人間は風邪を引いた時、くしゃみ、鼻水、発熱、咳などの症状が出るが、豚も同じような症状が出るという。ひどくなると、呼吸器の疾患により、成長に必要な栄養素を効率的に摂取できなくなり、発育の遅れや肉質の低下につながるという。

こうした中、豚の咳の音を検知して、豚の体調管理をする実証実験が神奈川県厚木市の養豚場「臼井農産」で11月から始まった。

実験はドイツの製薬会社のベーリンガーインゲルハイムの動物薬部門の日本法人であるベーリンガーインゲルハイムアニマルヘルスジャパン(以下、BIAHJ)とNTT東日本神奈川事業部、臼井農産の3社で実施。実験に使われるのがベーリンガーインゲルハイムのサウンドトークスと呼ばれる咳音検知技術で、アメリカや中国などの養豚場ではすでに利用されているが、日本では初めての導入となる。

仕組みは、豚舎内での音を24時間365日昼夜を問わず集音し、データを蓄積。集音した様々な音のデータをクラウド上にアップロードし、そこからAIで豚の咳音のみを選別し、アルゴリズムにより分析して可視化するというものだ。

実施概要イメージ(画像提供:BIAHJ)
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これを獣医師や生産者のPCやスマートフォンの画面上で確認できる。また、異常があればスタッフや連携する獣医師に通知が届く。

こちらが送られるデータの一部。豚舎の豚の咳音の状況が3色に分けられており、緑は正常、黄色が注意、赤が危険。赤の危険な状態が続くようだと、飼育環境の改善に向けた検討や管理獣医師とのコミュニケーション等が必要となる。

咳音データの一部(画像提供:BIAHJ)

これによって、獣医師と早期の連携・相談が可能になったり、スタッフの豚舎の巡回を減らせるなど労働力の省力化につながるという。

現在、実証実験中ということだが、では実際、負担は軽減されているのか? BIAHJの担当者に詳しく話を聞いてみた。

豚の咳は「コホコホ」「ゴホゴホ」

――豚の咳はどんな音?

コホコホという表現や、ゴホゴホという音で表現されることが多いと聞いていますが、実際に農場で咳音として認知される豚の咳音は様々な種類があります。ほかには「ゴホンゴホン」と表現されることもあります。


――豚は風邪をひくと、どんな症状になる?

獣医学的には、豚に「風邪」という疾患はありませんが、人間が風邪をひいた場合と似た症状として、くしゃみ、鼻水、発熱、元気消失、食欲不振、咳といった症状は飼育豚でも確認されます。

※SoundTalks(TM)は、24時間365日昼夜を問わず豚の咳音をモニタリングし、咳音の状況変化を可視化して適時知らせますので、スタッフが遠隔地にいる場合でも、あるいは、豚舎内に人がいない時間帯でも、豚の咳の発生状況を確認できます。これにより、獣医師への早期の報告・連携が可能となるため、獣医師による早期診断・早期治療が期待されます。なお、SoundTalks(TM)は、飼育豚の咳音を絶え間なくモニタリングするものであり、飼育豚が発する音によって診断を行う医療機器ではありません。


――悪化するとどうなる?

呼吸器の疾患により、成長に必要な栄養素を効率的に摂取できなくなり、発育の遅れや肉質の低下につながります。そのため、疾病の疑いを早期に検知し、獣医師による早期の疾病診断が重要です。


――豚の体調不良を、これまで人間はどのように見分けていた?

現地のスタッフが豚舎を見回り、実際の飼育豚の咳音や様子を確認し、咳音の頻度に変化が感じられた場合に、管理獣医師と連携し獣医師の診断を仰いでいました。

豚舎の様子(画像提供:BIAHJ)

臼井農産「今まで気づかなかった部分が色で見える」

――咳は個体でなくエリアで検知する?

咳の原因が、病原体に起因するものであれ、ホコリやガスなどの環境に起因するものであれ、豚舎内で咳の原因が既にまん延していると、1頭のみの豚が咳をすることはレアケースです。

産業動物においては、症状を呈している個体からウイルスや細菌が他の個体へ伝播するスピードは想像以上にはやいため、また、豚舎環境は1頭のみならず飼育されている豚全体に影響するため、1頭のみが咳を呈していることは考えにくく、個体ごとで検知するより、豚舎内のエリア単位でモニターします。


――臼井農産は、なぜ検知器を導入することにした?

SoundTalks(TM)の導入により、リアルタイムで飼育豚の咳の状況や飼育環境における変化が可視化され、管理獣医師との早期連携・早期相談が可能になることで、「呼吸器系の疾患は生産成績への悪影響を及ぼすので、少しでも軽減できることを『期待できる』と考えて実証実験を実施している」と話されています。


――実験中の現在、臼井農産は負担の軽減は実感している?

「軽減は今後のこれからと感じている。人の経験値に頼っていた部分が平準化されて、今まで気づかなかった部分が『色で見える=見える化』という効果について大きいと感じている」と臼井農産の方は話されています。

最高品質の豚肉の提供と養豚業発展を目指す

――今後、実験と実用化はどう進んでいく?

今回の実証実験は、2021年11月1日から2022年10月末までの予定です。本取り組みにて集積したデータを活用し、臼井農産は最高品質の豚肉の提供を目指していきます。BIAHJとNTT東日本は、養豚業へのIoT、ICT サービス導入のサポートを実施していくほか、各種連携等により養豚業発展に向けて新たな仕組みづくりを検討していく予定です。


――将来的には、他の動物の応用も可能?

SoundTalks(TM)システムを活用して他の畜種における咳音の集音が可能かどうかは未検証で、検証予定もございません。また、畜産動物の畜種によって管理上観察すべき点は異なり、飼育場の集音がその畜種の適切な管理と関連するか検証が必要になります。


負担の軽減はこれからということだが、こうした最新技術を使うことで、豚の健康、そして養豚業の発展につなげてほしい。