鍋には欠かせない冬の味覚「カキ」。静岡県の浜名湖ではウナギと並ぶ特産品だったが、ここ2年間は水揚げ9割減という記録的な不漁に見舞われた。
さまざまな対策をして、「日本一」のカキをめざす4代目漁師の思いに迫る。
ウナギに劣らぬ浜名湖名物
浜松市西区の和食店。この店の人気メニューが…

松の家・新村恵店長:
地産地消で浜松のものを使うのがウリです。とてもユニークなメニューだと思います
浜名湖のカキを、うなぎのタレで香ばしく焼いた「牡蠣カバ丼」。三ヶ日みかんの皮などをトッピングした浜松らしい、この時期限定の一品だ。
松の家・新村恵店長:
浜名湖のカキのプリッと感と、ウナギのタレの相性が良い。それを味わってほしいですね

実は今、この浜名湖のカキが勝負の時を迎えている。
水揚げ9割減の大不漁
午前6時。
浜名湖へ漁に向かったのは、カキ漁師歴13年の堀内拓郎さん(33)。父・祖父・曾祖父と4代続くカキ漁師だ。

カキ漁師・堀内拓郎さん:
浜名湖は水深が浅いので「垂下式」という方法で、針金を輪にしてホタテ板と管を通してカキを育てる

浜名湖ではホタテの貝殻にカキの稚貝を付けて育て、約1年で収穫する。
(Q.今シーズンの水揚げ量は?)
カキ漁師・堀内拓郎さん:
とにかく身が良くて。11月からこんなに身が良い年はここ数年なかった

浜名湖のカキは2019年、2020年と記録的な大不漁に見舞われ、例年70トン以上あった水揚量が2019年は半分以下の37トン、さらに2020年はわずか7.9トンで例年に比べ9割減だ。

打撃は大きく、今シーズンの出来が漁業関係者の存続にも影響してくる。
堀内拓郎さん:
勝負の年だと思っているので頑張るだけです
天敵はクロダイ…取材中に出没
不漁の原因は何か。
夏の猛暑による水温の上昇やプランクトンが異常に増える赤潮のほか、ある天敵の存在もあげられている。
その「天敵」は、取材中にも現れた。
漁師:
ほれここにいる、ほれここ、真下にいる

カキ棚のすぐそばを泳ぐクロダイ。
堀内拓郎さん:
クロダイがすごく繁殖していて、カキが小さいうちはどんどん食べられてしまうので、その食害に悩まされてきた
以前は浜名湖にもクロダイを獲る漁師がいたが、儲けが少ないためやめてしまったそうだ。大量に獲る漁師がいなくなり、増えたのだろう。
クロダイが近くを泳いでいたカキには、気になる白い斑点があった。

(Q.白い斑点は何ですか?)
堀内拓郎さん:
クロダイが食べた跡です。カキ殻ごとかぶりついて取ってしまうので、白く跡が残ってしまいます
食害防止ネットや稚貝放流で回復の兆し
天敵のクロダイからカキを守ろうと、組合は2020年からある対策を始めた。
堀内拓郎さん:
こうやって食害ネットを張って対策をしています

カキ棚を囲う網。
クロダイの侵入を防ぐ効果が、2021年に入ってすでに表れているという。
しかし、まだまだ厳しい状況に変わりはない。組合は2021年に、初めて稚貝の購入資金を募るクラウドファンディングに挑戦した。目標200万円に対し、500万円余りが集まったという。

このときリーダーとなったのが堀内さんの父・昇さんだ。
堀内さんの父・昇さん:
2020年の不漁は30年に一度だね。今シーズンは(スタートが良いのでクラウドファンディングで)助けてもらった分をお返しができるかなと思い、頑張っています

「日本一のカキ」をぜひ食べて
拓郎さんの漁船の名前は、父・昇さんと自分の名前を1文字ずつ取って「昇拓丸」。代々続くカキ漁への思いは人一倍だ。

カキ漁師・堀内拓郎さん
父親の背中を見てずっと育ってきたので、海の男はかっこいいなと思って。浜名湖のカキは本当に肉厚で濃厚で、自分は日本一おいしいカキだと思っている。まず知ってもらい、ひとりでも多くの人に食べてもらえるように、もっとアピールしていきたい

漁師の思いのつまった浜名湖のカキ。勝負の年は幸先の良いスタートで始まった。
大不漁の試練を乗り越えることができるか、4代目の奮闘が続いている。
(テレビ静岡)