サッカーW杯がカタールで開催される2022年。同じ中東のトルコでは、腕や足を切断した人が杖を支えにプレーする「アンプティサッカー」のW杯も開かれる。静岡県のチームから日本代表初選出をめざす20歳の男性を取材した。父の教えが心の支えだという。
節目の年 初代表めざし選考合宿
後藤大輝さん:
やはりスポーツをしてる人にとって絶対に一度は憧れる日本代表を、今、目の前に自分がつかめるチャンスがあるので期待には応えたいですね

愛知・豊田市出身の後藤大輝さん。2022年は20歳の節目の年で、1月に成人式に出席した。
友人 :
サッカーの調子はどうなの
後藤さん :
もうすぐ(日本)代表だから
友人 :
まじ、すげえ

後藤さんにとって、2022年は勝負の一年だ。4年に一度のアンプティサッカー・ワールドカップが、10月にトルコで開かれる。
その東アジア予選に向けた日本代表の選考合宿が1月に行われた。

2歳から空手で鍛えた体幹とメンタルで、積極的にゴールへ向かう姿勢が評価された後藤さん。この選考合宿に静岡県内のチーム「ガネーシャ静岡AFC」から、ただ1人選ばれて参加した。
アンプティサッカー日本代表の前鼻啓史監督は、合宿で選手たちにアドバイスした。
前鼻監督:
どんなにうまい選手でも、闘志がない選手は絶対にダメ。覚悟と責任が闘志を育むんだよ。どんなことでもしっかりと覚悟を持って、そして責任を持ちながらプレーに臨むことをちゃんと意識する。これが根底だよ

憧れの父の教え 「感謝」を忘れずに
新年を迎えた1月3日午前8時。気温0℃を下回る山の中で後藤さんが挑んだのは、父・史生さんの空手道場の滝行だ。
滝行で目標を叫ぶ父・史生さん :
感謝、みんなに感謝、今年も一年頑張ります!

後藤さん:
こういうこと(滝行)をする家族はめったにないと思うし、そこは恵まれてると思う。父親にすごい憧れもあるし、一つ一つの言葉が自分に刺さってくる
(滝に入ろうとする大輝さんに対し)
父・史生さん:
大輝、義足とれよ!
父が最も大事にしている「感謝」。後藤さんは、2022年はアンプティサッカーを通してその思いを表す覚悟だ。
滝行で目標を叫ぶ後藤さん :
やっとつかんだ世界へのチャンス。このチャンスをものにして、世界ではばたきます!

父・史生さん:
彼が障がいをもって生まれてから生きていく中で、いろんな人に支えられて背中を押してもらったと思うんです。だからこそ、あの(滝行の彼の)言葉の裏にはいろんな人への感謝がきっと詰まっていると思います。ぜひともワールドカップを開催する年で試合に携われるなら、気持ちの中で、そういう人たちへの思いを持ってプレーしてもらえたら嬉しいですね

1歳で足切断…病気を乗り越え
生まれつき右手の中指がなかった後藤さん。右足にも障がいがあり、1歳の時に足首から下を切断した。

さらにあごにも障がいがあった影響で耳の働きを調整する筋肉が弱く、2021年にはかかりやすくなっていた中耳炎が悪化した。8時間にも及ぶ全身麻酔の手術を、家族とともに乗り越えた。

日の丸背負う夢かなう
合宿では、チームメイトのアドバイスに耳を傾けた。
チームメイト :
ポストの横に立っていることによって、相手のディフェンスは前も後ろも気にしないといけないからやりづらいと思う
別のチームメイト:
めっちゃ動きいいね。あと思い切って、ぼんぼん(ゴールを)狙ってもいいと思うよ

アンプティサッカーを始めて4年。同じ境遇の仲間と目指す、初めての世界への挑戦に、手の届くところまで来た。
合宿の最終日、日本代表の選手が一人ずつ発表された。
前鼻監督 :
続いてフィールドプレーヤー、36番、後藤大輝

後藤さんも選ばれ、選手たちにあいさつをした。
後藤さん:
やっと目標にたどり着けた。チームメイトの気持ちや応援してくれる方の気持ちを背負ってやっていくので、一緒に世界一を目指して頑張りましょう、お願いします
支えてくれる人たちへの思いを力に変えて
ワールドカップの東アジア予選は、3月にバングラデシュで開催され4チームのうち上位2チームがトルコでの本選に進む。
後藤大輝さん:
自分にもチャンスが本当にめぐってきたんだなと思いますし、その感謝の気持ちを大会で点をとる、代表を勝利に導くことで恩返ししていけたらなと思います

アンプティサッカーを始めてから、ずっと目標にしてきた日の丸を背負う舞台。
支えてくれる全ての人の思いを力に変えて、20歳を迎えた若きストライカーの世界への挑戦が始まる。

(テレビ静岡)