熊本県南阿蘇村で6軒のペンションがあった「長陽メルヘン村」は、熊本地震で壊滅的な被害を受けた。地震から5年7カ月。この場所で唯一、宿泊施設を再開させたオーナーの思いに迫る。
10万人の宿泊客が訪れたペンションが全壊
南阿蘇村で2021年11月、営業を始めた小さなホテル「南阿蘇野ばらINN」のオーナー、栗原有紀夫さん。この日は、常連客と食卓を囲み新たな門出を祝った。
この記事の画像(19枚)南阿蘇 野ばら INN・栗原有紀夫さん:
途中、諦めようと思ったんですよ。どうにも動けなくなったときがあって
6軒のペンションが集まる「長陽メルヘン村」。2016年の熊本地震で斜面が崩れ落ち、ほとんどのペンションは全半壊した。栗原さんのペンションも全壊し、道路とライフラインも寸断された。
熊本地震の本震から一夜明けたメルヘン村。ペンションのオーナーたちは、広場に食材を持ち寄って、声を掛け合いながら救助を待った。
消防:
孤立集落ですかね?
住民:
孤立です。道も寸断、水もライフラインも全部アウト
ケガをした宿泊客は消防隊のヘリで搬送。栗原さん家族も避難所、そして仮の住まいでの生活を余儀なくされた。
「長陽メルヘン村」は、村の誘致で開発が進められ1979年に完成。最初にペンションを開業したのが栗原さんの父・史郎さんだった。当時、ペンションブームの先駆けで九州では初めての開業といわれている。
その後、栗原さんもペンションの経営に加わり、露天風呂や名物・スペアリブで宿泊客をもてなしてきた。常連客も多く、これまでに延べ約10万人の宿泊客が訪れたという。
ペットも泊まれる客室、見晴らしのいいデッキ
地震から4年が経った2020年、メルヘン村の崩れた道路と斜面は国や県、南阿蘇村が整備し、水道や電気も復旧した。
そして、2021年4月16日。熊本地震の本震からちょうど5年。栗原さん家族は、完成した新しい宿泊施設で黙祷を捧げていた。
南阿蘇 野ばら INN・栗原有紀夫さん:
被災後の新しい出会いがなかったら、ここまで来ることは絶対できなかった。出会いが本当に幸運だった
6軒あったペンションのうち、5軒は移転や廃業。栗原さんだけが現地での再開を決断した。
南阿蘇 野ばら INN・栗原有紀夫さん:
途中、ペンションをやめて、この年でどこかで働こうと思った時期も正直あった。「再開したらすぐ泊まりに来ます」とたくさん言っていただいて、それが背中を押した
11月13日、ようやく営業の許可が下りた栗原さんの宿泊施設に、にぎやかな声が戻ってきた。
南阿蘇 野ばら INN・栗原有紀夫さん:
ご無沙汰しています。きょうはありがとうございます
常連客:
お久しぶりです、元気ですか
常連客:
5年は長かったですね。ようがんばっなはった
南阿蘇 野ばら INN・栗原有紀夫さん:
みなさんのおかげです
元の場所に建てられた洋風な施設。コンセプトは「家族でもてなす小さなホテル」。ペットの受け入れが可能な客室に、見晴らしのよい広いデッキ。
料理には地元産の野菜や肉などを使い、食材もこだわった。
母・邦子さん:
お客さんにおいしいものを食べてもらわんといかんから
妹・祐子さん:
(5年間)時が止まっとったけんですね
常連客には「野ばら」で出会い結婚した夫婦も
オープンを喜び、懐かしい写真を持って来た常連客の姿もあった。
常連客:
玄関で毎年、記念撮影をしていた
南阿蘇 野ばら INN・栗原有紀夫さん:
3月3日だから地震の1カ月くらい前ですね
工事日程の延期などで予定より半年ほど再開が遅れたが、この日は常連客3組を招待してのプレオープン。
常連客:
(味は)変わってないですね
常連客の中には、この場所で出会い結婚した夫婦の姿も。
野ばらで出会って夫婦になった常連客:
スペアリブ、これを食べに毎回来てたようなものです
野ばらで出会って夫婦になった常連客:
ここで出会って、結婚して子どもが生まれて。故郷みたいなものです
南阿蘇 野ばら INN・栗原有紀夫さん:
こうやって「野ばら」を再開して、また泊まっていただける形を作ることで、なんとか恩返しができる
熊本地震という困難を乗り越え、メルヘン村での再建を果たした栗原さん。家族とともに被災前と変わらないもてなしとにぎわいを目指す。
(テレビ熊本)