ワクチンの接種が進み、2021年11月には一日の感染者が3万人前後で推移していたフランス国内。しかしオミクロン株の出現で事態は一変した。感染者は急激に増え始め12月25日に10万人を超えると、29日には20万人を突破した。人口は日本のおよそ半分。オミクロン株が私たちのすぐそばまで迫っていた。そして、年明けの2022年1月、学校が再開されると、生徒らにオミクロンの感染が相次ぎ、教育現場は大混乱に陥った。濃厚接触者の扱いをめぐり政府の方針が二転三転する中で、正解は何だったのか。フランスの事例を検証する。

“学校閉鎖は最後の手段” 対面授業へ揺るがぬ姿勢

年の瀬も押し迫った2021年12月27日、フランス政府がオミクロン株の蔓延を食い止めるための新たな対策を発表した。週3日のテレワーク義務化、映画館や文化施設での飲食禁止、カフェやバーでの立ち飲み禁止など。そして気になる学校については…
「学校の閉鎖はあくまで最後の手段です」
カステックス首相はこのように力強く語り、授業は年明けから予定通り対面で行うと発表した。親子ともどもひとまず安堵する。

同時に学校における濃厚接触の新たなルールも明らかにされた(表1参照)。クラスに感染者が出たら、生徒は直ちに検査を行い、陰性なら翌日から登校できるというもの。2日後、4日後も追加の検査が必要になるが、潜伏期間が短いとされるオミクロン株の特性を考慮した上で、登校を認めた。学校を閉鎖せず授業を続けることを優先した措置と言える。ところがこの新たなルールが、保護者と教師を巻き込む大混乱の引き金となった…。

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学校再開“白テント”にできる親子の行列

2022年1月、休みが明けて子供たちが学校に戻った。すると早速2日目に学校から電話が…。「残念ながらお子さんのクラスでコロナの陽性者が出たので迎えに来てください」。陽性者が出た場合の“直ちに検査”とは、こういうことか。授業はその場で打ち切られ、小学生の場合は保護者が迎えに行かなければならないのだ。さらにその日のうちにPCR検査または抗原検査を受けることが求められている。「どこの検査場が空いているかな…」そんなことを考えながら支度をして車で学校へ向かった。

学校に駆け付けるのが早く、他の保護者たちの姿はなかった。子供を車に乗せ、抗原検査を受けるため薬局に向かうと案の定、検査場の白いテントの外には親子の列が。他の学校でも陽性者が出たのだろう。約20分並んで検査を受けると、結果は15分後に携帯電話のショートメッセージで送られてくると言われた。陽性の可能性もあるので念のため、家に帰らず外で待機する。すると待つこと1時間、ようやくメッセージが届き結果は「陰性」。2日後、4日後もまた検査に来なければ…。

白いテント前には検査待ちの親子の行列が

2日後、子供を連れて2回目の抗原検査に行くと、薬局は一層混み合っていた。さらに、翌日出社を控えていた私自身も念のため検査を受ける。結果が携帯電話に届き、子供と自分の「陰性」を確認して家に戻ろうとすると、今度は中学に通う上の子供の学年で陽性者が出たとの連絡が学校から来た。時間はすでに午後8時前。慌ててその時間から検査を受けられる薬局を探し、車で向かい閉店間際に滑り込む。遅い時間にも関わらず、幼い子供の姿もある。ここでも通知は「15分後」と言われたが、結果は4時間後の午前1時に届いた。こちらも「陰性」だった。

夜の検査場には小学生ほどの女の子の姿も

突然のお迎えや繰り返しの検査、さらには長い待ち時間…保護者も子供もたまったものではない。学校側にしても授業が途中で打ち切られ、翌日以降3回にわたり生徒全員の検査結果を確認しなければならず、大きな負担だ。抗原検査の件数が大幅に増えた薬局側も悲鳴を上げた。こうした声に政府も敏感に反応した。

度重なるルール変更 保護者は混乱、教師はストに抗議デモ

休み明けから1週間も経たない1月7日、学校における濃厚接触者のルールが変更された。新たな陽性者が出ても、最初の陽性者判明から7日以内であれば、検査は不要という。これにより、生徒たちは改めて3回の検査を受ける必要がなくなった。(表2参照)

さらに3日後には、三たびルールが変更された。陽性者が出ても当日の授業は継続して行い、3回の検査はいずれも簡易キットを使ったものが認められることになった。つまり、お迎えのための突然の呼び出しや、薬局に並んで検査を受ける必要がなくなったのだ。

保護者にとって負担が軽くなるのはありがたい。しかし度重なる変更に、無料通信アプリ内の保護者のグループチャットは大荒れに。「また薬局に行かないといけないの?」「簡易キットはどこで買える?」乱れ飛ぶ質問に、その混乱ぶりがうかがえる。

家庭に簡易検査キットは欠かせない

一方、学校の教職員らは現場で大きな混乱が生じているとしてストライキを起こした。教育省によればおよそ3割の教師が参加し、一部の学校が閉鎖された。パリ市内では大規模な抗議デモも行われた。

教師組合員:
「休み明けから学校はカオスです。ルールが非常に難しく、何より教職員の安全が守られていません」

教職員による抗議デモ(パリ市内)

抗議デモに答える形で、政府は500万枚の高性能マスクを、保育士などを対象に支給することを約束した。

心配される子供の深刻な「検査疲れ」

簡易キットでの検査が認められ、抗原検査用の白いテントに親子連れの長い行列は見られなくなった。薬局の前で並ぶ時間はなくなったが、子供たちにとって検査の回数自体が減ったわけではない。不慣れな親に綿棒を突っ込まれるのもさぞかし嫌なものだろう。検査場を訪れた親子に話を聞くと、このような声が聞かれた。

男子(14歳):「いま検査を受けてきました。痛いよ」
女子(13歳):「検査はこれで3回目です。鼻の中がくすぐったいし、最後は痛いです」

繰り返しの検査は負担になる

女子(7歳): 「検査は痛くないけど鼻がムズムズするから嫌です。」
母親:「先週3回やって、今週も3回目です。検査はうんざりですが、生活を維持するためにやります。」

ちなみに我が家の2人の子供も、わずか3週間で下の子が9回、上の子が3回と検査はかなりの回数に上った。(表3参照)

子供たちに広がるオミクロン株 今後の対策は?

フランスの感染者はその後も増え続け、1月5日には30万人、18日には40万人を超えた。気になるのはそのうちに占める若い層の割合だ(表4参照)。12月21日の週に比べ、1月17日の週には感染が特に0~19歳までの層で増えているのが分かる。

それでも政府は対面授業を継続する方針で、2月の冬休み明けに向けて、学校内のマスク着用義務の解除など、さらなるルールの緩和を検討している。

オミクロン株は徐々にその正体が見えてきたものの、社会活動を維持するための試行錯誤はこれからも続く。素早く的確に状況判断し対応するのはもちろんだが、間違いがあれば臨機応変に修正していく姿勢もまた求められる。二転三転するフランス政府の対応にはこれからも振り回されそうだが、それが“正解”に少しでも近付くための回り道ならば、そこに一つの答えがあるのかも知れない。

【執筆:FNNパリ支局長 山岸直人】

山岸直人
山岸直人


FNNパリ支局長。1994年フジテレビ入社。社会部記者、ベルリン特派員、プライムニュースイブニング、Live News αを経て現職に。ドイツのパンをこよなく愛するが、最近はフランスパン贔屓。

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