この記事の画像(19枚)

和風だしの中華そばに海老天を乗せて

岐阜県岐阜市では、「天ぷら中華」は知る人ぞ知る隠れたソウルフードだ。
90年以上の歴史を持つこのご当地グルメが今、絶滅の危機に瀕している。地域の食文化を残したい…。天ぷら中華を愛する愛好家たちは、存続の道を模索している。

岐阜市で天ぷら中華の普及活動をしている田代達生さん(45)。

田代達生さん:
昭和初期くらいから90年ぐらい続く、岐阜の元祖のB級グルメだったんじゃないかと…

天ぷら中華とはどのような食べ物なのか。さっそく、天ぷら中華が食べられる老舗の食堂「志のだや」へ。

昔ながらの中華そばの上に、ドドンと大きな海老天が乗っている「天ぷら中華」(780円)。単に中華そばに天ぷらが乗っているとか、そんな単純なものではない。麺、スープ、天ぷらが絶妙なバランスを醸す絶品グルメだ。

田代達生さん:
中華そば屋さんが始めたわけではなくて、うどん・そば屋さんが中華そばを出すようになったという流れ

天ぷら“中華”というネーミングから、中華料理店のラーメンに天ぷらを乗せたモノと思いがちだが、実際にはうどん店の“和風だし”の中華そばの上に、海老天を乗せたメニューだった。

麺と天ぷらを食べ終わった後、和風だしのスープに天ぷらの衣が溶け出し、思わず全部飲み干してしまうクセになる味だ。

当たり前に地域に溶け込み、全く注目されてこなかった

このお店では1日に6〜7人前は出るという天ぷら中華。岐阜では90年以上の歴史があるという。

志のだやの店主:
若いお客さんが「天ぷら中華は岐阜市のソウルフードだね」なんて話を…。そうか、僕は認識不足だったなと思いました

田代達生さん:
どこのお店もこんな感じで…。全く注目されずにきたB級グルメだと

天ぷら中華は、当たり前に地域に溶け込んでいたため、特別注目されることがなかった。そもそも田代さんは、なぜ天ぷら中華を広める活動を始めたのか。

田代達生さん:
ずっと天ぷら中華うまいなと思っていて。よくよく周りの友人たちに聞いてみると、皆そう思っていて。じゃあ天ぷら中華の愛好家でチーム作ろうと

田代さんは、7年前に地元の有志と同好会「天ぷら中華人民共和国」を結成。岐阜市のソウルフードとして広めるべく、食べ歩きツアーを企画するなど精力的に活動してきた。

田代さんらの調査によると、岐阜市内に天ぷら中華を出すお店は20軒ほど。つい最近まで、各店舗がオリジナルメニューを考案するなど盛り上がっていたという。

多くの店が天ぷらを仕入れていた専門店が廃業…絶滅の危機に

しかし、この1年で天ぷら中華を食べられるお店は激減し、わずか5軒にまで減ってしまった。

天ぷら中華は今、絶滅の危機に瀕しているという。天ぷら中華を襲った不測の事態とは?理由を調べるために2020年まで天ぷら中華を出していたお店へ向かった。

うどん店の店主:
出さなくなったというか、出せない。「伊藤天ぷら屋」さんが辞められまして。どうしても同じような天ぷらが手に入らないもんで…

天ぷら中華を提供していたのは小さな食堂ばかり。厨房に天ぷらを揚げるスペースは無く、ほとんどのお店は天ぷらの専門店である「伊藤天ぷら店」から仕入れていた。しかし、店は店主の高齢化などにより2020年に廃業。そのため、多くの店が肝心な海老天を入手できなくなった。

田代達生さん:
天ぷら屋さんが廃業しちゃうと手の打ちようがなくて…。(愛好家の)仲間の中に油問屋がいまして、「天ぷら伊藤さんの事業を承継したら」とも言ったんですけど。結局、うまくはいかず…

具体的な解決策はまだ見つかっておらず、このままでは絶滅してしまうと心配している。

「天ぷら中華」存続の道を模索する愛好家たち

この日、愛好会のメンバー5人が集まり、天ぷら中華の存続に向けて話し合いが行われていた。サラリーマンや自営業など職種は様々だが、天ぷら中華の未来を案じる気持ちは同じだ。

田代達生さん:
天ぷらが外から供給されるシステムは岐阜市だけ。分業しているからこそ「天ぷら中華」カルチャーは花開いたが、分業していたからこそ脆かった

愛好家のメンバーA:
「うどん高松屋」に供給している天ぷらは?(その店に)供給してもらうっていう手は?

愛好家のメンバーB:
配達専門の天ぷら店で、海老しか揚げていない。伊藤(天ぷら店)の弟子でしょ?

2020年に廃業した「伊藤天ぷら店」の弟子が、市内で天ぷらを配達しているという情報が。しかし、その弟子も既に80歳くらいという。

愛好家のメンバーB:
大体そんな業態、もうないよな。天ぷらを配達するとかさ…

高齢の店主に、これ以上配達をお願いするのは現実的ではないと断念。逆に天ぷら中華をやりたいお店を探すのはどうかという話になった。

愛好家のメンバーC:
白神(ラーメン店)の卒業生が、天ぷら中華ずっとやりたいって言ってるけど…。揚げ物のハードルが高いわけですよ。スープも取らないかん、麺も打たないかん。さらに天ぷら…

忙しいラーメン店では天ぷらを揚げている余裕がないのではないかと却下。会議は振り出しに…。

岐阜市役所の食堂で提供へ「二度揚げして…」

愛好家のメンバーD:
岐阜市役所の食堂に天ぷら中華を出してもらうのは?

田代達生さん:
そやね、岐阜市民が食べんと始まらないんだろうね

地元の人が多く訪れる岐阜市役所の食堂に、天ぷら中華を作ってもらうという案が浮上。さっそく電話で交渉してみると…。

愛好家のメンバーC(電話):
岐阜市で天ぷら中華が、絶命の危機に瀕しているんです。メニューとして検討していただけないかと思って

岐阜市役所食堂の担当者(電話):
そうですね、揚げ置きさせていただいて、二度揚げみたいな感じに…。問題ないです

突然な電話だったにもかかわらず、市役所の食堂からは前向きな反応が。

田代達生さん:
つながった!首の皮一枚。可能性はゼロじゃない

愛好家のメンバーC:
岐阜市役所の食堂は寄りやすい場所であり、天ぷら中華を「面白いな」「おいしいな」と思った方たちが、いろんなお店を回ることが出来るなら、文化としてもまた続いていくんじゃないか

まずは、天ぷら中華を市役所の食堂のメニューに。見えてきた一筋の光…。天ぷら中華の愛好家たちは、90年の歴史を誇る岐阜の食文化を残すために試行錯誤を続ける。

岐阜市役所の食堂の「天ぷら中華」のメニュー化については、2022年1月以降に本格的に検討に入る予定とのこと。

(東海テレビ)