ワインを南三陸町の新たな産業に

人をつなぎ、地域の魅力を再発見するワイナリーの挑戦を見つめた。

午前3時、宮城・南三陸町の山に集まる人たち。そんな真夜中に行われたのは、ワイン用のブドウ・シャルドネを収穫する"ナイトハーベスト"。

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「南三陸ワイナリー」佐々木道彦代表取締役:
これから、南三陸ワイナリーのシャルドネの3年目の収穫を始めたいと思います

日が昇ると糖度やうまみが下がってしまうというブドウを少しでも良い状態で収穫するため、日の出前に行われたもの。

地元の参加者:
自分が摘んだ分が1滴でもワインの中に入っていると思ったら、それもまた今までにない新たな刺激かなと。ちょっとでも広がっていくのに、お手伝いできたらなと…

ナイトハーベストの指揮をとるのは「南三陸ワイナリー」の代表・佐々木道彦さん。

佐々木さんは東日本大震災後にボランティアで南三陸町を訪れ、町の整備や震災前の産業を元に戻すことだけが復興ではないと新たな産業の必要性を感じ、静岡県から移住した。

そもそもなぜ、ワインを南三陸町の新たな産業としてスタートさせたのだろうか。

「南三陸ワイナリー」佐々木道彦代表取締役:
ワインはどこで作られて、その町のどんな食事と合うのだろうかとか、地域が語られやすいお酒ということで、そこにすごく可能性を感じました

産地のさまざまな魅力を発信しやすいというワイン。その拠点となるのが、2020年10月にオープンしたワイナリー。

南三陸町が支援を行っていた南三陸ワインプロジェクトに出会った佐々木さんが中心となり、約3年の歳月を経て実現させた。

醸造所の隣には、お土産も買えるレストランを併設。もちろんワインを飲むことができる。

ワインを味わってみると、ブドウのうまみがしっかりあるが、酸味もほどよくあるので爽やか。

ほかにも、志津川湾産のカキを使用したパテや、魚介や野菜をふんだんに使ったランチなど、南三陸各所から仕入れた食材を使った料理があり、ワインとのマリアージュが楽しめる。

震災以降、人口減少や少子高齢化が加速し、各産業の担い手不足が問題となっている南三陸町で、ワイン事業を通して農家や漁業など地元の産業とのマリアージュを進めることで、雇用拡大も目指している。

「南三陸ワイナリー」佐々木代表取締役:
諦めずに何年も何年も継続してやっていたときに、もしかしたら10年後、われわれの活動をきっかけに少しずつ(南三陸町に)にぎわいが戻ってくればいいなという願いを込めて今、この活動をしているので、とにかく諦めずに継続していくこと、これが最大の目標だと思っています

継続的に関わりを持つ「関係人口」増へ

Live News αではコミュニティデザイナーでstudio-L代表の山崎亮さんに話を聞いた。

三田友梨佳キャスター:
様々な街づくりに取り組まれている山崎さんの目に、ワインによる"地域おこし"はどう映りましたか?

コミュニティデザイナー・山崎亮さん:
お酒・ワインには、人をつなぎ、地域の魅力を再発見する大きなチカラがあります。例えばワインをつくるには地域でぶどうを育てる必要があり、農家とつながります。さらにワインを美味しく楽しむには、その土地のものを一緒に食べることで、生産者、小売店、飲食店などとつながることができて、ワインを核にした地域おこしの動きが生まれることを実感しました

三田友梨佳キャスター:
持続可能性のある地域の活性化がワインで図られているようですね?

コミュニティデザイナー・山崎亮さん:
地域の"賑わい"を創り出そうと外から何か新しいものを持ち込むことはよくあります。例えば、ショッピングセンターや新たな観光施設などの誘致も一つの手段ではありますが、ビジネスが優先されて持続可能性が難しいこともあります。今回の南三陸ではワインづくりを持ち込んだ。これが地元の魅力を再発見するリトマス試験紙の役割を果たしていると思います。ワインとあう食材は何か。地元の牡蠣はどうか、あるいは山の幸はどうかなど1つずつあててみて、これがワインにあうといった新しい魅力を発見することで漁業農業良い影響を与えていると思います

三田友梨佳キャスター:
南三陸のワインはネット販売もおこなっていて、全国にファンを増やすことも可能ですよね?

コミュニティデザイナー・山崎亮さん:
南三陸に暮らしていなくてもワインを通じて全国にこの土地と継続的な関わりを持つ「関係人口」を増やすことが出来る。「関係人口」は、その関わりの深さでグラデーションがあります。ワインの購入をきっかけに南三陸を訪れる人がいたり、あるいはワインに関わるビジネスを始める人がいる、その先には移住を考える人もいるかもしれない。南三陸のワインにまつわる物語に触れた方が、新たな物語の担い手になっていくことに期待したいです

三田友梨佳キャスター:
ワインをきっかけに町全体とつながりながら、 地域に味わいと賑わいを生み出すことで、未来への可能性が広がっていきそうです

(「Live News α」12月2日放送分)