2019年の台風災害で浸水被害を受けた長野市のリンゴ農園。飯綱町に本拠地を移し、リンゴ狩りや直売を始めにぎわいを見せている。
リンゴ園が再スタート 収穫の最盛期
この記事の画像(16枚)秋晴れの下、リンゴ狩りを楽しむ親子連れ。
子ども:
おいしい
ここは飯綱町のリンゴ農園・ブラベリーファーム。「シナノスイート」が収穫の最盛期を迎えている。
ブラベリーファーム・松沢寿季さん:
おしりのつぼみのところが開いてくるんですよ。熟してくると開いてくる。自分たちの作ったリンゴを「おいしい、おいしい」って食べてくれるのは、率直にうれしいですよね
農園の本拠地は元々、長野市赤沼のアップルライン沿いにあった。松沢さんは名前も場所も変え、2021年9月に再スタートを切ったのだ。
台風19号で畑と直売所が浸水 営業再開も…
2019年10月、台風19号により千曲川の堤防が決壊。松沢さんの「三栄農園」は畑も直売所も浸水し、大きな被害が出た。
多くのボランティアの力で泥の撤去は済み、3週間後には営業を再開。
すぐに常連客が足を運んでくれた。
常連客(当時):
ちょっとでも助けになればいいかなと思って来た
営業を始めたものの建物には大きなダメージが残った。悩んだ末、松沢さんは大きな決断をした。
松沢寿季さん(2021年8月):
やっぱりさみしいですね。崩れてく姿見るとね…。今まで何十年も、このアップルラインで「三栄」っていう店を守ってきてくれた建物。本当にたくさんの感謝の心で「ありがとう」って言葉を伝えたいですね
勇気と感謝の気持ちを込めて、リンゴ作りを続けていく
松沢さんは親子3代続いた赤沼を離れ、もう一つの畑がある飯綱町に拠点を移し、再出発を果たすことにした。被災から2年近くが経った2021年9月。
松沢寿季さん:
いよいよですね
飯綱町に新たな直売所がオープン。広くなった売り場には、2021年から栽培したブドウや新たに手掛けたリンゴ菓子が並ぶ。
友人たちも開店祝いで駆けつけてくれた。
友人:
(水害で)大変な思いしたけど、本当によかった。がんばったなと
新たな農園は「勇気」の英語を使って、「ブラベリーファーム」と名付けた。
ブラベリーファーム・松沢寿季さん:
たくさんのボランティアの方に助けをもらったことによって、自分たちも勇気をたくさんもらったので、「勇気」という気持ちを忘れないために「ブラベリーファーム」という名前をつけさせてもらった。「第2のアップルライン」みたいな感じで、全国に飯綱のおいしいリンゴを届けていきたいなっていう思いが一番強いですね
秋の深まりと共にリンゴの販売も本格化。直売所には多くの客が詰めかけている。
客:
こんなに種類があるし、ひとつひとつとてもきれいですしね。たくさん買いたいなって気持ちになりました
「三栄農園」を知る客の姿も。
三栄農園を知る客:
水害はひどかったみたいだけど、再開してもらえて、こうやって楽しめるから利用する身としてはうれしい
新天地で再出発。松沢さんは、支えてくれた人々への感謝をかみしめながら働いている。
ブラベリーファーム・松沢寿季さん:
水害に遭った時に、心配してくれたお客さんとか、ボランティアの方々から「新店オープンおめでとうございます」というお声がけもいただいて、感謝の気持ちを込めて接客していこうって思いましたね。おいしいリンゴを提供できるように、これから頑張っていきたい
【取材後記】
長野市赤沼にあった拠点は、松沢家が親子3代で営業してきたことはもちろん、被災当時も、家族が2階に避難して事なきを得るなど、農園を守ってきた場所。その取り壊しを目の当たりにする松沢さんは、やはりさみしそうな顔を見せましたが、それ以上に再出発への前向きな言葉が印象的でした。
「良い商品をより多くの人に」「今度は飯綱町を盛り上げるぞ」という、松沢さんのリンゴ農家としての強い熱意が根底にあるように私は感じました。「第2のアップルライン」形成を目指す松沢さんの挑戦を私も応援していきます。
ただ、災害から2年が経過した今も、地域に戻りたくても戻れない人がいるのが現状です。別の場所に住処を移した人もいて、“地域のコミュニティー”をどう維持していくかが日を追うごとに深刻な課題となってきています。
堤防や道は復旧しても、住民たちが心から復興したと思える日は、まだまだ先。私たちは、これからも被災地に寄り添い、課題を共有していきます。
(長野放送 アナウンサー 重盛赳男)