3年前に白血病を発症し、その経験をアートで発信しながら職場復帰を目指す、新潟県長岡市の男性を取材した。

絵を描くことが治療中の心の支えに

2021年5月、長岡市でマスクをして声を出さず、ソーシャルディスタンスを保つことで開かれた無料の屋外フェス。

会場で子どもが抱きしめていたのは、特別なCDジャケットだった。

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ダンボール紙でできたCDジャケットは、長岡市を拠点に音楽活動をしているアコースティックデュオ「ひなた」が、フェスを記念して発表した限定品。

野本昌宏さん:
段ボール部分は私が作って、傘の部分は福祉施設の子どもたちの切り絵

そのCDジャケットを手がけたのは、フェスで販売を手伝っていた野本昌宏さん(42)。

野本昌宏さん:
愛の詰まったこの作品が、みんなの手に届くとうれしい

ダンボールなどの梱包材をデザインして製造販売する長岡市の会社で働く野本さん。

ダンボール紙を使ってアート作品を発表しているが、きっかけは過酷な現実からだった。

野本昌宏さん:
3年前に病気が見つかって。急性骨髄性白血病。本当に「目の前が真っ白ってこういうことか」という感じだった

野本さんが絵を描くようになったのは、抗がん剤の投与や弟からの骨髄移植など、治療のための入院生活が始まってからだった。

野本昌宏さん:
治療は実際やってみたら、めちゃくちゃつらかった

つらい治療が続く中で野本さんの心を和らげたのが、絵を描くことだった。

野本昌宏さん:
(病室で)食べたかったものを描いていた。最初の絵はフランスパン。描いていたら看護師さんに「おいしそうなパン描いていますね」と言われて。ここがスタート地点だと思う

1年ほど療養した野本さんは“同じ病で苦しむ人の光になれば”と、2020年から闘病の経験をアートで発信する活動を始めた。

野本昌宏さん:
けっこう苦戦はしているけど、いま生きてここにいるので、(私の作品を)見て希望を持ってほしいと思う

大切な“数字”が刻まれたTシャツ

ある日曜日、特別に野本さんが働く会社を案内してもらった。

新型コロナウイルスを含め、病気の感染に気をつけなければならない野本さんは、多くの人が働く会社には出勤できず、リモートワークが続いている。

――野本さんが作っていたものは?

野本昌宏さん:
たこ焼きや焼きそばの入れ物。(紙の容器で)接着剤が食べ物に溶ける心配から、折り目を重ねた容器を考案

デザインに苦労を重ねた会社での日々。

野本昌宏さん:
焦ってももう、体がついてこないので、自分のできる範囲で頑張っていきたい

野本さんには、白血病を経験したことで大切にしている“数字”があった。

野本昌宏さん:
1096日間というのが、すごく大きい

1096…。これは野本さんが白血病で入院してから、体の回復を感じるまでの日数。野本さんは“1096”をデザインに織り込んだTシャツを作った。

野本昌宏さん:
(Tシャツの)売り上げの一部を白血病の治療に関わるところに寄付できたらいいなと思って

白血病で入院してから、体の回復を感じるまでの日数「1096」をデザインに織り込んだTシャツ
白血病で入院してから、体の回復を感じるまでの日数「1096」をデザインに織り込んだTシャツ

黒の長袖には理由がある。

野本昌宏さん:
白血病の治療で、皮膚の障がいが出ることがあって。なるべく日焼けをしないよう、医師から指導された

紫外線から皮膚などを守る必要がある野本さん。2021年5月に手作りのCDジャケットを販売していた時、黒い帽子に長袖、サングラス姿だったのはこのためだった。

野本昌宏さん:
マスク・サングラス・長袖で、真夏にリハビリとして散歩をしていた時に、「キモい」と通りすがりに言われたことがあった。結構へこんだけど、病気でどうしてもそういう格好をしないといけない場合もあるんだよ、というのを知ってもらえたら

「病気をきっかけに、今まで以上に幸せに」

10月24日の朝、長岡市摂田屋にある「発酵ミュージアム・米蔵」に野本さんの姿があった。地域の食やアート作品を販売するモーニングマーケットで、野本さんはTシャツや絵を販売。

お客さん:
Tシャツがすごくかわいいし、部活で着ようかな

お客さん:
勇気づけられる人が、間違いなくいるんだろうなと思う

接客の合間には、イスに座り込む野本さん。

野本昌宏さん:
休憩をとっておかないと体がもたないので。無理はしないように

気持ちは前向きでも、体力の回復は追いついていない。

野本昌宏さん:
病気をきっかけに、今まで以上に幸せになれるよう。病は不運だけど不幸ではない。これは、ほとんど自分に言い聞かせている感じ。時にくじけそうになるので、負けないようにしないと

白血病の経験を、前向きに生きる力にする。完全な職場復帰には、もう少し時間が必要だが、今できることを一歩ずつ。野本さんは、その歩みを進めている。

(NST新潟総合テレビ)

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