岸田首相は、衆院選直後の11月2日から3日にかけて、イギリス・グラスゴーを訪問し、気候変動対策の国連の会議=COP26の首脳級会合に参加した。現地では、アメリカのバイデン大統領らとの対面の会談も行った。

首相就任後、初めてとなる国際舞台。しかし、現地での滞在時間は約8時間。ホテルで休む暇もない強行軍で、岸田首相自身が「大変厳しい日程だった」と振り返った。それでも訪英に踏み切ったことに、外相を戦後最長の約4年8か月務めた経験を活かし、いち早く外交で成果を出したいという岸田首相の思いがうかがえる。

政府専用機を降りる岸田首相(英・グラスゴー)
政府専用機を降りる岸田首相(英・グラスゴー)
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COP26で「日本の存在感示せた」

各国首脳が集まる気候変動の会合で、岸田首相は、2050年カーボンニュートラルの実現のため、2030年度に温室効果ガスを2013年度比で46%削減することを目指し、更に50%の高みに向けた挑戦を続けることを世界に向けて宣言した。

さらに、「アジアは世界の経済成長のエンジンだ」とし、アジア地域として脱炭素化を進めるべく新たに5年間で最大100億ドル(=1兆円以上)の資金援助を行う旨も表明した。

COP26首脳級会合で演説する岸田首相(英・グラスゴー 11月2日)
COP26首脳級会合で演説する岸田首相(英・グラスゴー 11月2日)

会合後、岸田首相は、2050年カーボンニュートラルに向けた取り組みやアジアの脱炭素化への支援表明について「各国から高い評価を頂き、日本の存在感をしっかり示すことができた」と手応えを語った。

気候変動問題に注力の米英「COP欠席なら日本への評価が変わる」

今回、岸田首相がCOP26への参加を決めた背景には、菅前政権が打ち出した2050年カーボンニュートラルの実現や削減目標について、岸田政権も取り組む姿勢を国際社会に示す必要があったのだろう。

ただ、ある政府関係者はアメリカとイギリスという大国の存在があったと話す。バイデン大統領は、トランプ前大統領が決めたパリ協定からの離脱を撤回した。温暖化対策は、バイデン政権の柱となる重要政策の一つだ。また、イギリスのジョンソン首相はCOP26の議長を務める。

この関係者は、「COPを欠席すれば日本への評価が変わってしまう。国際的にも国内的にも気候変動問題を軽視していると捉えられかねない」と本音を明かした。

さらに、「衆院選直後に国を空けても良いのかという議論もある。ただ、気候変動に注力するアメリカやイギリスと短時間でも顔を合わせて話すことは重要で、岸田首相が政治的に判断をした」と話す。また、別の関係者は「日本の総理が衆院選直後に行くこと自体が国内外への発信になる」と力を込めていた。

日英首脳会談(英・グラスゴー 11月2日)
日英首脳会談(英・グラスゴー 11月2日)
 

実際、現地で行われた日英首脳会談では、ジョンソン首相から「衆院選挙の直後に来てもらって感謝する。これは地球へのコミットメントだ」との発言があったという。会談の同席者は「いままで見てきた首脳会談の中で一番柔らかい雰囲気の会談だった」と語り、対面外交が上々のスタートを切ったとの認識を強調した。

裏の最重要ミッションは「対面での日米首脳会談」

今回、岸田首相が訪英を決断した決め手の一つがバイデン大統領の出席だ。そして、現地で「対面での日米首脳会談」を実現することは、岸田首相にとって最重要事項の一つだった。外遊に同行した関係者は「今回、他のどの日程よりも優先して調整されたのが日米首脳会談だった。短時間でも良いのでバイデンと話すことが重要なミッションだった」と明かした。

日米“短時間懇談”(英・グラスゴー 11月2日 提供:内閣広報室)
日米“短時間懇談”(英・グラスゴー 11月2日 提供:内閣広報室)

日米首脳が話す時間を捻出するため、午前7時の予定だった日本出発の時間を、直前で午前6時発に前倒しするなど、ギリギリまで日程調整が続けられた。結局、“立ち話”による日米首脳の“短時間懇談”という形で対面の会談が実現した。

日本政府は、この中で「日米同盟の更なる強化や地域情勢、気候変動問題への対処や、自由で開かれたインド太平洋の実現に向けた日米の連携」が確認されたと意義を強調する。

首脳会談後、岸田首相は記者団に、「できるだけ早いタイミングで再会し、よりじっくりと話が出来る会談の場を設けようということで一致した」と早期訪米に強い意欲を示し、「年内も含めてできるだけ早くやる」と語った。

記者団のインタビューに応じる岸田首相(英・グラスゴー 11月3日)
記者団のインタビューに応じる岸田首相(英・グラスゴー 11月3日)

各国首脳との対面会談も 岸田外交順調スタート 今後は…

同行した複数の関係者が「4年8カ月に渡る外相時代の経験があるので、旧知の仲の首相も多い。国際舞台への対応もスムーズだった」と今回の訪英を振り返る。

岸田首相は、限られた時間の中で、バイデン大統領やジョンソン首相のほか、ベトナムのチン首相、オーストラリアのモリソン首相、グテーレス国連事務総長らと個別会談を積極的に重ね、信頼関係の構築を目指した。

ただ、今回の外遊は、首相就任後の日本の新たなリーダーとしての“挨拶回り”的な意味合いも大きい。今後、時間をかけて各国首脳との信頼関係をさらに深めていけるのか。岸田外交はまだスタートしたばかりだ。

(フジテレビ政治部 亀岡晃伸)

亀岡 晃伸
亀岡 晃伸

イット!所属。プログラムディレクターとして番組づくりをしています。どのニュースをどういう長さでどの時間にお伝えすべきか、頭を悩ませながらの毎日です。
これまでは政治部にて首相官邸クラブや平河クラブなどを4年間担当。安倍政権、菅政権、岸田政権の3政権に渡り、コロナ対策・東京五輪・広島G7サミット等の取材をしてきました。