腰痛で困っているデスクワーカーは多いだろうが、そんな悩みが解消されるかもしれない。

東北大学は19日、大学院医工学研究科の永富良一教授らの研究チームが、センサーの付いたスマートチェアを使うことで、オフィスワーカーの“腰痛悪化予報”が可能になったと発表した。これは世界初だという。

研究チームは、実際にオフィスで働いている22人にセンサーを装着したスマートチェアを3カ月使ってもらい、1日3回、腰痛についてのアンケートを実施。スマートチェアは座面下の四隅に圧力センサーが配置されており、前後左右の荷重の変化が分かるようになっている。

(出典:東北大学)
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腰痛が悪化しにくい可能性がある共通パターンを発見

これらの情報をAIで解析したところ、腰痛が悪化しにくい可能性がある共通のパターンを発見。朝に20分~30分座っているとき、この特長的なパターンが出ていない人は、その日の夕方にかけて腰痛が悪化することが、約70%以上の確率で予測できるとしている。

東北大学によれば、この精度の高さは「実用化可能なレベル」だという。

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これまでにもセンサー付きの椅子で慢性的な腰痛を調べる研究は行われていたが、今回のように数分~数十分の座り方で腰痛を予測する技術はなかったそうだ。

その理由の一つは、実生活での人間の様々な動きは規則性が乏しく、数理モデル化することが難しかったからで、最新のAI技術を使うことで、腰痛などの事象の予測が可能になったという。

(出典:東北大学)
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腰痛に悩んでいる人は今すぐ実用化してほしいだろうが、今後の研究はどう展開していくのだろうか? また、テレワークになったことで、自宅などの椅子が合わず、腰痛が悪化した人もいるかもしれない。どのようにして予防するのがいいのだろうか。

東北大学の担当者に聞いた。

従来は、数カ月から数年単位の発生確率で予測

――オフィスワーカーの腰痛に注目したきっかけは?

腰痛・肩こりは国民生活基礎調査(直近令和元年)によれば、国民のおよそ10人に一人以上が症状を訴えています。かつ全ての腰痛・肩こりが医療機関で解決しているわけではありません。

仕事をしていると発生する腰痛や肩こりは起こってしまうと、仕事に集中できなくなるやっかいな症状です。

企業によってはリフレッシュタイムと称して定時にストレッチングや体操を行うところもありますが、集中しているときに仕事を中断されるのは必ずしも歓迎されていません。各自の腰痛予報ができれば、発生前に対処できるかと考えました。


――姿勢を固定しないと腰痛は起きにくいということ?

これは推測ですが、私達は関節の固定化(姿勢の固定化)を防ぐために、無意識に体を動かしていると考えています。寝返りもその一つです。


――従来の研究では腰痛予報ができなかった?

これまでの研究は、危険因子という意味での予測はできていました。

例えば「悪い」姿勢や、長時間労働などは腰痛の危険因子です。「危険因子」は、それがあると「問題(今の場合は腰痛)」が起こる確率が、危険因子がない場合と比べて高くなることを意味しています。

しかし従来は、数カ月から数年単位の発生確率でしかなく、その日に今日は腰痛が悪化するという予測(予報)はできていませんでした。気象で例えるなら、エルニーニョは気候変動の危険因子ですが、数日後に台風がくるという予報にはなりません。

腰痛を回避する方法はこれから検証

――今回の研究の「予測」や「予報」とは、具体的にはどういうこと?

朝20~30分座っているときの圧中心変位の特長的パターン(体の特長的な動き)が出現していない人は、その日の夕方にかけて腰痛が悪化する確率が約70%以上という予測ができました。

裏を返すとパターンが出現している人で、腰痛がその日の午後に悪化する確率は約30%以下という結果を得ることができました。


――従来研究と比べて、今回研究の「予測」「予報」は何が優れている?

午前中、仕事をはじめてまもなく(腰痛)予報がでれば、それを覆すあるいは回避する行動をとることができます。その行動については、経験的にはいろいろ候補がありますが、今後、検証を進めていきます。

従来研究での危険因子では、例えばよい姿勢を保つ椅子を使ってみても腰痛が結局解消されないという経験は多くの人が持っていると思います。


――姿勢矯正チェアでも腰痛になるのはなぜ?

姿勢矯正チェアでも、同じ姿勢で長時間座っていると腰痛が起きることを防げないからです。
 

予防法は姿勢を保てるチェアを使うことが基本

――研究の次の展開は?

今回は特殊なオフィスチェアを開発しましたが、どんな椅子でも動きを検出できる簡便なセンサーシステムを実現するための取り組みを行っています。


――働く人に腰痛予防のアドバイスはある?

もちろんよい姿勢を保てるチェアを使うことが基本です。デスクと椅子の高さがあっているか(仕事中前屈みになりすぎていないか)。仕事のオンオフを明確にして、その時間を越えたら適宜体を動かす休憩をとるとよいと思います。


――ちなみに研究チームの人も腰痛に悩んでいる?

はい、全員ではありませんが…私も「かつて」でした。私の場合は今、腰痛よりも肩こりが課題です。

本当はこの研究では肩こりもターゲットでしたが、今回みつけた動きのパターンからは肩こり悪化予報はできませんでした。現在肩こり予報にも挑戦中です。
 

画像はイメージ
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筆者はこの記事を書いてる途中、何度も前屈みになっていることに気づいて姿勢を改めたのだが、みなさんはいかがだろうか?

腰痛の研究進展はもちろん、肩こり予報にも大いに期待したいところだが、現状ではこのアドバイスをしっかり守って姿勢改善に努めるのがよさそうだ。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。