FNN記者のイチオシのネタを集めた「取材部 ネタプレ」。今回はFNN北京支局・岩佐雄人記者が伝える「習近平指導部が進める“ゆとり教育”政策」

中国では、子供への宿題が多すぎることが社会問題化。さらに塾などの教育費の負担が少子化の背景にもなっていて、政府は突如、学校での宿題を制限。営利目的の塾は禁止という、極端な政策を打ち出した。

多すぎる宿題を規制する政策

FNN北京支局・岩佐雄人記者:
中国では、政府が小中学生への負担を減らす政策を突如打ち出して大混乱が生じました。負担というのは2つあります。1つ目は「宿題の負担」、2つ目は「塾の負担」です。2つの負担を減らすという意味で「双減政策」と名付けられ、最近も連日テレビや新聞などでその「素晴らしさ」というのが宣伝されているんです。

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まず、宿題を減らすということについて説明します。

2021年3月に取材をした当時小学1年生の男の子です。小学1年生ですが、毎日国語や数学、英語まで宿題が出されて、朗読や詩の暗唱などの課題については、証拠動画を撮影して提出しなければいけないということです。

2017年に実施されたある調査だと、小中学生が毎日宿題に費やす時間は平均で2.83時間。これは世界最長クラスとみられます。中国では共働き家庭が一般的なので、子供はもちろん宿題を見る親の負担も非常に大きいということで社会問題になっていました。

今回、政府の通知だと、親が子どもの宿題を手伝うことは禁止とされて、小学2年生までは宿題なし、小学3年生以上も1日1時間、中学生も1時間半程度で終わるようにしなさいということでかなり具体的に定めているんです。

中国は少子高齢化が進んでいて、2人っ子政策を3人っ子政策に緩和するなど、何とか子育ての負担を減らさなければいけないというのがこのゆとり教育政策の背景にあるんです。

加藤綾子キャスター:
それで宿題の量を国が急に決めるっていうところが何だが独特だなって思いますね。

“高すぎる塾”を政府が禁止

FNN北京支局・岩佐雄人記者:
2021年8月、中国北京市内にある中学生・高校生に理科を教える塾だということですが、今封鎖されていて机や椅子が雑然と置かれたままになっています。

これは双減政策の通知が出た直後に取材をした北京市内の学習塾の様子です。塾がある辺りは名門校の近くということで特別多くの塾が集まるエリアですが、その周辺にある塾が一斉に閉鎖したんです。

塾の負担を減らすというのがどういうことかというと、お金の負担を減らすということなんです。

北京のような大都市にいる子育て世代に聞くと、塾代に月1万元(日本円で約17万円)。こうした家庭が珍しくないです。ある試算だと、1人の子供が生まれてから独立するまで、北京市の場合約4700万円かかるという極端ですがとんでもない試算もあり、教育費の高さというのも少子化の一因とされています。

この庶民の負担をどうやって解消するかと打ち出されたのが「塾の規制」です。今回の政府の通知だと、学習塾を新しく開くことは禁止。今ある塾も続けるには非営利にしなければいけません。運営費(月謝など)は政府が管理するとしています。休日・夏休み・冬休みの授業も禁止されました。

教育費の高騰の裏返しでもありますが、中国の教育産業というのは“超成長”産業でした。2010年から2020年までの10年間で教育関連企業は78万社から412万社まで増えていました。中にはAIなどの最新技術を教育分野に生かした注目企業も多くありましたが、いずれの株価も暴落して大パニックになりました。

宿題の禁止に塾の禁止は相当極端な政策ですが、市民の反応どうなのか聞いてみました。

北京市の女性:
とてもいいと思います。子供は楽になって喜んでいます。

北京市の男性:
とてもよかった。子供の負担が軽くなって健康に成長できる。

北京市の女性:
進学の試験がある限り意味はないと思います。

FNN北京支局・岩佐雄人記者:
中国の一発勝負の大学入試高考(ガオカオ)が有名だと思いますが、受験戦争の厳しさは今のところ変わりはありません。子供にできるだけいい教育を受けさせたいというのは、日本と変わらず根強いものがあるんだと思います。

そこで、どういうことが起きているか中国メディアによると、この規制が出た後、住み込みの家政婦さんを月約50万円の給料で募集をしいたが、実際は家庭教師の募集だったというような話や、表向きはミルクティーの店だけど、そのミルクティーが一杯500元、日本円で約8500円。ミルクティー代として授業料を集める“闇塾”というケースまで出てきているということです。

中国は昔から「上に政策あれば下に対策あり」と言われるような庶民がしたたかに抜け道を探すような国なので、今回の政策も一筋縄にはいかないかもしれません。

格差が固定化され分断が激化

加藤綾子キャスター:
住田さん、“ミルクティー”が高額な値段でという「闇塾」まで…どう思いますか?

住田裕子弁護士:
中国の場合やむを得ないのは、ステップアップするためには今のような受験戦争の中で勝ち抜かないと上に上がれないんですよ。そういう切実な部分もあるわけで。

それをこうやって封じることで現実に何が起きるかというと、お金や時間がある上の部分だけが子供にものすごく注ぎ込んで受験戦争で有利なコースに行けるような形になり、かえって格差固定化とその分断が激しくなるのではないかと思います。この分断があることによって今の体制が続くかどうかは、今本当に問われてるところだと思います。

(「イット!」9月29日放送より)