「HACCP(ハサップ)」とは、食品を生業にしている人たちに義務化されたもの。しかし、大人でも理解するのが難しいと、頭を悩ませている人が多いのが現状。そんなHACCPをわかりやすく広めようと取り組んでいる高校生たちを取材した。
温度管理に交差汚染対策…クッキー作りでも徹底
食品科学研究会・佐藤楓さん:
翠星HACCPツアーをご紹介します
ハキハキと説明しているのは、翠星高校2年生の佐藤楓さん。今回のプロジェクトリーダーだ。
この記事の画像(31枚)HACCPとは、食品衛生管理における国際的な考え方。ある製品を生産する際に品質を損ねる危害要因を分析し把握する。そして、これを「無くす」または「減らす」ために、重要な項目を管理するポイントを作る。
日本では「一般衛生管理」という独自のルールを作ってきたが、これを世界レベルにするためにHACCPを導入。HACCPを導入しなければ、加工食品・生鮮食品の販売、飲食店で食品提供が出来なくなる。
義務化が決まった6月直前の輪島朝市で、HACCPを知っているか聞いてみると…。
朝市の人:
知らん
朝市の人:
私わかからん、HACCPって何やろ
そんなHACCPをわかりやすく伝えようと立ち上がったのが、石川県立翠星高校のみなさん。松任農業高校を前身とする県内唯一の農業高校で、食品業界を将来、背負って立つ人材の育成に力を入れている。
中でも食品科学研究会は、授業以外で加工品の研究開発や製造販売を行う、いわゆる部活動の1つ。日ごろからクッキーなどを作り販売している。
高校の活動でもHACCP導入は例外ではなく、義務付けられていた。
食品科学研究会・佐藤楓さん:
庫内温度200℃、201℃です
――これは何を?
食品科学研究会・佐藤楓さん:
窯の温度を言っていて、設定温度よりも上かを確認しています
――HACCP導入前はチェックシートはなかった?
食品科学研究会・佐藤楓さん:
なかったです。全部記録はとってなくて、自分たちの判断でやっていました
HACCPでは、1回クッキーを焼く毎に温度や焼き加減を記録しなければならない。わかりやすいルールの例をもう1つ。
――なぜ天板を持つ人とクッキーの生地を扱う人を分けているの?
食品科学研究会・山田真穂部長:
天板を運ぶときに天板の裏に生地が着いたまま焼くと、釜の中が汚れるので分けています。あとは生地を運ぶ人を分けることで、焼成後の生地と生の生地が交差して、生の生地に含まれる可能性のある菌の交差汚染を防いでいる
このように、クッキー1つ作るだけでも多くのルールを設けているのだ。
そして、自分たちで基準を見直し先生たちにまとめてもらった管理方法が、HACCPのさらに上の衛生管理基準「JFS-B規格」に合格。
国内の教育機関では初めての快挙に、第一人者である南九州大学の長田准教授は…。
南九州大学 食品安全学研究室・長田隆准教授:
HACCPの部分よりも一般衛生管理、マネジメントの部分が非常に難しい。そこを取り入れて教育機関でB規格を取られた翠星高校さんは、HACCPシステム全体をしっかり理解されている。これは、教育的にも意味があると思う
卵は専用シンクで 地元の和菓子職人も感心
高校生でもHACCPを取り入れることが出来る、もっとHACCPを広めたい。その思いで企画したのが「翠星HACCPスクールツアー」。
食品科学研究会・佐藤楓さん:
ここで長靴を履くんですけど、靴底が見えるように収納している理由は、靴底にクッキー生地やほこりなどのゴミがついていないかを確認するためです
この日ツアーに参加したのは、地元の和菓子屋・大松庵の松浦大器社長。どのようにHACCPを取り入れ実践しているのか。一般の食品事業者にもツアーを行い、高い水準を満たしている翠星高校の取り組みを参考にしてもらうのが狙いだ。
食品科学研究会・佐藤楓さん:
鶏卵の殻にはサルモネラ菌という菌が付着していると考えて、特別な扱いをしています。卵が着いた物は卵専用のシンクに置いています
大松庵・松浦大器社長:
このスポンジも?
