あなたは「8ミリフィルム」を観たことがあるだろうか?
磁気テープの8ミリビデオではなく、小さなネガの画像が連なった8ミリフィルムは、かつて家庭の記録用や映画界を目指す若者の作品作りなどに広く使われていた。

しかし今、日本やアジアで唯一と言われる8ミリフィルムの現像所が、存続の危機に立たされているという。
 

取り壊しが決まった建物(出典:レトロエンタープライズ)
取り壊しが決まった建物(出典:レトロエンタープライズ)
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東京・墨田区にあるレトロエンタープライズは、1996年から8ミリフィルムや関連機材を取り扱いはじめ、2005年から8ミリフィルムの現像を始めた。
当時から、8ミリフィルムの現像所は日本にここしかなかったこともあり、映像を志す若者や8ミリに青春を記録した中高年をはじめ、世界中から様々な利用者が足を運んだという。
また、8ミリフィルムの製造を中止する大手メーカーも現れる中、同社では映画用の35ミリフィルムを細く裁断することで、現在も自社製の8ミリフィルムを作り続けている

ところが、現像施設や古い機材の修理部門を置くために借りていた木造の建物が、老朽化によって取り壊すことになってしまった。
さらに、機材の経年劣化やスタッフの高齢化も深刻で、とうとう今年いっぱいで現像部門を閉鎖するかギリギリの判断を迫られることになったという。
 

(出典:レトロエンタープライズ)
(出典:レトロエンタープライズ)

そこで同社は、現像部門の存続をかけた最後の手段として、10月27日から「クラウドファンディング」に打って出た。目標額は1000万円。

その使い道は、大型機材を含む引っ越し費用や、入居先の工事費用、現像機の修理、さらに新たなスタッフの育成費用も含まれているという。
支援のリターンは、中古映写機や8ミリカメラをはじめ、8ミリフィルム・VHS・カセットテープのデジタル化、現像機への署名や工場見学など様々。
11日時点では381万4500円の支援が集まり、募集終了まで残りは44日となっている。
 

(出典:レトロエンタープライズ)
(出典:レトロエンタープライズ)

ところで、レトロなビジネスをしている中、どこからクラウドファンディングというアイデアを思いついたのだろうか?
また同社は過去に、高額の年商があると紹介されたこともあったが、時代の流れとともに経営が厳しくなっていったのだろうか?
代表取締役の神山隆彦さんに聞いてみた。
 

お客さんの一言がきっかけに

――なぜクラウドファンディングをすることに?

建物が老朽化して立ち退きを迫られたものの、移転費用を賄うほどの利益を生んでいない事業のため、一時は現像事業からの撤退を考えましたが、お客さまから「一度クラウドファンディングで費用を募ってみて、それでもお金が集まらなければ撤退すれば?」と言われ、クラウドファンディングを始めた次第です。
 

――建物の築年数はどのぐらい?

当時建てた人が亡くなってしまっているため正確な年数はわかりませんが、築年数60年以上経っています。
 

――日本・アジアで唯一の8ミリの現像所というのは本当?

「8ミリ」はよく間違われるのですが「8ミリフィルム」と「8ミリビデオ」の2つがあり、我々がやっているのは前者の物で、昭和30年代~50年代に流行った動画の記録方式です。
例えば当時、運動会や旅行などの行事をフィルムで動画撮影し、現像した後、夜各家庭で映写機を使って映写大会をするというのがかつての風物詩でした。

しかし世の中にビデオが現れ、現像しなくてもテレビで再生できるようになったため、8ミリフィルムは衰退し、大手のメーカーは撤退していきました。

そんな中、現在でも世の中には根強いファンがたくさんいるため、国内で、アジアで唯一、ほそぼそと現像を続けております。

月平均50本ぐらいです

――いま注文はどのくらいある?

月平均50本ぐらいです。
大きなウエイトを占めるのが現像です。例えば他でフィルムを買っても、撮影後その中身を見るのは弊社で現像するしかないのです。
 

――以前は、かなり年商があると紹介されたけど経営は大変?

その年商は、弊社の各部門の総売り上げを指したものでした。
主な収入源は8ミリとは別部門の「アーカイブ」と呼ばれる、テレビ局相手のダビング事業によるものです。
年商というのは経費を引く前の売り上げの事なので、何千万円もするVTR機器や人件費を差し引くと通常数十万円しか残りません。しかも今年はコロナでマイナスとなりました。
 

――最近の売り上げはどう変わった?

低空飛行でコロナで売り上げ激減という感じですね。
 

――クラファンがうまくいかないと本当に閉鎖なの?銀行は?

はい。現像部門は閉鎖となります。
銀行はすでにお金を借りてコロナの落ち込みに使ってしまった関係でもう借りられません。
 

想像するような“キズだらけのザラザラな映像”ではない

――1000万円の支援金はどう使う?

かなり大がかりになりますので引っ越し費用で約800万円、若いスタッフ育成に100万円、クラファン業者に100万円といった具合です。
 

――スタッフの育成はどうするつもり?

ネット上で興味のある若者を募って1年ぐらい修行させて1人前にさせる予定です。
 

――最後に8ミリフィルムや8ミリ映画の魅力とは?

映像の質感ですね。
温かくて懐かしい映像です。決してよく若い人が想像しているキズだらけのザラザラな映像ではありません。

LPレコードなどと同じく海外では8ミリに人気が集まっており、アメリカ、ヨーロッパではすごい人気です。コダックも新しいフィルムを新発売したりしています。
欧米には我々のような店がたくさんあるのですが、日本、アジアではうちだけなのが残念です。
 

(出典:レトロエンタープライズ)
(出典:レトロエンタープライズ)

8ミリといえば、大林信彦監督の映画「転校生」(1982年)は、主人公の男の子が8ミリカメラを趣味にしていた。そして映画の最後は、引っ越しのトラックに乗った男の子が、追いかけてくるヒロインをカメラで撮影しつつ幕を閉じる。

世の中がデジタル化する中、かつて愛されていた味のある文化はどんな結末を迎えるのだろうか。