「子どもは地域の宝物」という思いをカタチにしたまちがある。
オホーツク海に面する北海道湧別町では、地区をあげて赤ちゃんの誕生を祝っている。新しい命がつなぐ、住民の絆を見つめた。
人口約8300人、オホーツク海とサロマ湖を望む湧別町。

湧別町といえば、なんといってもチューリップ。

最盛期は5月のため残念ながら今は咲いていないが、他にもこの町ならではの名物があった。
町のどこかで赤ちゃんが生まれると…
「スピーカーから音楽」
防災スピーカーから流れるのは「ハッピーバースデー」と歌う小学生たち。中には大人も混じっている。そして…

「音花火打ちあがる」
町に鳴り響く号砲。何の合図なのだろうか?
湧別町の小学生:
湧別町のどこかで、赤ちゃんが生まれた時に花火が上がります

「音花火」が知らせる"赤ちゃん誕生"
赤ちゃんが生まれた合図として流れる音楽と打ち上がる号砲。町では「音花火」と呼んでいる。
計画したのは町内に住む主婦・宮澤道さんだ。
「子どもの誕生を祝う」実行委員会 宮澤 道さん:
子どもの誕生を祝う実行委員会を私たちが立ち上げまして、湧別町の"仲間"になったことをみんなで祝おうと始めました

宮澤さんが仲間たちと2016年から始めたこの取り組み。音楽は町内33か所の防災スピーカーから流れ、音花火は赤ちゃんが将来入学予定の小学校で打ち上げ、地域の人に新たな命の誕生を知らせる。

6年目の2021年5月に200回を突破し、今や湧別町の名物だ。
湧別町民:
あっ、また生まれたんだって思うよね。とってもありがたいです

湧別町民:
子どもは宝だって言うし、いいことしていると思います

加速する少子高齢化…出生数は年間わずか50人
しかし、町は少子高齢化が加速している。湧別町の出生数は年間わずか50人ほど。人口は減り続け、10年前には1万人を下回った。

酪農が盛んな湧別町川西地区。地区に住む65歳以上の割合「高齢化率」は約50%だ。この10年、地区で子どもが生まれるのは2年に1人ほどのペースで、地区の小学生はバスで市街地の小学校に通っている。

そんな少子高齢化が進む川西地区で9月10日、待望の赤ちゃんが生まれた。30代の酪農家、野津峻弥さん(38)と智世さん(35)の三男・維吹ちゃん(生後1か月)だ。

待望の赤ちゃんに沸く町
野津 峻弥さん:
今回はこの川西地区に(音花火を)上げてもらうように希望を出しています

川西地区には、防災スピーカーも小学校もない。そこで地区の自治会長の希望で、公民館で打ち上げることにしたのだ。

音花火の打ち上げ当日。川西地区公民館に続々と人が集まってきた。
川西自治会 小川 征一 会長(78):
久しぶりに生まれた赤ちゃんのために、ちょっとしたセレモニーをやろうと思います

この日の主役、維吹ちゃんはおばあちゃんに抱かれて登場だ。
「子どもの誕生を祝う」実行委員会 宮澤 道さん:
宮澤です、電話でありがとうございました
公民館には地区の高齢者、約30人が集まった。そして…
"地域ぐるみのセレモニー"に高まる期待
川西自治会 小川 征一 会長(78):
三三七拍子~。パンパンパン!

自治会長の音頭で三三七拍子。その張り切りに野津さん夫婦もうれしそう。維吹ちゃんはスヤスヤおやすみのようだ。
そして、紙吹雪が舞う中で花火があがり、ラジカセから音楽が流れた。
集まった町民:
維吹ちゃん、おめでとう!

防災スピーカーがない地区のため、ハッピーバースデーはラジカセから。みんなが維吹ちゃんの誕生を祝ってくれた。
野津 峻弥さん:
コロナ禍で集まるのがは初めてくらい。久しぶりでうれしいですね

川西自治会 小川 征一 会長(78):
高齢化する中で、どれほど皆 心待ちにしてるか。しばらくまたこんなことできないなと
地域住民にとってもうれしいひと時に…
維吹ちゃんの誕生は、コロナ禍で会えなくなった住民の絆をつなぐと共に、高齢者の活力にもなっていた。

子どもの誕生を祝う実行委員会 宮澤 道さん:
豊かな自然の中で、地域の人に育まれて声をかけられて育つ子どもたちというのは、一番いいことだと思ってます

みんなに祝福されたことを忘れないでほしい。あなたは私たちの希望です…湧別町の空に轟く音花火がそう告げている。
(北海道文化放送)