「ウクライナ情勢も影響 韓国の踊る大統領選」についてFNNソウル支局の仲村健太郎記者に解説頂く。

FNNソウル支局・仲村健太郎記者:
5年に1度の韓国大統領選挙が3月9日に迫りました。今回は過去に類を見ない混戦模様なうえ、ここにきてウクライナ情勢が影響してきているのです

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李在明候補と尹錫悦候補の一騎打ち

FNNソウル支局・仲村健太郎記者:
対決の構図を見ていきます。日本に批判的な姿勢が目立つ与党の李在明候補と日本に融和的な印象の尹錫悦候補の事実上の一騎打ちです。最新の世論調査でもわずか1ポイントの差と大接戦なのです

FNNソウル支局・仲村健太郎記者:
5日前には支持率3位だった中道系野党の安哲秀氏が立候補を取り下げ、尹候補との一本化を表明しました。しかしその効果は限定的との分析もあり、当日まで結果は見通せません

政治経験ない尹候補を批判する発言が波紋

FNNソウル支局・仲村健太郎記者:
このように異例の大接戦となる中、最近ウクライナ情勢を受けて李候補が政治経験のないライバルの尹候補を批判するため、ゼレンスキー大統領になぞらえたこんな発言が波紋を呼んでいます

与党 共に民主党・李在明候補:
初歩政治家が大統領になり、ロシアを刺激したせいで結局衝突した

FNNソウル支局・仲村健太郎記者:
このように与党の李候補はウクライナのゼレンスキー大統領がコメディアン出身であることと前検事総長の尹候補に政治経験がないことを重ね合わせて批判しました。しかしこれがウクライナ侵攻の責任がまるでゼレンスキー大統領にあるような言い方だとして国内外で批判を受けたんです

尹候補はミカンに絵を描きSNSで炎上

FNNソウル支局・仲村健太郎記者:
一方、野党の尹候補も失態です。SNSで「私たちはウクライナと共にある」とコメントしたうえでミカンに怒った顔を描いた写真を掲載しました。この投稿に対し「戦争にかわいさはいらない」「国際的な恥」などとこき下ろされ、釈明に追われたのです

FNNソウル支局・仲村健太郎記者:
なぜミカンに顔を描いたかと言いますと、2004年にウクライナで起きた民主化運動のオレンジ革命を意識し、ミカンで応援するつもりだったということです。ただ批判が相次ぐと結局、投稿は削除されました

FNNソウル支局・仲村健太郎記者:
そもそも安全保障をめぐっての2人の候補の姿勢は、李候補が中国やロシアを後ろ盾とする北朝鮮に融和的な姿勢。これに対し尹候補は「米韓同盟に基づく確実な抑止力を持ってこそ平和が維持される」と明確な違いがあるんです。ただ今回の失言や投稿で政策論争はかすんでしまった印象です

韓国大統領選挙の風物詩「ロゴソング」

FNNソウル支局・仲村健太郎記者:
一方で選挙期間中、街ではオミクロン株の急拡大にもかかわらず韓国の選挙の風物詩ともいえる光景が健在です。候補者の集会で各陣営がダンスパフォーマンスを披露し、まるでライブ会場のようです。このお祭り騒ぎに欠かせないのがロゴソングと呼ばれる歌なんです

FNNソウル支局・仲村健太郎記者:
ただロゴソングのほとんどはヒット曲の替え歌でして、完全なオリジナルではありません。今回最も多くの候補に採用されたのは韓国で放送された日本アニメのキン肉マンのテーマ曲です。

FNNソウル支局・仲村健太郎記者:
ロゴソングが使われるようになったのは四半世紀前1997年の大統領選からです。この選挙では人気ヒップホップグループが手掛けた金大中候補のロゴソングが話題となり、当選の一因になったとも言われています。韓国メディアは「当時、キム候補の弱点だった安保・経済分野での不安感をロゴソングが薄めた」と分析したほどで、それ以来「ひとつのよくできたロゴソングは10の公約に勝る」として、各候補が多額の予算をかけてロゴソング合戦を繰り広げてきたんです

FNNソウル支局・仲村健太郎記者:
今回、両候補はいずれも10曲以上をそろえていますが、その歌詞からは特に若い世代を意識しているのが伝わってきます。

FNNソウル支局・仲村健太郎記者:
特にこの「抜かずに植えてください・・・インプラントも支援します」との歌詞なんですが、実は与党の李候補は、薄毛治療の保険適用を公約にしています。

FNNソウル支局・仲村健太郎記者:
実際に、若者からあがった声を反映させたもので、見た目を重視する韓国では薄毛を改善したいと望む人が1千万人近くに上るといいます

FNNソウル支局・仲村健太郎記者:
対する野党の尹候補は若者の不満に目をつけました。それが不動産価格の高騰です

FNNソウル支局・仲村健太郎記者:
冒頭インターホンの音から始まります。韓国の国民的歌謡曲「アパート」をアレンジして「稲妻のように上がった住宅の値段。あきらめたマイホームの夢・・・」との歌詞で、ソウルのマンション価格が2倍以上に高騰した文在寅政権下での不動産政策を痛烈に批判しています

選挙のカギを握るのは30代以下の若者

FNNソウル支局・仲村健太郎記者:
今回の選挙でカギを握るのは30代以下の若者です。前回の大統領選では若者の投票率は70%を超えました。過酷な受験戦争、学歴社会による就職難、高い失業率などに悩むこの世代は政治への関心が高いです。さらに特定の支持政党を持たない無党派が多いため、その浮動票の行方が勝敗を左右するとみられています

FNNソウル支局・仲村健太郎記者:
しかし実際の選挙戦はと言いますと具体的な政策論争はそっちのけ。候補や妻のスキャンダルの批判合戦に多くの時間が費やされています。公約についても「財源を無視したバラマキだ」とする指摘が相次いでいまして、「歴代で最も選ぶ候補のいない大統領選」との声もあがっています。

キヤノングローバル戦略研究所研究主幹・宮家邦彦氏:
韓国に限らず民主主義ってのお国柄があるから、それは歌って踊るのもいいけど、それがいいかどうか私は何も言いません。ただね今の話にもあった通り、若者をどのように取り込むかってのは大事なポイントで、今、20代~30代の韓国の人達が「7放世代」っていう風に言うらしいんです。恋愛も結婚も出産もそれからマイホームも何もみんな放棄するんだという7つの放棄って言って相当追い詰められているわけですね。

そのお父さんの時代ってのは、どちらかというと今の与党に支持者が多いんだけれども、やはり今の若い人たちの不満というものがどのような形で反映するかっていうのをよく見なきゃいけないんで、彼らはしっかりと政治を見ていると思いますね。日本と違ってね。その意味では非常に重要な選挙になるだろうと思います

(「イット!」3月8日放送分より)