食品科学研究会・佐藤楓さん:
シンクごとに置いてあるので、ほかのシンクには持って行かないようにしています
大松庵・松浦大器社長:
膨大な記録を残していて、区域分けと張り紙など、誰が見てもすぐわかるのが素晴らしいなと。これが講師の先生だと、こちらの知識がないと質問しづらいこともあるので、そういう意味では高校生のHACCPコースはすごくいいんじゃないかと
さらに、全ての食品事業者にHACCPをわかりやすく理解してもらおうと、ツアー内容をまとめた動画を作成して翠星高校のウェブサイトに載せている。YouTubeで配信すると、石川中央保健所での教材として採用されるなど食品業界に大きく貢献した。
食品科学研究会・佐藤楓さん:
無駄な説明を省いて、ちゃんと人に伝わるようなわかりやすい説明をしていき、より取り組みやすいようしていけたら
――これから忙しくなると思うが?
食品科学研究会・佐藤楓さん:
部活大好きなんで、私は忙しくても大丈夫です
農業高校の甲子園で狙う“最優秀賞”2連覇
そんな翠星高校にはある目標がある。
食品科学研究会・佐藤楓さん:
今取り組んでいる取り組みを成功させて全国大会で最優秀賞をとりたい
実は農業高校にも甲子園のような全国大会があり、翠星高校は2021年にHACCPの取り組みを引っ提げて、全国大会に乗り込んだ。今大会は2連覇が掛かっている大一番。その翠星高校の全国大会に密着した。
朝の体育館に響く、演劇部のような発声練習。そこには食品科学研究会の部員たちがいた。
翠星高校が2連覇を目指す農業高校の甲子園「日本学校農業クラブ全国大会」。スピーチの声も採点対象のため、発表者は研究会のオーディションで決めている。選ばれたのは佐藤楓さんと平田歩美さんの2人。
2大会連続最優秀賞獲得のため、部員みんなと顧問の安川三和先生で厳しいチェックが行われた。
食品科学研究会・山下慎二朗さん:
あとから平田が大きくなるから、ここやったら佐藤の声しか聞こえんくて、あとから平田の声が聞こえる状況になっとるげん
そしてこのスピーチ、ただ原稿を読めばいいだけではない。発表の制限時間は10分。この10分にいかに近づけるかも採点対象となる。タイムを測ってみると、この日は9分51秒。
食品科学研究会・佐藤楓さん:
タイムがぶれたりとか、ちゃんとできるのかという不安もあるけど、全部発揮できるように頑張りたいです
食品科学研究会・平田歩美さん:
大きな舞台に立つことがなかったので緊張が…プレッシャーもあるので大変です
迎えた本番、練習の成果を発揮できるか
そして、いよいよ全国大会当日。翠星高校がエントリーする部門には、北は北海道、南は宮崎県まで9チームが出場している。
食品科学研究会のメンバー:
この人たちの記録簿、めっちゃ手書き多いよ
メンバーが見ているのはライバル校が研究成果をまとめた記録簿。これも採点の対象となる。1年かけて仕上げた渾身の1冊。翠星高校はHACCPの活動についてまとめた。
食品科学研究会・山田真穂部長:
自分たちの学校のものが一番だと思っているけど、すばらしいものを作っている点ではみんな一緒だなと思いました
2連覇を狙う翠星高校。直前まで気を抜けない。発表前に円陣を組んで気合を入れ直す翠星高校。
そして、発表の順番がやってきた。スピーチとプロジェクター操作、息の合った発表で普段通りに進めて行く。平田さんと佐藤さんも落ち着いていた。
発表はノーミスで終了。気になるのはタイムだ。
アナウンス:
ただいまの発表時間は9分55秒でした
規定時間の10分との差はわずか5秒。パーフェクトな発表を見せた翠星高校。
食品科学研究会・山田真穂部長:
何カ月も何カ月も練習してきて、その成果をやっとすべて出せた。今までの練習の中で100点だったと思います
食品科学研究会・佐藤楓さん:
緊張もしてたんですけど同じくらい楽しく発表できたので、今はもうやり切ったという気持ちでいっぱいです
食品科学研究会・平田歩美さん:
あとはいい結果を待つだけだなと思っています
全てのチームの発表が終わり、いよいよ緊張の瞬間。
アナウンス:
プロジェクト発表会ヒューマンサービス最優秀賞は、北信越ブロック代表・石川県立翠星高等学校!
見事、2大会連続の最優秀賞に輝いた。
食品科学研究会・佐藤楓さん:
今までずっとみんなで協力して、辛いことも大変なこともあったけど、それが無駄にならずに最優秀を取れてうれしくて。思わず泣いてしまった
食品科学研究会・山田真穂部長:
私の高校生活すべてをかけてきた大会だったので、最優秀を取れてとても嬉しいです
2022年の全国大会はなんと石川県で開催。3大会連続の最優秀賞獲得も期待されている。
(石川テレビ)