19歳の駆け出し猟師
奈良県・十津川村に暮らす中垣十秋さん、19歳。18歳で猟の免許を取り、1年が過ぎた。

倉庫に保管しているのは鹿のしっぽ。この日は2カ月に1度の捕獲状況の報告日だ。
大きさや捕獲場所を記入した書類と一緒に、しっぽを村役場に提出すると、1頭につき1万4000円の補助金が支給される。

猟師・中垣十秋さん:
主な収入が、これを出したら得られるって感じですね
提出を取りまとめている猟友会のベテラン猟師の元へ向かう。
猟師・中垣十秋さん:
おはようございます、9月と10月分です

ベテラン猟師:
鹿3頭ですね、はい、分かりました
(Q.これくらい若い猟師はいる)
最近は少ないですな、嬉しい限りやね
十秋さんの猟の対象は、鹿や猪などを初めとした有害鳥獣と呼ばれる動物たち。農作物などの被害を防ぐための狩猟だ。
1年を通してみると、その被害額は全国で161億円ほど(2020年度)。
人口3000人ほどの十津川村でも、約3500万円(2018年度)に上っている。

地元の住民:
ほっといたらやられる、全部。この地域はみんなそう、ほっといたら鹿とか猪とかにやられる。
十秋さんが猟師になったきっかけは、猟師として働く父、英一さんの手伝いを始めたことだった。

父 英一さん:
家でやっていることが忙しいから、ちょっと手伝ってほしいなって。手伝ってもらっているうちに、だんだん上達してきてる。
そんなきっかけで始めた猟師という仕事。ところがその後、十秋さんは向き合わなければならない重い現実を知ることになる。
父の手伝いではじめた猟師 直面した現実
父親の仕事を手伝い始めた高校2年生のころ、街に出て鹿肉の出張販売をしていた時だった。

中垣十秋さん:
すれ違う人に、『鹿なんで殺すの?かわいそう』とか『野蛮だ』とか『そんなことやって、恥ずかしいくないの』とか、そういう言葉をすごい言われて、メンタルがズタボロで帰ってきて
想像以上の偏見があることを知った瞬間だった。

誰かがやらなくてはいけない厳しい世界に飛び込んだ十秋さん。感じるのは、自分たちの生活を守るために狩る”命の重み”だ。
猟師・中垣十秋さん:
ずっと殺す瞬間のことが頭によぎっている感じですね、さばいている時は。自分で殺すってなったら、手の感覚とかもずっと残ってて。命に感謝して、さばいています

十秋さんの猟は、罠にかかった鹿を捕まえるものだ。この日、十秋さんたちの元に、鹿がかかったと知り合いから連絡が。父の英一さんとともに、罠のある場所へ向かう。

強い脚力をもつ鹿。一瞬たりとも油断できない状況の中、素早くテープで手足を縛って固定させせる。インタビューで見せてくれる笑顔は一切ない。

捕獲した鹿は生きたまま施設へと持ち帰る。 そして迎える、その瞬間。自分たちの手で、1頭の動物の命を終わらせる時間だ。
19歳の女性が、命の重みと向き合う。

「自分の道」命と向き合う新たな挑戦
十秋さんの母校・奈良県立十津川高校。ここに十秋さんが恩師と慕う男性がいる。
阪口剛先生。生徒指導を担当するほか、陸上部の顧問として、やり投げ選手だった十秋さんと多くの時間を過ごした。

出張販売の際に心ない言葉を浴びせられ、自信を失っていた十秋さんに、猟師の道を歩むきっかけをくれたのが阪口先生だった。

阪口剛先生:
25年ほど教師やってますけど、生きた鹿とかイノシシをさばくっていうのは聞いたことがなかったので、そこはしっかり自信を持ちなさいと。自分としては背中を押しただけなんですけど
中垣十秋さん:
お前より勉強できるやつもいっぱいおるし、お前よりスポーツできるやつもいっぱいおるし。でもこうやって狩猟するのは全国探してもお前くらいしかおらんのやから、自分にしかできない仕事をしたらって言われたので。猟師やってて良いのかなって感じるようにはなりましたね

十秋さんは、もともと精肉店で働いていた父、英一さんから動物のさばき方を教わった。そんな自分だからこそ、変えたいことがある。
毎年、捕獲された有害鳥獣の約9割が、そのまま廃棄処分されているという現実だ。動物をさばいて食べられる状態にできる猟師が少ないことが大きな理由だ。

この日、向かったのは十津川村にある老舗旅館。
1年ほど前から十秋さんたちが作るジビエを使って、盛りだくさんの「ジビエ懐石」としてふるまっている。(※「ジビエ」とは、狩猟でとれた野生鳥獣の食肉のこと)

湖泉閣吉乃屋 館主 植村賢一さん:
全然臭みもなくて、美味しいです。お客さんも柔らかくて美味しいと、初めて食べる人も喜んでくれてます。
十秋さんは、ジビエの魅力を広げようとしている。
そして十秋さんの次なる挑戦。それは、自分のジビエ料理専門店を開くことだ。「猟師への偏見をなくしたい」、そして「無駄になる」命を減らしたい。資金集めでは多くの賛同が寄せられている。

猟師・中垣十秋さん:
カウンターの店にしたのも、一人一人と会話できるような環境にしたいなって思って。そうすることで猟師に対する偏見だったり、有害鳥獣ってどんな被害があるのかなど、教育食育もできる飲食店にしたいなって思っています

19歳の猟師。命と向き合う生活は続く。
(関西テレビ「報道ランナー」2021年12月20日放送)