2月4日、ついに北京五輪が開幕したが、事件は華やかな開会式の直前、「バブル」の外側で起きた。オランダの公共放送NOSの記者が開会式会場の国家体育場(通称・鳥の巣)近くの街頭で中継中に警備員が乱入したのだ。

オランダ「NOS」の中継に警備員が乱入(北京 4日)
オランダ「NOS」の中継に警備員が乱入(北京 4日)
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開会式直前 生中継を警備員が制止

NOSがツイッターに投稿した映像を見ると、記者は流ちょうな中国語で「ちょっと待って、いまニュースの中継中なんです」と伝えているが、警備員は記者の肩をつかんで離さず、そのまま中継は中断された。

北京五輪組織委員会のスポークスパーソンは会見で「オランダ記者の件はセキュリティ上の原因によっておきたことだと思う。私たちは五輪を報道するメディアを歓迎し、法に基づいて外国記者の権利を保障する」と述べ、国際オリンピック委員会(IOC)も「残念な出来事だが、すでに解決した」とした。

IOCの会見(北京 5日)
IOCの会見(北京 5日)

“内向き”中国で強まる海外メディアへの警戒

オランダNOSは「残念ながらこれが中国にいるジャーナリストの日常の現実になってきている」とツイートしているが、同意できる部分も多い。

私も北京市内でニュースの中継をした際、同じように警察の妨害にあったことがある。まさに中継が始まるというタイミングで近づいてきた警察官は、「数分で終わるから待ってほしい」という説明に全く耳を貸さず、カメラと中継器材とつなぐケーブルを引き抜こうとし、映像は大きく乱れた。その後、記者証を示すと何も問題ないと言うのだが、「撮られるとマズいものがあるから」ではなく、見慣れない海外メディアだから強引に止めた、ということだったのだろうか。

「中国の日常」で感じるのは、社会全体に広がる海外メディアに対する警戒感だ。私たちから見て全く「敏感なテーマ」でない場合であっても、多くの個人や企業は海外メディアの取材だというだけで身構え、突然約束をキャンセルされるのは日常茶飯事だ(いまはちょうど、コロナという都合のよい理由もある)。記者だというだけで、プライベートであっても立ち入りを拒まれる観光地があるなど、こちらからすれば「嫌がらせ」のように感じてしまう場面もある。日中双方の市民にとって、残念なことだと思う。

天安門広場(2021年6月撮影)
天安門広場(2021年6月撮影)

オランダメディアへの“中継妨害事件”については早速、共産党系メディア環球時報が映像を細かく分析して、中継地点が交通規制のエリア内だったと指摘。「傲慢で無知な西側メディアにとっては間違いを認めるより、他人を中傷するほうが簡単なのだ」と攻撃している。

警察も親切!非日常の五輪空間で見えるのは

私は五輪取材団にFNN北京支局からはただ一人加わり、感染対策のため設定された「バブル」の中―競技会場や国際放送センターで取材をしている。大会期間中、自宅も含め北京の市街地には一切出られないが、日々目にしているのは五輪前に経験してきた「バブル外」とはまったく異なる中国の姿だ。

大学生のボランティアたちはみなとても熱心でフレンドリー。レストランや売店の店員さんたちの英語もばっちりだ。警察官も心なしか優しく、手荷物検査のあとに「サンキュー」と言われたのは、大げさではなく中国では初めての経験で、「おもてなし」の姿勢を強く感じる。
取材・撮影も基本的に自由で、同じようにバブル入りしている他社の北京駐在記者とは「中国でこんなに取材しやすいところがあるんですね」と軽口をたたき合っている。

自由に取材できるバブル内が、海外メディアに「見せたい」中国なのは間違いないだろうが、おもてなしの気持ちや、外国人と交流したいという姿勢もまた、決して偽りではないだろう。バブル内外、五輪前後の変化を注意深く見ながら、「よそ行き」の顔の裏にある中国のリアルな一面を探ってみたい。

【執筆:FNN北京支局 岩佐雄人】

岩佐 雄人
岩佐 雄人

FNN北京支局特派員。東海テレビ報道部で行政担当(名古屋市・愛知県)、経済担当(トヨタ自動車など)、岐阜支局駐在。2019年8月~現職。

国際取材部
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