「人に迷惑をかけてはいけません」と言われて育ったからか、大人になっても親やパートナー、子どもといった近しい人にすら頼れず、いつしか孤独を感じてしまう人がいる。

生活保護などの行政の制度も、“税金に頼っている”と考えてしまい、利用できない人は少なからずいるのではないだろうか。

なぜ、人は近しい人すら頼ることができないのだろうか。そして、その状況で孤独を感じてしまう理由とは。健康社会学者の河合薫さんに、現代社会の孤独について聞いた。

「Solitude」「Loneliness」孤独は2種類に分けられる

「そもそも孤独とは何でしょうか。日本では『孤独』というひと言でまとめられますが、欧米では2つに分類して考えます。1つは『Solitude』で、自ら選択する孤独です。もう1つは『Loneliness』。周りに人がいても排除されたように感じる孤独のことで、この『Loneliness』が問題なのです」

「Solitude」は、いわゆる“1人の時間”と呼ばれるもので、煩わしい人間関係から解放される手段といえる。自分自身と向き合ったり、書籍を読んで知識を取り入れたりする時間で、「人間的な成長に欠かせないもの」と、河合さんは言う。

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「一方、望まない孤独である『Loneliness』は、世界的に社会問題として取り上げられています。人類は他者と協同して生き残ってきた種族です。それは互いの心を結びつけたい、という強い欲求をもたらしました。他者とつながりたいという本能が私たちの内部にプログラムされているのです。

そのため、人とのつながりを持てない状況は非常にストレスフル。『孤独は皮膚の下に入る』といわれることがありますが、科学的にも『Loneliness』を感じる人は心臓病や脳卒中、がんのリスクが高まったり、認知機能が低下しやすかったりするという検証が行われています」

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現代はSNSなどで簡単に他者とつながれるようになったが、ネット上のつながりだけでは「Loneliness」を回避できないという。

「文字だけだと、頭ではつながったと感じても、心は満たされません。互いの顔を見て、相手の表情や醸し出す雰囲気、言葉遣い、目の動き、体の動きといったさまざまな情報、同じ空気を共有する中で、心の距離が近づいていく。心と心がつながるのです」

直接人と会い、言葉を交わし、同じ空気を共有する中で生じる“共感”を拾い集めることでつながりが生まれ、「Loneliness」を感じにくくなるのだ。

“実力主義”の社会が孤独を生んでしまう可能性

「Loneliness」の定義からいうと、顔を合わせる機会が多い家族や恋人、友達にはつながりを感じやすいはず。しかし、近しい人に頼れずに孤独を感じてしまう人がいるのはなぜだろうか。

「人間関係は単純ではありません。人は身近な相手ほど自分と比較してしまうものです。自分が劣っていると感じると、強がって弱い部分を見せなかったりして、相手との間に心の壁が生まれていきがちです。若い人ほどその感覚は強い印象があり、メリトクラシー社会の末路でもあると考えています」

メリトクラシーとは、個人の能力や業績に基づいて社会的地位を分配するという近代的な概念のこと。つまり、“実力主義”の社会が、孤独を生んでいるということだ。

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「若手のビジネスパーソンに話を聞くと、『仕事でわからないことがあっても、同僚に質問できない』と言うんです。その理由は、質問するとデキないやつだと思われてしまうから。そのせいで仕事が回らず、人間関係も築けず、退職してしまうという悪循環に陥ってしまうケースがあります」

若い人の孤独化は深刻だが、会社の中での自分の立場を意識しすぎて人に頼れないという状況は、若手に限ったことではないそう。

「『○○商事の▲▲さん』『○○部の■■部長』といった属性に基づいた関係は、コミュニケーションのハードルが上がりやすいといえます。『こんな頼みごとをしたら上司にバカにされるな』『自分は部長だから質問できないな』と感じると、何も話せなくなりますよね。身近な人ほど、仕事も年齢も把握しているからこそ、ざっくばらんに話しづらい部分もあるといえます」

特に、長時間労働が問題視される日本では、会社での関係性が生活の大半を占める人が多いため、属性に捉われやすいようだ。

「行政に頼れないのも、同じ理由といえます。『生活保護を申請したら人に何を言われるかわからない』と思うから、申請できない。でも、他人の評価は一夜で変わるものでもあり、気にする必要はないんです。孤独を感じないためには、属性を取っ払った関係を築くことも大切です」

