性的マイノリティを表す「LGBT」という言葉をよく耳にするようになった。
これは、恋愛の対象となる性が同性あるいは両性の人。そして戸籍の性と、自分の思う性が一致しない人などを表している。最近はこれらに加え、「わからない、決めたくない」というクエスチョニングのQを付けて、LGBTQなどと表すこともある。

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10月10日、金沢市で北陸初となるLGBTQの大きなイベントがあった。富山から参加した2人を中心に、地方での理解など、その周辺を取材した。

にぎやかな音楽に華やかな飾りは、虹を表すレインボー。
10月10日、北陸で初めて開かれたLGBTQの啓発イベント「金沢プライドパレード」。
性的マイノリティとその家族、友人、誰もが安心して関係を築ける街をつくろうと、9月と10月に様々なイベントが開かれた。

そのひとつが「LGBTQ+と教育ダイアログ」。
教育関係者と保護者を対象に、LGBTQの基礎知識を学び、当事者と対話をして理解を深めることを目的とした企画。

性別を変えて結婚…葛藤を抱えた結婚式

そこで講師を務めていた渋谷和泉さんと、伊吹さん。名古屋のNPO法人のスタッフとして啓発活動に取り組んでいる。

2人は2020年に名古屋から富山に移り住み、2021年3月に結婚した。伊吹さんは生まれたときの戸籍は女性だが、「自分は男性」だと感じるトランスジェンダー。
性別適合手術を経て、22歳で戸籍上も男性になった。

和泉さんは、男性を好きになることもあれば、女性を好きになることもあるバイセクシュアル。
2人が結婚を決めた理由について、聞いた。

渋谷伊吹さん:
なんだろう。結婚は紙一枚の話かもしれないけど、それによって社会的に受けられる制度が多い。これから一生一緒にいる気なら、結婚しておいた方が生きいやすいので、法的な結婚を選んだ

性的マイノリティにとって、結婚は簡単なことではない。日本の法律では、同性の結婚は認められていない。
現在は、全国で100を超える自治体が「パートナーシップ制度」を導入し、同性カップルにも異性と同様の権利を認めていて、2021年7月には北陸で初めて金沢市も導入した。

和泉さんと伊吹さんは、戸籍上の女性と男性として、法律婚をした。
しかし、LGBTQ当事者であり、啓発活動をしてきた経験から、結婚式を挙げるにあたって複雑な思いもあった。

渋谷伊吹さん:
受け取られ方として、「戸籍変えて結婚できたからいいよね」とか

渋谷和泉さん:
私はバイセクシュアルだから、「女性じゃなくて男性を好きになってよかったね」みたいな

渋谷伊吹さん:
そいうとらえられ方をしてしまうと、逆の効果や劣等感を抱かせたり、「そこまでしなきゃダメなんだ」と思わせてしまうんじゃないか、不安だった

式に招くゲストの中にはLGBTQの人もいるが、冠婚葬祭には多様な性を想定しない、伝統的な価値観が色濃く残っている。
2人の式を担当したウエディングプランナーの下之薗さんは、こんな提案をした。

キャナルサイドララシャンス ウエディングプランナー・下之薗祐美さん:
無意識にしている男性、女性のセクシュアリティを決めつける行動がないか。スタッフ全員で考えて、当日のサービスのあり方を話しあった

事前にスタッフの勉強会を開き、様々な性のあり方、マイノリティとは何かや、傷つけてしまう言動を見直したりした。そこで、新郎新婦と呼ぶところを、伊吹さん、和泉さんと名前にしたり、ゲストの男性と女性でサービスを分けないように改めることにした。

スタッフミーティングの様子
スタッフミーティングの様子

キャナルサイドララシャンス ウエディングプランナー・下之薗祐美さん:
お手洗いも、男性、女性と決めずに「こちらです」と案内したり、「誰でも使っていいトイレです」というように準備をした

そうして迎えた結婚式当日。LGBTQのシンボルであるレインボーカラーをテーマに、スタッフがLGBTQを”特別扱い”するのではなく、誰もが気持ちよく、自分らしく過ごせることを目指した。

(手紙から)
トランスジェンダーとして生きていく中で、諦めなきゃいけない事が多い人生でした。最初から、心と体が一致していれば、もっとしっかり生きられたかなと思うことも多いけれど、トランスジェンダーとして、多くの壁と向き合ってきたからこそ、人として成長できたことも多かったと思っています

この日、スタッフが胸につけたレインボーの水引のブローチ。これは、和泉さんが作ったもの。

渋谷和泉さん:
LGBTQの味方になって寄り添ってくれる人たちも、目に見えない存在だと思っていて。これを付けていることによって、「何かあったら相談して」という目印になる。そういう意味で、結婚式場のスタッフの人に着けてもらった

2人が結婚式を挙げることで、伝えたかったこととは。

渋谷和泉さん:
LGBTQの人たちも、こんなに祝福してくれる人たちが周りにいて、幸せになる権利があって、「おめでとう」と言ってもらえる権利があるんだということを伝えたかった

渋谷和泉さん:
もう一つは、私たちはトランスジェンダーの男性、バイセクシュアルの女性で、たまたま結婚できたけど、「本当にこれでいいのか」っていうのは伝えたくて。
手術をしたくてもできない人がいたり、戸籍を変えたくても変えられない人がいたり、同性のパートナーがいる人たちとか、今の法律で一緒にいたくてもいられない人、一緒に幸せになりたいけどなれない人が「取り残されている」という現状を、変えていきたいという思いがあった

少しずつ進む地方の理解

北陸は全国でも性的マイノリティへの理解が進んでいないと言われている。ある調査では、「近所の人が同性愛だったら嫌悪感を抱く」と答えた人の割合が、全国で最も多かったことがわかっている。
2人も富山に住んでみて、LGBTQの当事者が誰にも打ち明けられず、1人ぼっちになっている現状が多いと感じている。

しかし、これからは地方だからこそ、あらゆる多様性と共に生きる可能性を秘めているはずだと信じている。

渋谷伊吹さん:
地方の人はつながりが強いからこそ、そこにいろいろな多様性と共に生きることができたら、すごく生きやすい、一気に生きやすい地域になれる

渋谷和泉さん:
去年、雪がすごい降ったじゃないですか。あの時、隣のおうち同士とか知らない運送会社のお兄さんとかが、私が雪ではまっているときに助けてくれたから、そこがスゴいい街だなってすごく思ったから。多様性っていうものが加わったときに、よりステキな街になる

LGBTQのうちTのトランスジェンダーの方に関わるものだが、富山でも10月に大きな動きがあった。富山大学附属病院に、新しく性同一性障害の患者の外科治療などに対応する「ジェンダーセンター」ができた。これは北陸の大学病院で初めてのこと。

様々な調査で、LGBTは人口の約8%、トランスジェンダーは1.8%いるとされ、北陸3県では52,000人以上いると推測される。このうちすべてが性同一性障害と診断されるわけではないが、海外や遠方に行かなくても大学病院で安心して手術が受けられるのは大きな一歩となる。

そして富山大学には、LGBTQの人、LGBTQかもしれない人、もっと知りたい人など、誰でも参加できる「やわカフェ」という交流の場もある。

(富山テレビ)

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