左)国連広報センター所長 根本かおるさん (右)フジテレビCSR・SDGs推進室 木幡美子

木幡美子:
日本の参加メディアはテレビもあり、ラジオもあり、ケーブル局もあり、紙媒体やネットメディアもあり、大きな広がりですよね。フジテレビは2018年12月に「SDGメディア・コンパクト」に署名しています。

根本かおるさん:
日本のメディアの関心の高さは国連本部も高く評価しているところで、日本のメディアが国連でのSDGs関連のイベントに登壇することも増えてきました。

木幡美子:
フジテレビの『フューチャーランナーズ』は2018年7月から放送しているミニ番組ですが、SDGsをテーマにしたレギュラー番組はめずらしいということで「世界テレビ・デー」のイベントで紹介されました。また、ドイツのボンで開かれたCOP23(国連気候変動枠組条約第23回締約国会議)では、日本政府主催のジャパンパビリオンで、環境問題を伝えるドキュメンタリー『環境クライシス』が上映されました。これらの番組を通して、SDGs推進に貢献できるのは光栄なことだと思います。今後、より一層SDGsを伝えていくために、われわれメディアはどういうところに重きを置いていったらよいのでしょうか。

根本かおるさん:
みんなの関心を呼び起こして、ムーブメントにしていくというところでしょうか。メディアの皆さんには社会の仕組みを変えるための選択とアクションの旗振り役になっていただきたいですね。例えば、温室効果ガス排出の削減に効果的なアクションにはいろいろあって、その一つが再生可能エネルギーへの転換です。私は、自宅の電力会社を再生可能エネルギー中心のところに変えました。インパクトの大きな個人の選択で世界を変えられることに、より多くの方々に気付いて、かつ行動していただきたいですね。

また、建築物も「2050年カーボンニュートラル」実現に対応できるものでないといけませんが、ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)といって断熱性能を向上させて再生可能なエネルギーで賄うという住宅があります。それから、食の問題については、食の生産から廃棄までの過程で世界中の温室効果ガスの3分の1を排出しています。さらに世界の食品ロスによる温室効果ガスの排出だけで、国に置き換えると、中国、アメリカに次いで日本は世界で3番目に大きい排出量になってしまうんですよ。SDGsの全体像と、自分が取れるアクションをつなげて語ってもらえるといいなと思っています。

災害を防ぐためにも…気候変動は喫緊の課題

木幡美子:
少し先の話になりますが、SDGsの達成期限が2030年ということで、アフターSDGsというか、2030年より先のことはどのように考えていらっしゃいますか。

根本かおるさん:
私たちはSDGsの達成に全力をあげているところで、その先についてはまだ議論していませんが、MDGsが発展してSDGsが生まれたのと同じようなことが起きてもおかしくないでしょう。それからSDGsの礎になっている気候変動に関しては、今世紀末までの世界の平均気温上昇を2℃以下に、さらに可能な限り1.5℃以下に抑えることを目標にしていますので、まだまだ続いていきますよね。

木幡美子:
やはり気候変動はいま一番大きな問題かと思いますが、日本が遅れている環境分野の目標13、14、15をより推進していくためには、私たちメディアも含めてどう取り組んでいけばいいのでしょうか。

根本かおるさん:
選挙の争点として、もっと語られるべきだと思います。例えば、ドイツでは2021年の夏に大きな洪水が起きて、100人以上が亡くなりました。これを受けて、連邦議会選挙では気候変動対策が大きな争点になったんです。日本でもこれだけ大雨や台風による災害が起きて人命も失われていますが、どうしても災害という事象についての報道が中心です。気候災害を引き起こす原因にまで遡って、かつ気候災害を防ぐためには根本的に何ができるのかというところまで伝えられることがあまりないですよね。

災害の原因である気候変動の問題を考えることが、防災にもつながる

木幡美子:
そうですね。なぜアクションが起こらないんだろう、ムーブメントにならないんだろうと考えると、大雨や台風が発生することと気候変動の問題が視聴者の皆さんの中ではつながっていないのかもしれません。

根本かおるさん:
そこは天気予報の伝え方で変えられるのではないでしょうか。天気予報では大雨や災害の現象は報じますよね。でもその現象の根本に気候変動があるということまで、一歩踏み込んでいただきたい。尺の都合もあるでしょうが、説明するのは30秒でも構いません。短くても繰り返し伝えていくことで、視聴者の意識に訴えることができると思います。例えば、2021年8月に発表されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第6次評価報告書の第1作業部会報告書では、大雨や災害が気候変動に由来していることに触れ、さらに人間の活動が気候変動の要因になっていると断定しました。これは重大なニュースで、気候変動を分かりやすく伝えるのに活用していただける情報も多いですよ。

木幡美子:
第6次評価報告書については、『めざまし8』で気象予報士の天達武史さんが分かりやすく伝えていました。気候変動との関連性について言及できると、天気予報でも災害報道においても伝えやすくなるので、メディアにとっても非常に役立ちます。今後ますます、こういう情報を国連とメディアとで共有しながら、物事を深層まで伝える報道に取り組まなければいけないと思います。

続いて、目標17のパートナーシップについて伺います。私自身もSDGs関連番組に携わってきて、政府、自治体、市民社会、企業、教育現場、個人、みんなが一緒になってSDGsを推進していくという点では頑張っていると感じています。すべてのステークホルダーを巻き込めているかという点ですが、根本さんはどう見ていますか。

根本かおるさん:
メディアの方々が積極的にSDGsを取り上げて推進して、頑張っている人たちの背中を押してくれた効果は出ていると見ています。しかし、SDGsは社会の仕組みを変えるための枠組みです。その点、残念ながら日本では、自社の事業とSDGsの目標やターゲットをマッピングしてSDGsのブランディングを使用するだけの段階に止まっているケースも少なくないように見受けられます。

そうではなく、社会の仕組みを変えることで、少しでも2030年までに目指している高みに近づこうと言いたい。SDGs達成のための「行動の10年」が2020年から始まり、アクセルをふかしてスピードアップし、さらに拡大していこうという呼びかけがかかっています。もう次のステージに進んでいるわけで、SDGsの推進の仕方、取り組み方もシフトしてほしいですね。

(SDGs対談:国連広報センター 根本かおる所長、フジテレビCSR・SDGs推進室 木幡美子)

この対談は、フジテレビがコラボして出版されたSDGs関連書籍『10代からの地球の守り方 SDGsの教科書』(誠文堂新光社)のため、2021年末に収録された内容の一部を編集したものです。

記事 2 木幡美子

㈱フジテレビジョン CSR推進部 上智大学外国語学部卒 フジテレビにアナウンサーとして入社。主にニュース番組を担当し2011年にCSRの部署へ。2018年にSDGsをテーマにしたレギュラー番組「フューチャーランナーズ」を発案、現在放送中。内閣府・男女共同参画会議・女性に対する暴力に関する専門調査会や厚労省・厚生科学審議会疾病対策部会臓器移植委員会等の審議会委員も務める。