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所属している会社や肩書だけでなく、年齢なども関係なく、1人の人間として接することができる間柄を、河合さんは「緩いつながり」と呼ぶ。この「緩いつながり」があると、孤独を感じにくくなるという。

「肩書も年齢も関係なければ、『あの会社の人だ』『こんな仕事をしている人だ』という先入観を持たれないため、困りごとがあった時にフラットな関係として相談しやすくなります。学生時代からの友達でも、他部署の上司でも、近所のおせっかいなおばちゃんでもいいので、『緩いつながり』を作ってほしいです」

孤独から抜け出すカギは「直接人と会うこと」

ただ、誰でもすぐに心の距離の近い人間関係を築けるわけではない。だからこそ、「Loneliness」を感じてしまうのだろう。「Loneliness」を避ける第一歩を教えてもらった。

「これまで900人近くのビジネスパーソンにインタビューしてきた中で、孤独感を抱いた経験のある人が孤独から脱するためにしたことを聞くと、“人にすがる”という共通点が見えてきました。以前は面倒だと思って断っていた誘いを受けてみるとか、スーパーに行ってよく見かける店員さんに声をかけるとか、とにかくリアルな人に会う場に出ていくのです」

落ちてきた綱を握りしめ、その場に行ってみると、楽しく人とのつながりを感じられたという人が多かったそう。

「ネガティブな状況から抜け出そうとすると、誰かが手を差し伸べてくれるものです。だから、『Loneliness』を感じるならば、勇気を出して外に出てほしい。そして、自分の気持ちを人に伝えると、大抵の人は同じような経験があり、共感してくれるはずです」

重要なのは、直接人と顔を合わせること。河合さんは、「孤独は自分が形成してしまっているもの」と話す。

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「孤独を感じても、周りには必ず人がいます。プラスのシナリオを作るためには、自分の心の舞台に誰かを登場させないといけないのです。だから、1人で悩まず、とにかく人に会ってみる。人の手を借りることは恥ずかしくありません。1人で歩けないなら、背中を押してもらえばいい。手を差し伸べてくれる人が必ずいると、信じてほしいですね」

それでも、人と会うことに恐怖心や苦手意識を抱いてしまうようであれば、自分が行うべきことに打ち込むという方法もある。

「目の前のことに全力投球してみましょう。例えば、今やるべき仕事に完全燃焼するくらいに打ち込むと、その姿を見てくれている人がいて、『あなたのおかげで仕事がスムーズに進んだ』などと声をかけてくれるもの。世の中って、案外捨てたもんじゃないです」

これらの小さな一歩を積み重ねることで、いつしか心から信頼できる人ができるという。

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「人を信頼しよう、信頼してもらおうと思っても、そう簡単にはできません。大切なのは、愛をケチらないこと。道に迷ったおばあちゃんや泣いている子どもがいたら声をかける、職場の同僚に挨拶をする、そういうことでいいんです。

半径3メートル以内の人に対して愛をケチらなければ、いずれ自分の存在意義を感じられるようになり、自分自身が信頼される人間になっていきます。そうなると、自然と心の距離が近い人、なんでも話せる人ができます。役に立たないことだと思っても、小さいことを積み重ねると、自分の幸せにつながっていきます」

孤独を感じると、余計に殻に閉じこもってしまう人もいるだろう。しかし、殻を破って外に出る勇気が大切。その一歩さえ踏み出すことができれば、きっと世界は変わるだろう。

健康社会学者・河合薫さん
健康社会学者・河合薫さん

河合薫
健康社会学者、働き方研究家。
千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としても活躍した後、東京大学大学院医学系研究科博士課程に進学・修了し、現在に至る。“人の働き方は環境がつくる”をテーマに学術研究に関わるとともに、講演や執筆活動を行う。著書に『定年後からの孤独入門』『コロナショックと昭和おじさん社会』『他人の足を引っぱる男たち』など多数。

取材・文=有竹亮介(verb)

記事 4712 プライムオンライン編集部

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