同時に育児と介護…「ダブルケア」の日常
広島・呉市に住む大谷佳代さん。
この記事の画像(14枚)毎朝早くから、2人の小学生の子供の学校の準備や、家事で大忙しだ。
大谷佳代さん:
きょうは5時起き、夫が5時半ぐらいに(家を)出るので
長女の夏凛ちゃんは、4歳の時に脳の病気を患い、軽度の後遺症が残った。算数や体を動かすことがちょっぴり苦手だ。
いつもより早く準備ができた2人の子供たち。
子どもたちを見送ると、トレーを持ってすぐに動き出す大谷さん。向かったのは10メートル先にある両親の家だ。
母の久仁子さん(78)は、自分で歩くことができない「要介護2」。食事の準備に加え、1日に3回のトイレは大谷さんの補助が欠かせない。
父の隆繁さんは、肺がんを患ってから足腰が悪くなり、家に引きこもりがちに。最近は認知症の症状も出てきている。
(Q.2人だけなら生きていけない状況ですか)
大谷佳代さん:
そう。父はそう思ってないんだけど、まず母のトイレが無理だから。『おむつにしたらいい』と父は言うけど、そのおむつを誰が変える?それを分かっていない。私が朝・昼・晩とやって、本当はトイレは3回じゃ、自分で考えるとかわいそうなんですけど。でも私ができるのは3回なんで…
朝の介護を終えた大谷さんは、息つく暇もなく、車に乗り込みパートタイムで働いているコンビニエンスストアに向かう。
大谷佳代さん:
親の事と子供のことがあるから、パソコン使って仕事を在宅でしたいんですけど。人と喋らなくて、喋っても両親だけ。職場に行って人と会うのは自分自身でも分かるぐらい、(自分が)明るくなっている
4時間の勤務を終えた後は、両親の昼ごはんの準備だ。
大谷佳代さん:
パックうどん、恥ずかしいんですけど
介護がひと段落すると、子供たちが帰宅。この日は夕食に使う野菜を取るため近くの畑に。
起きている時間のほとんどが、「介護」と「育児」に当てられる「ダブルケア」。取材したこの日は、まだ「平穏」だという。
大谷佳代さん:
夏凛が難しいことがあった時に、どうしてもそこに手がかかることで、涼翔がすごく我慢したり必要以上に頑張ったりしていることを、親としては分かってるので、そこはなんとかしてやりたいと思うんだけど。でも、そっちのことをずっと考えていられない。親のことしなきゃという感覚で、常に頭の中が…。1日ゆっくり、この事を考えるということができない
ダブルケアラー 全国に25万人以上
「子育て」と「介護」の両方を同時に行っているダブルケアラーは、全国に約25万3000人いると言われている。(2016年内閣府公表)
1975年に25.7歳だった第1子出産の平均年齢は、2020年には30.7歳になった。
晩婚化が進む現代で、子育てと介護の時期が重なることは珍しくなくなってきている。
ダブルケアラーのうち、女性の4割と男性の2割が「仕事を減らした」と回答。経済的に困窮するケースも出ている。
当事者団体「君彩」の代表・宮内葉子さんも、ダブルケアの当事者だ。全国の支援団体とともに、オンラインなどで相談ができる居場所づくりをしている。
当事者団体 「君彩」 宮内葉子 代表:
(当事者は)外に出たい、誰かと話して発散したい気持ちを持つ人は多い。なかなか周りに、介護もして子育てをして…という方はいなかったので。誰にも相談しづらい。特に介護のこととなると、場の雰囲気が重く暗くなってしまうから、とても言いづらいのです
「ダブルケア」が社会に浸透していないことで、当事者は相談ができず追い込まれてしまう現実がある。
大谷佳代さん:
介護のことでケアマネージャーに相談したら、すごく親身になってくるけど『それはできん』って。子供はまだ小さかったし、子供のことも相談員に相談した時に『お母さんの頑張りなんよね』って言われた。『家でお母さんが頑張れば、ちょっと違ってくる』とか言われると、そりゃ頑張ってやりたいじゃろって思うけど。(育児と介護の)両方のバランスが見えてたら、そういう話にはならんと思うのだけど
子供の「育児」と親の「介護」。どちらも大切な家族だからこそ、満足にできない自分を責めてしまうという。
ダブルケア対策に動き出す行政も
こうした問題に、動き出す行政も出ている。
大阪・堺市では、これまで別々だった「育児」と「介護」の相談窓口に加え、ダブルケア専門の窓口を設置。
保育園の利用調整基準に、ダブルケアの状況に応じて“加点”されたり、特別養護老人ホームの特例入所の基準にもダブルケアであることが考慮され、入園や入所が優先されるようにしている。
ダブルケアラーが増えていく一方で、こういう対応をしている自治体はまだわずかだ。
当事者団体 「君彩」 宮内葉子 代表:
全国的に注目されて広がってくれるのかなと期待していたんですけど、残念ながら堺市止まりで。なかなか他の地域で専門の窓口が次々にできましたというのを、残念ながら耳にしなくて。もっと相談しやすい環境を、行政の方でも作っていただきたいと思います
誰もが直面するかもしれない「ダブルケア」。みんなが笑って暮らせる社会になるように、まずは知ることから始めてみてはどうだろうか。
(関西テレビ「報道ランナー」2022年2月14日放送)