安倍首相の施政方針演説で注目された韓国への言及がまた変化

安倍首相の施政方針演説・20日
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1月20日、2020年代最初の国会となる通常国会が召集され、安倍首相が施政方針演説を行った。この中で安倍首相は、今年の東京オリンピック・パラリンピックを最高の大会とし、新しい時代へと踏み出そうと呼びかけた。その上で全世代型社会保障改革や温室効果ガスの削減などに取り組む決意を示し、憲法改正の議論を進めるよう呼びかけた。一方、外交面では韓国への言及に変化が見られた。

「最も重要な隣国」韓国重視の表現が久々の復活

日韓首脳会談・2019年12月

安倍首相はこの演説の外交に関するパートの中で、「新しい時代の日本外交を確立する。その正念場となる1年だ」と訴えた。そして個別の国との二国間関係について言及したが、その中で、韓国に関する言及は、「北東アジアの安全保障環境が厳しさを増す中で、近隣諸国との外交は極めて重要になっています」と、北朝鮮に向き合う意味でという前提を付けた上で、以下の内容となった。

「韓国は、元来、基本的価値と戦略的利益を共有する最も重要な隣国であります。であればこそ、国と国との約束を守り、未来志向の両国関係を築き上げることを、切に期待いたします。」

今回の演説での韓国に関する文言で最大のポイントは「基本的価値と戦略的利益を共有する最も重要な隣国」という表現が復活したことだ。では一体どれくらいぶりの復活で、そこにどういう意味があるのか。そこでここ数年の施政方針演説をさかのぼって、今年の表現と過去の表現を比べてみたい。まず去年の表現を見てみよう。

2019年施政方針演説
(北朝鮮をめぐる段落の中で)「米国や韓国をはじめ国際社会と緊密に連携してまいります」

去年はこのように、韓国についての段落を設けず、北朝鮮に関する言及の中で韓国との連携に触れるだけという「韓国スルー」だったのだ。この扱いは元徴用工問題や韓国軍による自衛隊機へのレーダー照射などを機とした日韓関係悪化を象徴する変化だった。続いておととし以前にさかのぼって演説を見てみる。

2018年施政方針演説
「韓国の文在寅大統領とは、これまでの両国間の国際約束、相互の信頼の積み重ねの上に、未来志向で、新たな時代の協力関係を深化させてまいります。」

2017年施政方針演説
「韓国は、戦略的利益を共有する最も重要な隣国です。これまでの両国間の国際約束、相互の信頼の積み重ねの上に、未来志向で、新しい時代の協力関係を深化させてまいります。」

この文在寅大統領の就任前の時点である3年前の演説までさかのぼって初めて「戦略的利益を共有」そして「最も重要な隣国」という言葉が復活した。つまり今回は、文在寅政権になってから初めて韓国を「最も重要な隣国」と定義したことになる。では「基本的な価値の共有」という表現の使用はいつ以来なのか。もう少し時をさかのぼってみる。

文在寅大統領2020年新年演説

「基本的な価値の共有」は2014年以来6年ぶりの復活

2016年施政方針演説
「韓国とは、昨年末、慰安婦問題の最終的かつ不可逆的な解決を確認し、長年の懸案に終止符を打ちました。戦略的利益を共有する最も重要な隣国として、新しい時代の協力関係を築き、東アジアの平和と繁栄を確かなものとしてまいります。」

2015年施政方針演説
「韓国は、最も重要な隣国です。日韓国交正常化五十周年を迎え、関係改善に向けて話合いを積み重ねてまいります。対話のドアは、常にオープンであります。」

2014年施政方針演説
「韓国は、基本的な価値や利益を共有する、最も重要な隣国です。日韓の良好な関係は、両国のみならず、東アジアの平和と繁栄にとって不可欠であり、大局的な観点から協力関係の構築に努めてまいります。」

この2014年になって、「基本的価値を共有」という表現が出てきた。この「基本的価値」という言葉には自由や民主主義、人権重視という意味が込められている。それが2015年に消えたのは、産経新聞のソウル支局長が当時の朴槿恵大統領に関する記事をめぐって起訴された事件が背景にあった。今回は、それ以来の「基本的価値を共有」の復活になるわけで、いわゆる元徴用工をめぐる問題がまだ解決していない中では、破格の扱いにも見える。

ただ、忘れてはならないのは、その「最も重要な隣国」としての韓国は「元来」=つまり元々はそうだったという、過去形の意味を匂わせている点だ。今一度、今回の文言を見てみる。

「韓国は、元来、基本的価値と戦略的利益を共有する最も重要な隣国であります。であればこそ、国と国との約束を守り、未来志向の両国関係を築き上げることを、切に期待いたします。」

このように日本として、「韓国さんあなたは本来『基本的価値』も『戦略的利益』を共有する重要な隣国なんだから、元徴用工問題では、しっかり日韓請求権協定を守ってくれよ!」「過去の歴史問題にとらわれすぎず、未来志向の関係を築こうよ!」というメッセージを切実に送っている形になっているのだ。

慰安婦像

去年後半には、韓国が土壇場でGSOMIA=軍事情報包括保護協定の破棄をとりやめ、日本側も韓国への輸出管理強化について一部見直すなど、お互いに関係改善のためのカードを切る局面が起きた。今回の文言からは、その流れを肯定的に受け止めつつ、文在寅大統領を含む韓国側が、元徴用工問題をめぐっての日本企業の資産の現金化など、日韓関係が破綻するような行動をとらないよう釘を刺す意味合いが見て取れる。

茂木外相が元徴用工問題について「少なくともボールが韓国側にあるというのは間違いない」と語るとおり、このメッセージを韓国側がどう受け取り、国際法違反の状態解消に向けてどんな具体的行動をとるかが今後の日韓関係を左右することになる。

元徴用工問題などをめぐる韓国のデモ

施政方針演説でも表現の後退は明確。来年の国会でも“抗議”か

日韓首脳会談・2019年12月

また、安倍首相は韓国以外の外交に関しては、北朝鮮について、ミサイル発射などの挑発への批判は避け、日朝平壌宣言に基づいた国交正常化を目指す方針や、拉致問題解決のための金正恩委員長との首脳会談への意欲を示した。またロシアをめぐっては、「領土問題を解決して平和条約を締結する。この方針に、全く揺らぎはありません。私と大統領の手で成し遂げる決意です」とプーチン大統領との交渉を通じ、北方領土返還を実現する意欲を示した。

こうした施政方針が演説上の「決意」に留まるのか、それとも目に見える結果を出すことができるのか、安倍首相の任期切れが徐々に近づいていく中で、「安倍外交」の真価がより一層問われる1年となりそうだ。

(フジテレビ政治部デスク 高田圭太)